第11話:暗殺者の誤算と、踊る術式
結婚式を間近に控えたある夜。帝国の離宮に、音もなく影が忍び寄った。
旧王国の過激派貴族が雇った、大陸屈指の暗殺ギルド『黒い牙』の精鋭たちだ。
「……ターゲットを確認。リリア・アーベント。魔導師といえど、不意を突けばただの女だ」
彼らが手にするのは、魔力を無効化する特殊な鉱石で作られた短剣。
寝室のバルコニーから侵入した暗殺者が、ベッドで読書をしていた私に飛びかかる。
だが、私の指がページをめくるより先に、暗殺者の動きが空中で静止した。
「なっ……!? 体が動かん!」
「あら、お客様かしら。ごめんなさい、この部屋の『魔力配分』は、侵入者の神経信号をジャックするように設定してあるの」
私は本を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。
暗殺者が持っていた短剣が、私の魔力に触れた瞬間、パキパキと音を立てて飴細工のように曲がっていく。
「魔力無効化? そんな子供騙し、私の精密制御の前では『ただの不純物』に過ぎないわ。逆流させれば、ほら」
「ぎゃああああ!」
短剣から発せられた衝撃が暗殺者本人に跳ね返り、彼は一歩も動けないまま床に転がった。
そこへ、扉を蹴破ってエリオット陛下が飛び込んでくる。
「リリア! ……無事か!?」
「ええ、陛下。ちょうど新しい『防犯システム』のテストが終わったところです」
陛下は転がっている暗殺を一瞥し、その首筋を容赦なく踏みつけた。
「……どこの差し金だ。答えなければ、お前の故郷を地図から消す」
「ひっ、ひぃ……旧、旧王国の……亡命貴族たちが……リリア様がいなくなれば、帝国は落ちると……」
陛下は冷笑した。
「落ちる? 逆だ。リリアがいなければ、この世界そのものに価値がない。……連れて行け。首謀者は一人残らず、公開処刑だ」
騎士たちに引きずられていく男を見送りながら、陛下は私を強く抱きしめた。その手は、少しだけ震えていた。
「リリア……すまない。私の不徳だ。君を、指一本触れさせたくないというのに」
「陛下、大丈夫です。私、もう守られるだけの『か弱い令嬢』ではありませんから」
私は陛下の胸に顔を埋め、密かに微笑んだ。
私を消そうとする執着心すら、今の私には「格好の暇つぶし」でしかない。




