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SIDEフオウ:日常6

「へ~、ミディさんは買出し頼まれたんだ」


 背丈の二、三倍はあるだろう荷物を抱え、フオウはそいつに相槌を打った。

 フオウとメイリィの横には、小さな少女が居た。

 背丈は百四十前後。肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子。


 名前はミディ・ネリィというらしい。

 童顔で目がクリクリとして愛らしい。

 優しそうな目と線の細い体が特徴的だった。


「そ、そそそ、そうなんです……」


 照れたように真っ赤になりながらビクビクと話しているのは、多分さっき倒れた時のせいだろう。

 彼女がフオウの目の前から迫ってきた買い物袋たちのご主人様だった。

 バランスを取るのに夢中で俺たちに注意がいってなかったらしい。


 そのせいで……

 あの状況を思い出す。

 フオウの前後で雪崩が起きた。

 降りかかってくる買い物袋たち、慌てるフオウ、後ろから買い物袋に押し倒されて、気がつくと……真っ暗だった。


 初めは死んだかと思ったものの、目が慣れてくると、目の前に何かがあった。 

 左右で区切りのある左右にヒラヒラのついた何か。

 それから飛び出るように左右に伸びた太い何かは暗闇の外の方まで伸びているようだった。


「ふ、ふ~ちゃん」


 慌てた声がして光が差し込んだ。

 光が当たって露になる目の前の白い布地の何か。【みでぃ】と刺繍してある。 

 そこから突き出るように伸びた肌色の……あれ? これは見覚えがあるような……

 そうだ、昔キリスの着替えに遭遇してしまった時のある一部分だった気が……


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ」


 悲鳴と共に強烈な衝撃が後頭部を襲った。

 フオウの意識がそこで一端途絶えた。

 運良くあの病気が発動する前にフオウの意識が消えたようだ。


 っと、よくよく話を聞けばミディのスカートの中だったようで、メイリィがフオウを蔑むような目で見るようになってしばらく、血を吐くような苦難の末、なんとかミディと会話できるくらいにはなった。

 とはいえ、フオウと話すたびに挙動不審になるミディを見ているとかなり落ち込む。

 不可抗力なだけに謝るべきなのかどうか……


「ふ~ちゃんのエッチ」


「いや、待て、さっきから不可抗力だって……」


「ふ~ちゃんのエッチ」


 どうやらこいつは俺を変態君にしたいらしい。と呆れるフオウ。


「いいですよぉ……ちゃんと前を見てなかった私も悪いですし」


 遠慮がちに笑ってみせるミディ。

 フオウと目が合い気まずそうに視線を逸らした。


「あ、あああ、あの、こ、ここ、ここでいいです」


 夕日を浴びながら気不味い雰囲気の中、公園辺りに差し掛かった頃のこと、不意にミディが声を張り上げる。


「そ、そうか? それじゃぁ……」


 荷物を渡そうとして、不意に手が触れそうになる。フオウは慌てて身を引いた。


「え? あ? はれ?」


「あ、ごめ……」


 慌てて下がった俺、後ろに来ていたメイリィにぶつかりかけたので前に踏みだし……


「うわわっ!?」


「ひゃぅっ!?」


 ミディを巻き添えにしてこけた。


「いつつ……悪い、だいじょう……」


 手が……柔らかいものに触れていた。

 ふにふにとしたそれは、どうみてもいたいけな少女の膨らみ。女性の感触……


「あ……い……」


 本来なら、ここでミディが悲鳴を上げて、メイリィがフオウをひっぱたく。

 そういうものがラブコメ的なものなのだろう。

 でも、実際に悲鳴を上げたのは……


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 フオウだった。

 咄嗟に突き放すように飛び退き路傍に蹲る。

 そして呪詛の様に言葉を洩らす。


 恐い。恐ろしい。悪魔が来る。あいつが来る。あいつと同じ身体を持つ生物。

 きっとあいつと同じように俺を……


 ぶつぶつと呟き始めたフオウは狂気に染まった顔で震えている。

 その豹変ぶりにミディは思わず大口開けたまま見入ってしまっていた。

 理性すら押しのけて包み込んでくる恐怖感。

 フラッシュバックする心の傷。

 逃れられない厄災の記憶。


「あああッ! ああああああああッ! うああああッ」


 フオウの慄きように唖然とするミディとメイリィ。

 少し遅れて我を取り戻したメイリィが荷物を捨ててフオウに駆け寄る。

 身をできる限りに抱え込み、身体を小刻みに震わせ恐れおののくフオウ。


「来るなッ! 来るなぁぁぁッ!」


「え? あ……え?」


 どうすればいいのか? どうなっているのか理解できないミディは目を白黒させるばかりでどうすることもできない。


「大丈夫だよふ~ちゃんッ! もう居ないから、あいつはもういないから……」


 錯乱するフオウをなだめようと必死に声をかけてくるメイリィ。

 分かってる。頭では分かってるのだ。

 フオウも頭だけは冷静に現状を把握してる。


 でも、それでも体が、感情が……女性という生き物を拒絶する。

 あれは恐ろしいものだと警告してくる。

 分かってる。全ての女性がそうじゃないって事くらい。でも……

 十分は震えていただろうか? ようやくフオウの意思で体が動きだす。


「……ごめん、ミディさん……」


「え? あ……うん……」


 フオウが震えている間にメイリィから説明されたミディは複雑な顔で頷いた。


「と、とにかく、み~ちゃんのせいじゃないってことは確かだからね」


「あ、はい……その、大変ですね」


 愛想笑いを返して立ち上がる。

 フオウたちはそのままミディに別れを告げて帰路に着いた。

登場人物


 №001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体

   能力名:??? 死亡


 №441 イルル・キリク ???の因子を持つ女性体。

  麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。

   能力名:再生の焔

     優雅なる火炎のエクセレンス・フレア

       :掌から発生する炎の玉。

     消える事無き命のザ・ニューライフ

       :再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。


 №444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。

   能力名:空気操作


 №445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。

  肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。

   能力名:禁止

     我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)

       :シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。


 №446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。

  ショートカットの黄色の髪の活発な少女。

   能力名:???


 №482、ヤオ・ソーティア

  ポニーテールの女。

  黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。

   能力名:???


 №998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。

  エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。

   能力名:光線操作

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。


 №999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。

   能力名:コピー&ペースト

     我は汝が力を複製する(コピー)

       :シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。

    コピー済み能力

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。

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