第17話:醜悪な再会、聖なる断罪
浮遊王都の外壁に、どろりとした黒い霧がまとわりつく。
かつての魔導院次長、バドルフ。彼は今や、肥大化した肉体と無数の触手を蠢かせる、見るに耐えない魔獣へと変貌していた。
「リリアァ……! お前のせいで、私はすべてを失った! その玉座を寄越せ! その魔力を私に差し出せぇ!!」
魔王の心臓と融合したバドルフが、汚染された魔力弾を放つ。
だが、その一撃が王都の結界に触れる直前、幾何学模様の光の壁がそれを霧散させた。
「……見苦しいですね、バドルフ元次長。あなたは最後まで、魔力を『奪うもの』としか思っていなかった」
私は王都の最先端、白銀のバルコニーに立ち、彼を見下ろした。
私の指先からは、かつての「調整」を遥かに凌駕する、純白の術式が溢れ出している。
「陛下、お願いします。——回路の『掃除』を始めますわ」
「任せろ。我が妻の道を汚す羽虫は、一匹残らず私が叩き伏せる」
エリオット陛下が、聖剣を構えて虚空を跳ぶ。
彼がバドルフの触手を切り裂くたび、私はその断面から逆流しようとする汚染魔力を瞬時に「配分」し、無害な光の粒子へと変換していく。
「バカな!? 枯渇しないのか!? 一国の魔力網を維持しながら、これほどの戦闘配分を……!」
「忘れたのですか? 私は『座っているだけ』ではありません。国中の、そして世界中の魔力の『流れ』を感じ取っているのです」
私は両手を広げた。
浮遊王都そのものが、巨大な魔法杖と化す。
「——全回路連結。聖属性変換・最大出力。……さようなら、私の過去」
王都の底面から放たれた極大の光軸が、バドルフを直撃した。
それは破壊ではなく、あまりにも純粋なエネルギーによる「完全消滅」。
魔王の心臓ごと、彼の憎しみも、傲慢も、この世から一滴の塵も残さず浄化された。
黒い霧が晴れ、空に虹がかかる。
「……終わったな、リリア」
着地した陛下が、私の肩を抱き寄せる。
「ええ。これで本当に、あの国との因縁はすべて消えました」
だが、消えゆく光の中で、私は見てしまった。
魔王の心臓が砕け散る瞬間、さらに深い奈落から響く、本当の『元凶』の笑い声を。




