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ラブ・ストーリーズ

警官と容疑者~取り調べにて~

作者: 高見 リョウ

 トントントン…。

ペンで机をたたく音が、室内に響き渡り、その部屋にいる男女二人のにらみ合いは、もう1時間以上も続いていた。

「いい加減、認めたらどうなのよ」

「俺は誘拐なんてしてない」

 そもそもここは、とある町の少し大きめに作られた交番の一室であり、現在取り調べの真っ最中なのだ。

 現在あらぬ疑いをかけられ、取り調べを受けているのは、西山宅也。歳は23歳のスポーツインストラクターである。そして取り調べをしている女性警官は、木島純菜。歳は22歳である。

「俺の子の顔が、うそついてる顔に見えるか?」

「うそつきの顔にしか見えない…。そしておそらく」

「おそらく?」

「ロリコン‼」


 なぜ、西山宅也という若いスポーツインストラクターが、警察から取り調べを受けているのかという経緯は、時間を2時間半ほど戻して話さなければならない。

 市が運営する体育館にあるスポーツジムで働く西山宅也は、本日は早出の勤務ということで、午後四時までに仕事を終えて、徒歩で自宅に帰ろうとしているところであった。季節は冬もあけ、春めく季節ではあるが、午後四時になると太陽はだいぶ西に傾き、日影が大きくなり、風が吹くと肌寒かった。そんなこんなではおりをバッグから取り出し、それに腕を通しながら歩いていると、だっだぴろい体育館の専用駐車場から女の子の鳴き声が聞こえた。

 宅也はその声の方向に慌てて振り向いた。そこには、見るからに幼い女の子が、駐車場を歩きまわりながらさまよっている姿があった。

「危ない…」

宅也はそう感じた。駐車場は普通に車が通るところであるし、少しそこから出ると、もう車道へとつながっていくからだ。

 宅也は急いで女の子の方へと駆けて行った。

女の子の所へ行き、女の子の目線に合わせるようにしゃがみこむと、宅也は「どうしたの?」と女の子に尋ねた。

「ママが…。すぐ帰ってくるっていたのに、帰ってこないよ…」

「ママが帰ってこないの」

宅也は女の子の手を握ると、優しく抱きかかえた。


 女の子の話を聴くと、どのような状況に女の子がおかれているか大体わかってきた。体育館の近くにある公園で、女の子は自分の母親と遊んでいたが、その母親は、「体育館に用事があるから行ってくる。ここで遊んでいなさい」と女の子に言い残し、その場を立ち去った。女の子は、母親から「すぐ戻る」と聴いていたのだが、なかなか戻らないから、不安になり、体育館のところへ母親を捜しに来た。

 宅也はその話を理解しただけで、女の子のことが、かわいそうになった。

「怖かったね…よく頑張って話してくれたね。名前は?」

「れいな…まだ5歳だから。その名前しか書けないの」

「すごいね!れいなちゃんは5歳で名前を書けるのか」

れいなちゃんの言葉は片言で、まだ怯えているようには見えたが、泣くのは少しおさまったように思えた。抱っこしている宅也の首に自分の腕をしっかりと巻きつけていた。

 それから、母親がいるはずの体育館の中に入ろうとしたが、そこで恰幅のいい男の人が中から出てきたとき、れいなちゃんは泣き出し、中に入るのを拒みだしたので、母親が出てくるのを待つことにした。

 それからしばらくして、後ろから女性の声が響いた。

「れいな!れいな!」

「ママ‼」

宅也が振り返ると、そこにはれいなちゃんの母親らしき人物がいた。どうやら、公園に近い体育館の裏から出てきたらしい。そして公園に行ってもれいなちゃんはいないので、捜しに来たのだろう。

 それから、宅也がれいなちゃんを母親に引き渡そうとした時だった。

「うちの子をどこに連れて行ってるのよー!」

母親は怒っていた。

「警察よ!警察―‼」


 そして、警察の取り調べを受けることになってしまったのだ。最初は、木島純菜という若い警官の他、大柄のベテランらしき警官もいたのだが、町内の市場でけんかがあったとかで、仲裁に行き、結局、交番の取調室には、誘拐罪の容疑者西山宅也と若き女性警官の木島純菜が残されたのだ。


「ロリコンってどういう意味だよ!」

「そのまんまの意味です」

しかもやけにこの女性警官は、気が強くて高飛車だ。そんな印象を宅也は受けていた。

「私…今日はもうすぐ勤務が終わるから、早く認めてよ」

「認めるわけがないだろ!普通に迷子を助けただけなんだから」

宅也は冤罪被害者になるのだけは絶対にいやであった。家族に被害が及び、人生がめちゃくちゃになってしまう。そのことをこの若い女性警官は、分かっているのだろうか。


 しばらくの沈黙が続き、再び純菜が持っているペンで、机をたたく音だけが、リズム良く響いていた。宅也は睨みつけるように純菜をまっすぐ見ていた。

 純菜は下を向いていらいらとしていたが、その顔は宅也から見ると、結構可愛いものであった。太めの眉毛に、クリンとした大きな目。宅也にとってはタイプなのだが、性格はタイプではない。宅也がそんなことを考えていると、純菜が不意に顔を上げ、宅也と目が合った。

「何エロい顔して、ジロジロ見てんのよ」

「見てないよ…、なんでお前なんかにドキドキしなきゃいけないんだよ」

「は?ドキドキ?」

「してないよ‼」


 純菜は、なんだか自分のリズムを狂わされているみたいだった。純菜は、小さな女の子が傷つけられる姿を見過ごすわけにはいかない。そして、傷つけた人も許すわけにはいかない。ただ、誘拐とわめいていたのが、母親だけで、女の子は宅也の顔をじっと見ていたのが純菜の気になるところであった。

 純菜は、かたくなに「やってない」というこの男が本当にやっているのかと、考え始めていたが、国家権力の警官に対して敬語を使わないこの態度が気に入らなかった。


「やっぱりスケベだ」

気づいたらこんなことばかり話している。

「だれがスケベだよ!なんでお前みたいな女なんか」

「私だって、モテるわよ」

話はあらぬ方向へ進み始めていた。

「へぇ~物好きな男もいるものだ」

「今までに彼氏だって…」

「何人?何人いるんですか?」

「…」

純菜は今まで、彼氏ができたことなど一度もない。その原因はこの男勝りな性格であろうか。純菜は子どものころは、ボクサーであった父のジムによく行き、サンドバッグをたたいていたので、喧嘩は男より強かった。

「いないんだ!」

 宅也は純菜の彼氏がいないということが分かると、なぜだか少し笑顔になっていた。

ちなみに、宅也が今置かれている状況は、“誘拐の容疑者”である。

「いないですよ…」

「へぇ~」

純菜は、宅也をにらみつける。

「警官ってね、忙しいの。けんかの仲裁にはいかなきゃいけないし、ちょっとしたことで私たち呼ぶ人だっているし、パトカーをタクシー代わりに使うために電話してくる人もいるし。プライベートになったら性格だってねじれるわ!」

宅也は気まずそうな顔なったが、うっすらと笑い顔であった。

「なによ…、勝ち誇った顔して、あんたは彼女とか居るの?」

「…いない」

純菜もクスッと笑ってしまう。

「子どもほしいから…、彼女はほしいのだけど…」

宅也はつい本音を言ってしまう。

「だから…誘拐したのか?」

「だから、迷子をたすけただけだって」


 それから室内は静まり返った。もう言い争う気力もなくなってしまったのか、二人はため息ばかりついていた。

「ただいまー」

あの大柄の警官が帰ってきた。

「純菜!またれいなちゃん見たぜ。「用事がある」っていうから、あの親子を帰したのに」

「どこにですか?」

純菜は水を得た魚のように、威勢を取り戻し、大柄な警官に食いついた。

「あそこだ…市場のゲームセンター」

「一人で?」

「あぁ…心配だから声かけたら。「ママが買い物して戻ってくるまで遊んでて」と言われたらしい」

 それを聴いた純菜は急いで、電話の方に向かい、電話をかけ始めた。

「れいなちゃんのお母さん、藤田佐智代さんの携帯でしょうか?…。はい…すぐにれいなちゃんと来てください」

純菜の声には、覇気がこもっていた。


 れいなちゃんと佐智代という母親は、それから数分後、再び交番へやってきた。純菜の導きで、交番の取調室に入る。

「この男は逮捕されますよね」

開口一番、佐智代はそう言ったが、純菜は佐智代に強く話しかけた。

「れいなちゃんをどうして一人にするのですか?」

「どうしてって…足手まといになるじゃない?だから遊ばしといた方がいいのよ。この子にとっても」

「はぁ?」

宅也はどうやらあきれ返ってしまったようだ。

「あなた…子どもを少しでも置き去りにした時点で、犯罪になる国もあるんですよ‼」

純菜は本気で怒った顔になっていた。


次に、純菜は宅也の方をっ振り向くとニコッと笑い、れいなちゃんの方を向いた。

「れいなちゃん。お姉ちゃんに本当のこと話してくれないかな?このお兄ちゃんはいい人?悪い人?」

「何を聴いてるの?」

れいなちゃんは、佐智代の方を見るといきなり怯えだし、口をきつく締めた。

「れいなちゃん?」

純菜は、その異常なほどの怯えを見ると、れいなちゃんの耳元で、

「大丈夫!もう怖くないよ」と言って、れいなちゃんの服の袖をまくりあげた。

「やっぱり…」

れいなちゃんの腕には、大きな傷がいくつもあった。

大柄な男が、佐智代の近くに行き、話しかける。

「あれは、殴られた跡です。あの怯え方から見て、あなたは常習的に虐待をしていましたね。警察は騙せませんよ」

「あぁー‼」

佐智代は頭を抱えてふさぎ込んだ。

れいなちゃんは、宅也の顔を見ると一気に泣き出した。

純菜は、静かにれいなちゃんを抱きしめて、もう一度問いかけた。

「あのお兄ちゃんは、いい人?」

れいなちゃんは、純菜の胸の中で、母親に見られないようにうなずいた。


 その後、れいなちゃんは、体のあちこちにあざがあり、あまりにひどかったので、純菜が児童相談所に電話をし、引き取ってもらうことにした。


 宅也が外に出た時、もう町は暗くなっていた。宅也が出てすぐに純菜が私服に着替えて交番から出てきた。その純菜の私服は、宅也から見ると、とてもかわいいものであった。

「あら…まだいたの?」

「いや…、ありがとう」

宅也からの感謝の言葉を聴いた純菜は、キョトンとして、固まっていた。

「いや…こちらこそ、犯人扱いしてゴメン」

 それから沈黙の後、宅也が純菜に向けて、声をかける。

「あまりさ…イライラしなかったら、彼氏できるよ」

「はぁ?」

純菜は、はずかしくて両のほっぺをおさえている。

「彼氏なんて…、諦めてる。私のこと…取り調べの時、可愛いって思った?思わなかったでしょ?」

宅也は微笑んで、純菜に近づいてその顔を見る。

「ちょっと近い!」

「可愛いって思った」

宅也の言葉に、純菜は慌てて、後ろを振り向く。

「なんてね…じゃあね」

宅也もなんだか自分の行動が恥ずかしくなり、純菜に背を向け、自宅へと歩き出した。

「ねぇ!」

純菜が不意に宅也を呼び止める。

車が通る音が、そこにはうるさすぎるぐらい響いていたが、それをかき消すような大きな声で純菜は宅也を呼び止めた。

「メルアド教えて!今度ご飯でも食べに行こう。どうせ彼女いないから暇なんでしょー‼」

その声は宅也までしっかりと届いた。

宅也はニッコリと笑い、純菜に再び近づいた。

「いいよ!木島純菜さん」


 私が、交番を眺めていて思いついた作品です。

走り書きしました。

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