第14話:聖なる誓いと、血脈の断絶
雲ひとつない青空の下、浮遊王都の大聖堂にて、歴史に刻まれるべき結婚式が幕を開けた。
世界各国の王族が固唾を呑んで見守る中、私はエリオット陛下の隣で、祭壇へと歩を進めていた。
「リリア、世界で一番美しい。……今日から君は、名実ともに私の半身だ」
陛下の熱い眼差しを受け、誓いの言葉を口にしようとしたその時。
聖堂の重厚な扉が、不気味な黒い魔力によって弾け飛んだ。
「待て! その女は呪われた『器』だ! 帝国を滅ぼすつもりか!」
現れたのは、ボロボロの正装に身を包んだ私の実父、アーベント伯爵だった。その手には、禍々しい紫色の光を放つ古の魔導具『魂の調律器』が握られている。
「リリア! お前の魔力は我が家系が代々溜め込んできた怨念の集積体だ! 私がそのスイッチを押せば、お前の魔力は暴走し、この浮遊王都は地上へ墜落する!」
参列者たちが悲鳴を上げ、騒然とする。父は勝ち誇ったように笑い、私に手を差し出した。
「さあ、帝国を捨てて戻ってこい! お前の力があれば、私は再び王国の王になれるのだ!」
エリオット陛下が剣を抜こうとしたが、私はそれを手で制した。
私は静かに、父の持つ魔導具を見つめる。
「お父様。……あなたは、私がどれだけ精密に魔力を『配分』できるか、まだ理解していないのですね」
「何だと……?」
「その魔導具の中にあるのは、怨念などではありません。歴代のアーベント家が制御できずに放置した、ただの『澱んだ魔力』です。——私なら、こうしますわ」
私は指先を軽く鳴らした。
次の瞬間、父の持つ調律器から紫色の霧が吸い出され、私の頭上で美しい純白の光へと変換されていく。
「なっ……吸い出されている!? バカな、これは先祖代々の……!」
「浄化完了です。お父様、あなたが私を『呪い子』として売ったあの日、私はすでにその呪いさえも自分の力に変えていたのですよ」
光は一粒の雫となり、私の指先で消えた。
武器を失い、腰を抜かした父を、帝国騎士団が容赦なく取り押さえる。
「連れて行け。……二度と、リリアの前にその汚れた顔を見せるな」
エリオット陛下の冷徹な声が響き、父は絶望の叫びを上げながら引きずり出されていった。
静寂が戻った聖堂で、私は陛下に向き直り、微笑んだ。
「お待たせいたしました、陛下。……続きを」
「ああ。……愛している、リリア。君の過去も、その強さも、すべてを私が抱きしめよう」
万雷の拍手の中、私たちは誓いのキスを交わした。
それは、忌まわしい血脈との完全な決別であり、真の幸せへの第一歩だった。




