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夕食の席

 質素な食卓に様々な料理が並ぶ。小麦粉を魚介の出汁で溶いて豚肉とキャベツと一緒に焼き、果実と野菜を煮込んだスパイシーなソースをかけたもの、同様の生地を丸い型に流し、魚介類を入れ、焼き上げたものに果実と野菜のスパイシーソースをかけたもの等、食欲をそそる香りが食卓に満ちる。

 「たくさん作ったわ。お母さま直伝のレシピで作ったソース料理。とってもおいしく出来たわ。」満足そうにニヤリと笑うクロエの口元にソースが付いている。

 「クロエ様、口に付いてますよ。」リンがそっとナプキンで口を拭ってくれる。

 「ありがとう!じゃあ早速お父様たちを呼ばなきゃ!」いそいそと出来上がりを知らせにクロエは階段を駆け上る。その後ろ姿をリンが微笑ましそうに見送る。

 

 「これはすごいね!」食卓に並ぶ料理を見て二人は驚きながら席に着く。

 クロエの母は異国の地から来て、この国で父と出会い、恋に落ちた。母の国の名前も、どこにあるかもわからない。父がいくら聞いても話してはくれなかったそうだ。母の故郷を知る唯一はこの料理なのだ。

 「おいしい!本当にクロエはお母様の国の料理が上手だね。いつ食べても食欲がどんどん湧いてくるよ。」

 大喜びでノワルが次々に口に運ぶ。体格は細身だが意外とよく食べるのだ。

 「このソース本当はじっくり煮込むんだけど、ノワル兄様の魔法で一瞬でできたわ。」

 先ほど作り置きのソースが無くなってたことに気づいたクロエはふと兄の能力を思い出し、ダメ元で挑戦してみたのだ。

 「この料理はビールにとても合うね。」 

 父がゆっくりとビールのグラスを傾けながら料理を口に運ぶ。

 「クロエ、さっきの話だが、やっぱりクロエには王宮での生活は無理じゃないか。うちは貴族とはいえ末席の町医者で家柄も全然釣り合わない。」

 そうなのだ。いくらアメディオ王子がスパイを欲しがっていたとはいえ、わざわざ王太子妃候補とする必要がない。家柄にも無理があるし、一目惚れという線がない事はあの態度で一目瞭然だ。クロエも実家の立て直しの為、一も二もなく受け入れたが、考えれば考えるほど不自然なのだ。

 「ま、まあ、恐れ多くも私のことを好いていただいているので、私もそれにお応えするために頑張ろうと思ってるのよ。」実家再興のため、多少の不自然や不都合は目を瞑って耐えると誓ったのだ。

 だが…と言いかける父をノワルが制止する。

 「父様、クロエに任せましょう。何かあったらすぐうちに帰せば良いんだし」とにこっと微笑む。兄は昔からクロエの意思を尊重してくれる。でも本当に助けが必要な時には真っ先に飛んできてくれるのだ。

 「ノワル兄様…ありがとう!やれるとこまでやってみるから、お父様も心配しないで。」

 そう言うとクロエは大きな丸い焼き料理を頬張った。明日はあのアメリッサの仕事をこなさなければならない。重く沈む気持ちを夕食と共に飲み込んだ。

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