第13話:届かないはずの手紙
世紀の結婚式を翌日に控え、浮遊王都は国中から集まった魔法の灯火で、まるで地上に降りた銀河のように輝いていた。
「リリア様、お召し替えのお時間です」
侍女たちが用意したのは、私の魔力に反応して七色に輝く、伝説の聖糸で織られたドレス。それを眺めていた私の元へ、一通の封書が届けられた。
差出人の名はなく、ただ古びた紋章が刻印されている。
「これは……アーベント家の、隠し紋章?」
かつて私を「無能」と蔑み、王立魔導院へ文字通り売り飛ばした私の実家。王国崩壊と共に没落したはずの家系からだった。
『リリア、お前には秘密がある。お前の魔力配分能力は、ただの才能ではない。我が家に伝わる「禁忌の遺産」を引き継いだ代償なのだ。その力が暴走すれば、帝国ごと空から落ちることになるだろう。止めたければ、今すぐ一人で旧領地へ来い』
見え透いた罠。おそらく、没落した父が私を脅し、再び利用しようとしているのだろう。
だが、その手紙を背後から抜き取った者がいた。
「……私の婚約者を脅すとは。アーベントの生き残りは、まだ自分の立場がわかっていないらしいな」
エリオット陛下だ。彼は手紙を一瞥すると、青い炎で焼き捨てた。
「陛下、私……。自分の力の正体が、本当に怖いものだったらどうしようと、一瞬だけ思ってしまいました」
陛下は私の震える指先を、大きな掌で包み込んだ。
「仮にそれが呪いだろうと、禁忌だろうと関係ない。その力が君を苦しめるなら、私がすべて肩代わりしよう。君が『心臓』なら、私はその鼓動を守る『盾』だ」
陛下の揺るぎない愛に、胸の奥の不安が霧散していく。
私は窓の外、かつて私を捨てた家族が潜む暗い地上を見下ろした。
「そうですね。……お父様、残念でした。私はもう、一人で泣いていた小さな女の子ではありません。明日の式は、私の新しい人生の始まりです。邪魔をするなら、今度こそ容赦はいたしませんわ」
前夜祭の鐘が鳴り響く。
地上の怨念すら、この高貴なる浮遊王都までは届かない。




