あの夏のきみを忘れない
企画作品
ジャンル『詩』キーワード『夏』
詩など長い間書いていなかった為、とても苦しみました。
規定の字数に足りませず、力不足お許し下さい。
あの夏を駆け抜けたきみを今も忘れない
四季なんて忘れていたぼく
窓という窓にカーテンをひいてもう二度と外の風を感じる気もなかったぼく
その窓を優しく開けて入ってきたきみ
きみと共に忘れていた夏の風が頬に触れた
青い空が見えた
白い雲が見えた
蝉の声
むっとする熱気
忘れていた当たり前の夏の世界をぼくに示したきみ
それでもぼくは閉じこもろうとした
眩しい程の強い陽射しは見たくないものも照らし出してしまう気がしたから
嫌なものを見るくらいなら
何も見えない闇の中にいる方がましだと思っていた
嫌なものを見尽くして心が壊れてしまったから
辛い思いをする位なら幸せなことなんてなくていい
そう思っていたぼくの手をひいて
きみは色んなものを見せてくれたね
閉ざされた部屋の中で
波に洗われた小さな白いかいがらを手に乗せてくれる事から始まった
静かな海のようなぼくときみとの関係
ぼくが拒んだら優しくひいて
ぼくが追えば近づくきみは
さざ波のようにぼくの心を揺らしていった
そしてとうとう明るい夏の陽の下に立ったぼくは
ぼくの街は ぼくの周りは ちっぽけな世界で
青い空は無限の果てまで続いている事を思いだした
空の下にはたくさんの思いが渦巻いて
熱い風にのって昇華されてゆく
砂浜を駆けたきみ
忘れていた幼なじみ
いつだってきみはそこにいたのに
ぼくたちは一緒に駆けたね
砂に足をとられて転んで笑い合ったね
笑うことを忘れていたぼくが笑ったのを見てきみは
うれしいと呟いたね
暑い夏の日に食べるアイスがこんなに美味しいんだって
子供の頃には当たり前に知っていた事をきみは改めて教えてくれた
湿った潮風が髪を嬲った
ぼくたちは夕日が水辺線に落ちるのを並んで見たね
夏が秋になる頃
きみは突然いってしまった
あの輝かしい光に包まれて弾けたきみが
冷たく小さな壺の中で
黒枠のなかの写真で
動かない笑顔をみせている
でも
あの夏を駆け抜けたきみを今も忘れない
きみが教えてくれたこと
どこまでも突き抜ける空
弾けた汗
熱い風
近づいた吐息
青い夏
ぼくにはきみがいてくれたこと
世界は敵意に満ちてるばかりじゃないっていうこと
生きるという事は可能性の宝庫だっていうこと
きみの代わりにぼくは感じながら生きていく
あの夏を駆け抜けたきみを今も忘れない