表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『僕』と『君』の話

君はヒーロー

作者: hibana


 英雄は僕の目の前で、ふて腐れたように言った。

「大体この国のやつらは身勝手だ」

 そんなのどこの国もだろう、と僕は呆れる。


 この国のヒーローはとてつもなく強く、国民の憧れでもあった。しかしそんなヒーローの本当の顔を知っているのは、僕だけだったように思う。だった、でいいはずだ。これからそれを知る人間などいない。




 英雄は英雄の仕事を放棄した。少なくとも周りの人間にはそう見えたはずだ。助けを求める人々の間を掻き抜け、彼は逃げた、と。そうではないと国民が知るのは、悪戯っ子のような顔をしたヒーローを捕まえた時だった。




「こっちはなんの見返りも求めずにやってるんだぜ?それなのに、ちょっとばかり後回しにされたからって俺を捕まえて。仕事中に恋人にキスしに行ったくらいで、俺を殺すってさ。身勝手だろ」


 僕はため息を吐いた。


「君が仕事を放棄したら、ただの怪物だろう?」


 怪物はふて腐れ顔をした。子供のように頬を膨らませ、お前もそう思うのかと問うてくる。僕は少し考え、静かに頭を横に振った。そうかそうかと、彼は満足げに頷く。


 どうしてこの男は、こんなにも愚かしいのか。

 どうしてこんな愚かしい男を、僕は好きになってしまったのか。


「僕はね、ずっと君に憧れてたんだ」


 相棒として、ずっとこの男のそばにいた。対等だと思っていた。もちろん強さでは勝てやしないが、この男をサポートできるのは自分しかいないと自負していたし、この男に恋人ができたときはそれなりにショックだったが、自分達はそんなものを超えた関係だとも思っていた。


 相棒だった憧れの人は、おいおいと茶目っ気たっぷりに言う。

「今も、だろ?」

 僕はなにも言えなくなった。




 彼が処刑台にのぼる前に、僕はどうしても尋ねたいことがあった。

「なあ、どうして逃げない?」

 ヒーローは、くそ真面目な顔で振り向く。


「そんなことをしたら、お前が困るだろう?」




 今まで散々持て囃してきたくせに皮肉なものである。公開処刑は満員御礼で、誰もが口々に怪物となった英雄を罵っていた。僕はそれをただ、見つめていた。


 その瞬間、流石に人々がしんとなった。

 彼はニヤリと口角を上げ、言った。


「愛してるぜ、お前ら」


 プツンと何かが切れる音。それが現実にした音なのか、自分のなかでした音なのか、僕にはわからなかった。




 嗚呼、そうだった。この男は、痛々しくて目をそらしたくなるほど、


「ヒーロー……!!」

 誰かが叫ぶ。


 目をそらしたくなるほど、真っ直ぐな男だった。


「さよなら英雄(ヒーロー)


 呟いた声は思ったよりも明瞭(はっきり)で、世界が一つ、終わった気がした。

私が見た夢から。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ