第10話:女神の微笑みと、平伏する諸国
旧王国が「一人の女性を切り捨てた」ことで滅びたというニュースは、大陸中を震撼させた。
今やリリアは、単なる魔導師ではなく、国の興亡を左右する『生ける女神』として語り継がれている。
「リリア、今日も客人が絶えないな。……不愉快だが」
帝国の謁見の間。エリオット陛下は、玉座の隣に座る私の手を握り、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
目の前には、近隣五カ国の国王や特使たちが、額を床に擦り付けて並んでいる。
「リリア様! 我が聖教国からも、最高級の魔導触媒を献上いたします! どうか、我が国の魔導網にも、その慈悲深い配分を……!」
「我が商工連合の飛空艇も、リリア様の認可がなければ空を飛べません! どうか、お力添えを!」
かつて私を「たかが配分官」と見下していた職種の人々が、今は私の「一瞥」を求めて必死に媚を売っている。
「皆様、頭をお上げください。私は現在、帝国の、そしてエリオット陛下の専属ですので。他国のお世話をする暇は……そうね、あと五〇年ほどはございませんわ」
私が優雅に扇子で口元を隠すと、各国特使たちの顔が絶望に染まった。
彼らにとって、リリアに拒絶されることは「国家の衰退」を意味するからだ。
「聞いたか? 下がれ。リリアは今、我々の結婚式の準備で忙しいのだ。羽虫のように付きまとうなら、あの王国と同じ末路を辿らせるぞ」
陛下の冷徹な宣告に、特使たちは震え上がりながら後ずさりして去っていった。
「……ふふ、陛下。少し怖がらせすぎではありませんか?」
「これでも抑えた方だ。君の価値を理解せず、利便性だけを求める輩には、これくらいで丁度いい」
陛下は私の腰を引き寄せ、深々と首筋に顔を埋めた。
その独占欲は、もはや隠そうともしない。
「リリア、式まではあと一ヶ月だ。世界で一番豪華な、そして世界中が嫉妬するような式にしよう。君を捨てた者たちが、地の底で後悔して咽び泣くほどのな」
窓の外では、浮遊王都を祝う七色の魔導花火が上がっている。
かつて「明日から来なくていい」と言われた私は今、世界の中心で最も愛される存在になっていた。




