第21話:受け継がれる指先、小さな魔法使い
リリアとエリオット陛下の間に生まれた第一皇女、アイリス。
彼女は母親譲りの美しい銀髪と、父親譲りの強い意志を宿した瞳を持つ少女へと成長した。
今日は、帝国最高峰の魔導学院の入学実技試験の日。
かつてのリリアがそうだったように、アイリスもまた、周囲の派手な魔法を操る貴族の子息たちから冷ややかな視線を浴びていた。
「見てよ、あのアイリス様。皇女殿下なのに、使うのは家庭用の『生活魔法』ばかり。派手な爆発も雷も起こせないなんて、才能は陛下に似なかったのかしら?」
周囲のひそひそ話を、アイリスは静かに聞き流していた。
彼女の手元にあるのは、学院全体の魔導灯を制御する、古びた練習用の魔導盤だ。
「……お母様は言っていました。『本当の力は、壊すことではなく、整えることにある』と」
試験の最中、突如として学院の地下にある巨大魔導炉が暴走を始めた。
旧時代の遺物が、突如として制御を失ったのだ。講師たちがパニックに陥り、生徒たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、アイリスだけが動かなかった。
「……五万件の術式干渉。波形、乱れています。——配分、開始」
彼女の小さな指先が、空中で光の鍵盤を叩くように舞う。
暴走していた魔力の奔流が、アイリスの指先の動きに合わせて、まるで意志を持つ川のように整えられていく。
一分後。爆発寸前だった魔導炉は、かつてないほど静かに、そして効率的な青い光を放って安定した。
「な……何をしたんだ、今!? 暴走エネルギーが、すべて学院の照明と暖房に変換された……!?」
驚愕する講師たちの前で、アイリスは上品に一礼した。
「リリア・アーベントの娘として、当然の処置をいたしました。……お父様から教わった剣で守り、お母様から教わった配分で癒やす。それが、我が家の教えですので」
その様子を、物陰から見守っていたエリオット陛下とリリア。
「……リリア、あの子は君にそっくりだ。一番地味で、一番重要な仕事を、誰よりも優雅にこなしてみせた」
「ええ、陛下。あの子なら、私たちが作ったこの平和を、もっと素敵な形に変えていってくれるはずです」
かつて「無能」と蔑まれたリリアの技術は、今や世界を救う「最強の守護」として、次の世代へと繋がっていた。




