第3話:ようこそ、世界の中心へ
国境を越え、帝国の豪奢な馬車に乗り換えた私を待っていたのは、信じられないような光景だった。
「リリア、まずはこれを。長旅で疲れただろう」
エリオット陛下自らが、私の肩にふわふわの毛皮をかけ、温かい琥珀色の飲み物を差し出してくれる。それは、王国では王族しか口にできない最高級の魔導茶だった。
「あ、ありがとうございます……」
「緊張しなくていい。君は我が帝国の救世主だ。まずは最高の寝室と、専属の料理人を用意させた」
陛下は私の隣に座り、まるで壊れ物を扱うような手つきで私の髪に触れる。
王国では「薄汚い作業着女」と罵られていた私が、ここでは一国の王に額ずかれている。
一方、その頃。
私が捨てた王国の中央制御室は、まさに『地獄』と化していた。
「……ひっ、ひぃぃ! 次長、止まりません! レバーが動きません!」
「ええい、どけ! 私がやる!」
バドルフ次長が、私が「触るな」と言った第三レバーを力任せに引き絞る。
——直後。
制御盤から火柱が上がり、大導脈の水晶体が不気味な赤色に明滅した。
「バ、バカな!? ただ座っていれば動くはずだろう!?」
「次長、報告です! 王城の地下宝物庫が爆発、保管していた魔導具の八割が焼失しました! さらに、国王陛下の寝室の空調が暴走し、陛下が熱中症で倒れられました!」
次々と舞い込む絶望的な報告。
真っ暗闇に包まれた王都で、暴徒化した市民たちが魔導院を取り囲み、罵声を浴びせている。
彼らがようやく気づいた時には、すべてが遅すぎた。
帝国に到着した私は、陛下の案内で『帝国中央魔導管制塔』へと足を踏み入れた。
そこは、王国とは比較にならないほど最新鋭の設備が整った、魔導師の聖域だった。
「リリア。君の好きに使うがいい。予算の制限はない。君がこの国の『魔力』を統べるのなら、私はこの国の『武力』ですべての敵を薙ぎ払おう」
陛下が私の手を取り、その甲に熱い唇を落とす。
「……ふふ、嬉しい。こんなにワクワクするのは初めてです、陛下」
私は、自分の中に眠る膨大な魔力が、心地よく疼くのを感じた。
さあ、新しい仕事の時間だ。
私を「無能」と呼んだ人たちが、暗闇の中で震えながら私の名前を呼んでいることなんて、もうどうでもいい。
私は今、世界で一番贅沢な椅子に座っているのだから。




