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第8話:地に這う者、天に舞う花

 浮遊王都の誕生は、大陸中の勢力図を一夜にして塗り替えた。

 もはや帝国に逆らう国など存在しない。だが、唯一、プライドだけを肥大化させた王国の残党——バドルフとエミリー、そして廃嫡寸前の第一王子だけは、現実を受け入れられずにいた。


「リリアさえ殺せば……あの魔力制御が解ければ、帝国は墜落するはずだ!」


 彼らは国庫の底を叩いて禁忌の『自爆魔導弾』を買い込み、密かに小型艇で雲の上の王都へと接近を試みた。


 一方、天空の宮殿。

 私は、エリオット陛下と優雅なティータイムを楽しんでいた。


「リリア、不快な羽虫が近づいているようだが、どうする?」


 陛下がモニター代わりの魔導水晶を指差す。そこには、必死に高度を上げようとする、ボロボロの小型艇が映っていた。


「あら。まだ生きていたのですね。……ちょうど良かったです、陛下。新型の『自動迎撃システム』のテストをしたいと思っていたところでした」


 私はカップを置き、空中に投影された制御パネルを軽くタップした。

 かつて王宮で「座っているだけ」と言われた指先が、光の速さで幾何学模様を描く。


「魔力配分、出力〇・一パーセント。——『浄化の光』を、あの方たちへ」


 浮遊王都の底部から、細く鋭い白銀の閃光が放たれた。

 それは攻撃ですらない。あまりに純粋で高密度な魔力の奔流。


「な、なんだこの光は!? ぎゃああああ!」


 小型艇に積まれていた禁忌の魔導弾が、私の放った浄化の魔力に反応し、文字通り「塵」へと分解されていく。爆発の衝撃すら、帝国の防壁には届かない。


「……消えたな。リリア、あまり手を汚させるなと言っただろう」


 陛下が私の手をとり、指先を優しく舐めるように口づける。


「ふふ、汚れなんてしていませんわ。ただ、不要なゴミを掃除しただけですから」


 雲の下では、作戦失敗の報を受けた王国が、ついに国民によるクーデターで完全崩壊したという。

 バドルフたちが帰る場所は、もはや空にも地上にもどこにもない。


「さあ、陛下。お掃除も終わりましたし、ダンスの続きを踊りましょう?」


 私たちは、眼下の絶望に一瞥もくれることなく、黄金色に輝くダンスホールへと戻っていった。

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