第九章第三話
覚醒した若きシャドーコンビ・浅倉と桐島、そして可変システムをJ1仕様へと完全アップデートさせた「プリズンガーディアン島根」の進撃は、リーグ後半戦の台風の目となった。
連勝に次ぐ連勝。
死のロードを耐え抜いた公務員ストライカー・響木の圧倒的な勝負強さと、大卒CBコンビ(神矢・佐伯)を中心とする鉄壁の守備網が噛み合い、島根は怒涛の勢いで勝ち点を積み上げていく。
そして迎えたリーグ最終節。
島根は最下位を脱出し、奇跡的に「16位」まで浮上。自動降格(17位以下)の絶望を回避し、J1残留の最後の切符を懸けた「J1・J2入れ替え降格プレーオフ(PO)決勝」へと駒を進めたのだった。
運命の降格PO決勝。
対戦相手は、J2を圧倒的な攻撃力で勝ち上がり、勢いに乗るJ1昇格組の強豪クラブ。
勝てばJ1残留、負ければ即J2降格。一瞬のミスも許されない、文字通りの「泥沼の死闘」が始まった。
『ピィィィッ!』
冷たい雨が打ち付ける超満員のスタジアム。
相手チームは立ち上がりから、J1残留のプレッシャーに押し潰そうと猛烈なハイプレスと肉弾戦を仕掛けてきた。
「絶対にはじき返せッ!!」
農協CBの大河原、大卒CBの神矢と佐伯が、泥まみれになりながら身体を投げ出してシュートブロックを連発。最後方ではGK桐生が幾度となく決定機を阻止するが、雨で重くなったピッチと極限の緊張感が選手の体力を奪っていく。
前半を『0 - 0』で耐え凌いだものの、後半20分、相手のセットプレーから一瞬の隙を突かれ、手痛い先制点を許してしまう。
『0 - 1』。
スタンドを包み込む絶望的な空気。
残り時間はあとわずか。このまま終われば、島根のJ1での挑戦はわずか一年で幕を閉じる。
「諦めるな! まだ終わっていない!!」
声を張り上げたのは、ピッチ上の誰よりも過酷な二足の草鞋を履き続けてきた響木蒼生だった。
その力強い叫びに、限界を迎えていた選手たちの瞳に再び熱い炎が宿る。
法条監督がすぐさま動く。
「総攻撃だ! 浅倉、桐島! ラインの間で受けて相手を攪乱しろ!」
覚醒したシャドーの二人が、雨のピッチを縦横無尽に駆け巡る。
右シャドーの浅倉が緩急をつけた高速アジリティで相手DFの足を止めさせ、左シャドーの桐島が相手の隙間を突く鋭い縦パスを通す。
そして後半40分。
桐島のパスを受けた浅倉がペナルティエリア内に侵入し、相手DFを引きつけて絶妙なマイナスのクロス!
中央へ飛び込んできた響木が、相手CBの裏へ抜け出るコンマ数秒の“エアポケット”から右足を一閃!
ドスッ――!
『1 - 1』!
同点! スタジアムが割れんばかりの歓声に包まれる!
しかし、死闘はこれだけでは終わらなかった。
規定により、90分で同点の場合は延長戦なしでJ1クラブ(島根)の残留が決まる。
焦る相手チームはアディショナルタイム5分、全選手を押し上げて猛怒涛の猛攻を仕掛けてきた。
怒号のような歓声の中、ゴール前で繰り広げられる地獄のような泥試合。
「守り抜けぇぇッ!!」
大河原が顔面でボールをブロックし、神矢と佐伯が足の痙攣を押し殺してシュートコースを消す。ボランチの石川と黒木、WBの藤井と早坂も泥だらけになりながらボールへ群がる。
そして、アディショナルタイム4分50秒。
相手の決死のヘディングシュートがゴール右隅を襲った――。
絶体絶命。
だが、守護神・桐生が泥水の中を限界を超えた跳躍で飛び、指先一分でボールを弾き出す!
こぼれ球を神矢が気迫のクリア!
その瞬間、主審の長笛が激闘のスタジアムに響き渡った。
『ピーーッ! ピーーッ! ピーーーッ!!』
「試合終了ーーッ!! 『1 - 1』!! プリズンガーディアン島根、死闘の降格プレーオフを制し、奇跡の『J1残留』決定ですーーッ!!」
実況の絶叫とともに、選手たちは雨のピッチに崩れ落ち、涙を流しながら抱き合った。
浅倉と桐島が泣きながら響木にしがみつき、泥まみれの大河原や神矢、佐伯が咆哮を上げる。
ベンチでは法条監督と神田コーチ、門倉GMが固く抱き合っていた。
シーズン前半戦の最下位という泥沼から這い上がり、J1の厚い壁を泥臭い絆とロジックで打ち破ったプリズンガーディアン島根。




