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成果は…

 「…アメディオ様、こちらが今回の結果をまとめたものです。特に問題がある様子は見られませんでした。」

 伏目がちに書類の束を差し出すクロエの目の下にはクマができていた。

 「素晴らしいね、ありがとう。さすが僕の婚約者だね」

 そう言って王子は受け取った書類に目を通さず無造作に机の上に置く。

 「王族というのは外の敵もだが、中にいる敵を増やしてはならないんだよ。世間知らずの、貴族に言われるままの無能を演じるのも疲れるよ。」 

 美しい微笑みを浮かべていた王子だが、その表情は徐々に無表情で冷たいものになっていく。 

 「野蛮な諸外国からこの美しい国を守っているのは誰かな?武力しか能のない王族とは良く言ったものだよね。僕たちの美しい魔力があるからこそ諸外国の脅威にさらされていないというのに。」

 アメディオは剣の柄を握りしめながら思い出したように微笑みを浮かべる。冷たい微笑みにゾッとしながらもクロエは極力表情を変えずアメディオを見つめる。

 「アメディオ様は決して無能ではございません。現にこのクロエを使って内部の治安維持に努めておられます。クロエは誠心誠意アメディオ様に仕えたいと思っております。」

 色白の頬を一層白くしてクロエは伝える。以前同じような状況になった時、何も言わずにいたところ高温の炎が頬を掠めたのだ。

 「そうだね、僕ってほんっとうに慈悲深いよね。ろくに王宮にも務めず、税金も少ししか払えない貧乏貴族の娘を妃候補になんて普通しないよね。」

 心底楽しそうに笑いながらアメディオは一歩クロエに近づく。

 クロエの家は確かに裕福ではないが、それは医者を生業とする一族であり、貧しく病める人々を救うことを第一とするからである。母を早くに亡くしたクロエは懸命に命と向き合う父と兄の背中をみながら育った。

 何も言えず俯くクロエを見て満足した様子のアメディオは指先で炎を弄ぶ。アメディオの魔力は炎を自在に操る能力であり、その力は王国随一と言われている。

 「お前、僕に何か言うことないの。」

 クロエの顔を炎が照らす。

 「私はアメディオ様に拾っていただき、幸せです。日々感謝しております。」

 熱い。ジリジリと炎が迫ってくる。もう少しでクロエの黒髪が炎に触れるところで急に熱が消える。

 「うん!そうだね。お前、もう下がりなよ。」

 上機嫌な様子でクロエに手を振る。用が済んだらさっさと下がれということだ。


 「クロエ様、お怪我はありませんでしたか?」

 ドアを出たところで待機していた従者のリンが慌てて近づく。 

 「平気よ、ありがとう。それより喉が渇いたの。部屋でお茶を淹れてもらっても良い?」

 リンは昔からクロエに仕えてくれている従者でお茶を淹れるのが上手だ。どんな嫌なことがあってもリンの淹れてくれるお茶を飲むと落ち着く気がするのだ。

 「もちろんです!何にいたしましょうか。カモミールにいたしましょうか?あっ!アッサムもございます!いやでもたまにエルダーフラワーなんかも美味しいと思いますよ。」部屋に着くなりにこにことおすすめのお茶を戸棚から出して机に並べてくれる。

 「エルダーフラワー!それにするわ。少しお砂糖入れてね。」 

 リンがお茶を淹れてくれる間、クロエはぼんやりと考える。なぜ自分は今このような仕事をしているのか、どこで間違ってしまったのか。父と兄のように病める人々を救いたかったはずなのに…。ふと涙が溢れそうになったところでリンがお茶とお菓子を目の前に置いてくれる。

「さあ!おいしくできました。このクッキーもどうぞ」

 街で話題になってる美味しい店なんですよ、とすすめてくれる。

 「ありがとう。」

 黒猫を模した小さなクッキーをつまむ。心地いい温度のお茶を口に含むとエルダーフラワーの香りが体全体を巡る。

 「これ、とってもおい」

 リンに微笑みかけたところでクロエの部屋のドアが勢いよく開く。お茶が少し零れ、クロエの微笑みが凍りつく。

 

 

 

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