第19話:神の終焉、万人の鼓動
「おのれ、人の子が……! 私が作り上げた法を、あまねく民草へばらまくとは!」
世界の管理者『アーキタイプ』は激昂した。
管理権限の大部分をリリアにハックされた神は、実体を無理やり繋ぎ止め、リリア個人の「存在」そのものを消去しようと、全エネルギーを一点に凝縮させる。
「ならば、管理者であるお前自身を消せば、このシステムは崩壊する! 消えよ、リリア・アーベント!」
神の指先から、因果を断ち切る絶滅の光が放たれた。
だが、その光が私に届くことはなかった。
「……私の前で、妻に手を出すなと言ったはずだ」
エリオット陛下が、聖剣を盾に私の前に立ちはだかる。
陛下の体は神の圧力で軋み、聖剣はひび割れ、足元の床が砕け散る。それでも、彼は一歩も退かなかった。
「陛下、もう大丈夫です……! 一人じゃありません!」
私は叫んだ。
私が世界中にばらまいた魔力。それは今、感謝の念と共に、逆流して私のもとへと集まってきていた。
——リリア様、ありがとう。
——皇妃様、俺たちの火を守ってくれて。
——リリア様、大好き。
大陸中の人々の『小さな魔力』が、無数の光の粒となって浮遊王都へ集結する。
一つ一つは弱くても、一億の鼓動が重なれば、それは神をも凌駕する奔流となる。
「これが、私の『配分』の完成形です! ——一極集中ではなく、皆で支え合う世界!」
私は集まった膨大なエネルギーを、一本の槍へと収束させた。
それは黄金の神の光ではなく、温かな虹色の光。
「行け……リリア!!」
陛下の咆哮と共に、私はその光を放った。
神の絶滅光を正面から打ち破り、虹色の槍が『アーキタイプ』の眉間を貫く。
「バ……バカな……。管理される側が、管理者を……超える……だと……?」
神の顔が、無数の光の粒子となって霧散していく。
世界を縛っていた古い法が解け、空には本物の、どこまでも青い空が戻ってきた。
崩れ落ちそうになる私を、陛下が強く、壊れそうなほど優しく抱きしめる。
「……勝ったな。リリア」
「はい……。私たち、守りきりましたね」
神はいなくなった。
これからは、自分たちの力で、自分たちの魔力を分け合って生きていく。
真の意味で、人間が世界の主人になった瞬間だった。




