第7話:崩壊する王国と、天上の楽園
帝国が「黄金の風」に沸く一方で、王国はもはや国家の体をなしていなかった。
魔導技術の維持に失敗し続けたバドルフ次長は、激怒した市民たちによって魔導院を包囲されていた。
「リリアを出せ! 彼女さえいれば、こんなことにはならなかったはずだ!」
「無能な次長を広場へ引きずり出せ!」
怒号が飛び交い、王宮の窓硝子が次々と割られる。
かつてリリアを嘲笑ったエミリーも、今や「動かない魔導盤」の前で髪を振り乱して泣き叫ぶことしかできなかった。
そんな惨状を余所に、リリアは帝国で前代未聞のプロジェクトを成功させていた。
「陛下、準備が整いました」
リリアがスイッチに触れた瞬間、帝国の王都がゆっくりと浮上を開始した。
リリアの緻密な魔力配分によって可能となった、世界初の『浮遊王都』。
地上の騒乱や汚れから切り離された、真の聖域の誕生だった。
「素晴らしい……。リリア、君は私に、地上の支配権だけでなく、空の支配権までもたらしてくれたのか」
浮上する宮殿のバルコニーで、エリオット陛下がリリアを後ろから抱きしめる。
雲を突き抜け、太陽の光が直接降り注ぐこの場所で、二人の絆はさらに強固なものとなっていた。
眼下を見れば、暗雲の下で豆粒のように小さくなった王国が見える。
そこでは、ようやく「リリアの真の価値」に気づいた国王が、血眼になってリリアへの献上品や謝罪の書簡を認めているというが……。
「陛下、あの国からまた通信が入っています。『全財産を差し出すから、せめて結界の張り方だけでも教えてくれ』と」
「ふん。全財産など、君の指先一本の価値にも満たない。無視しろ。……それよりもリリア、今夜は君のために特別な夜会を用意した。空に一番近い場所で、君を一番の幸せ者にしてみせる」
リリアは満足げに微笑み、通信魔法の電源を物理的に引きちぎった。
「そうですね。もう、あの国の声は……ここまでは届きませんから」




