第18話:世界の管理者と、不遜なるハッキング
魔王が消滅した瞬間、空がガラスのようにひび割れた。
亀裂から溢れ出したのは、これまでの魔力とは次元の違う、冷徹で無機質な黄金の光。
「……人間よ。分をわきまえぬ知恵を持ったな」
現れたのは、実体のない巨大な顔。かつて人類に魔法の種を蒔いたとされる、世界の管理者『原初の神・アーキタイプ』だった。
「魔力配分とは、神が世界を調和させるための特権。それを一介の人間が、ましてや私情のために使いこなすとは……。この世界は既に、私の制御を離れすぎた。一度すべてを『零』に戻そう」
神が指を鳴らすような仕草を見せると、大陸中の魔導具が機能を停止し、浮遊王都さえも高度を下げ始めた。人々が絶望し、天を仰ぐ。
「……リセットですって? 勝手なことを言わないでください」
私は、震える足で制御盤の前に立った。
相手は世界の創造主。だが、今の私には、この国の命運が私の指先に繋がっているという確信がある。
「陛下、私に時間をください。神が『世界のシステム』を書き換えようとしているなら……私はその『ソースコード』を書き換えてみせます」
「神をハッキングする、というのか? ……ふっ、面白い。リリア、お前が座る椅子は、私が命を賭けて守り抜こう」
エリオット陛下が、神が放つ黄金の雷火を聖剣で弾き飛ばす。
その背中を信じ、私は意識を世界の深淵へとダイブさせた。
「見えた……。これが『世界の魔力配分テーブル』……!」
脳内に流れ込む、天文学的な数字と術式の羅列。
神は「独占」し、「支配」するためにこの回路を作った。
けれど、私は違う。
「私の配分は……『分かち合う』ためのものです!」
私は神の管理領域に、自分自身の魔力を無理やり割り込ませた。
書き換えるのは、魔力の「所有権」。
「神様、残念でした。今この瞬間から、この世界の魔力の管理者は……あなたではなく、私——『帝国皇妃リリア』です!」
パリン、と世界が鳴った。
神の黄金の光が、私の意志によって「国民全員の生活魔法」へと強制的に分配されていく。
「何だと!? 私の権能が……分散されていくというのか!?」
神の顔が驚愕に歪む。
一極集中の「支配」を、一億の「日常」へと分散させる。
それこそが、配分官リリアが導き出した、神への答えだった。




