第5話:宣戦布告と、愛の誓い
バドルフたちが追い返された数日後。王国から届いたのは、謝罪ではなく一通の『強迫状』だった。
「……リリアを返さねば、帝国との全面戦争も辞さない、か」
玉座の間で、エリオット陛下がその紙を鼻で笑い、即座に握りつぶした。
王国は追い詰められている。魔導エネルギーを失い、国力が地に落ちた彼らにとって、私を取り戻すことは国家存亡をかけた最後の博打なのだろう。
「陛下、私を差し出せば戦争は避けられます。……それでも、よろしいのですか?」
わざと不安そうな顔をして見せると、陛下は玉座から立ち上がり、私を力強く抱き寄せた。
「馬鹿を言うな。君一人を返したところで、あの国は二度と立ち上がれまい。……それに、私は君を手放すくらいなら、この世のすべてを敵に回しても構わない」
陛下の瞳には、冷徹な支配者の顔ではなく、一人の男としての深い情熱が宿っていた。
「リリア。君を我が帝国の『皇妃』として迎えたい。これは王としての命令ではなく、君を愛する男としての願いだ」
帝国全土に、陛下の宣言が響き渡った。
——リリア・アーベントを帝国の皇妃と定め、彼女に仇なす者はすべて帝国の敵と見なす。
そのニュースは、暗闇に沈む王国にも届いた。
最後の希望を絶たれた国王は発狂し、ついには無謀な進軍を命じた。魔導兵器も動かない、錆びた剣を抱えただけの敗残兵たちを。
私は、帝国の管制塔の最上階から、国境へと向かう軍勢を見下ろした。
私の手元には、かつて王国の『大導脈』を管理していた頃には決して許されなかった、攻撃用の魔力配分スイッチがある。
「陛下。許可をいただけますか?」
「ああ。君の力を、存分に見せてやれ」
私は微笑み、指先一つで王国の進軍路にある魔導中継地点を、ピンポイントで「逆流」させた。
——カッ!
夜空が真っ白に染まるほどの爆光。
王国軍の足元で、彼らが頼りにしていた古い魔導地雷や装備が次々と自爆していく。戦うまでもない。一瞬にして、王国の戦力は消失した。
「今さら戻れと言われても、もう遅いどころか……。帰る場所さえ、なくなってしまいましたね」
私は陛下の胸に寄り添い、優雅に勝利の美酒を口にした。




