第24話:光の去ったあとの、温かな食卓
魔法がこの世から消えて、数年。
空に浮かんでいた王都は、今は美しい湖のほとりに鎮座する「帝都」として、地上の街と溶け合っていた。
かつての「魔導配分官」リリアは、今は帝都の外れにある小さな農園で、エリオットと共に暮らしている。
「リリア、今日のパンは一段と上手く焼けたな。火加減が完璧だ」
「ふふ、陛下。魔法がなくても、薪の『配分』を工夫すれば同じことですわ」
エリオットは今や、一国の皇帝としての激務を終え、良き夫として、そして一人の開拓者として土にまみれる日々を楽しんでいた。魔法という「全能の力」を失ったことで、皮肉にも二人の絆は、より生身の温かさを増していた。
そんなある日、街から戻ったルカとアイリスが、一通の報告書を持ってきた。
「お母様。……旧王国の跡地で、最後まで魔法に執着していた者たちが、ついに全員立ち去ったそうです」
かつてリリアを追い出したバドルフの信奉者や、特権階級に固執した貴族たち。彼らは魔法が消えた後も、「いつか魔法は復活する」と信じ、荒れ果てた王宮の廃墟で、動かない魔導具に祈り続けていたという。
だが、自ら耕すことを拒み、他者から奪う術(魔法)を待ち続けた彼らに残されたのは、ただの飢えと、冷たい石の壁だけだった。
「彼らは最後まで、『自分の手で何かを生み出す』という配分ができなかったのですね」
リリアは、かつての職場での出来事を思い出しながら、静かに紅茶を淹れた。
かつての同僚・エミリーも、魔法が消えた瞬間にその美貌(魔導美容)を失い、今はどこかの田舎で誰にも気づかれず、ただの老婆として暮らしているという。
「……リリア、もう彼らのことはいい。今の世界を見てごらん」
エリオットが指差した先には、魔法の代わりに「蒸気」と「知恵」で動く新しい馬車が走り、人々が自分の汗で手に入れたパンを笑いながら分け合う姿があった。
「私が欲しかったのは、これだったのかもしれません」
リリアは、エリオットの肩に頭を預けた。
かつて「無能」と呼ばれた少女が、神の力を奪い、それを人類の「明日」へと配分しきった結果が、この穏やかな夕暮れだった。




