黒猫の仕事
ここはエマフィナ国の王都イーズリー。水や緑が豊富な美しい国の王都。
なによりこの国で最も美しいとされているのが国民一人一人が持って産まれる魔法石だ。
その石の能力は多岐にわたっており、いわゆる攻撃魔法だけではない、日常を彩る魔法が多くある。
また、魔法石は持ち主だけしか扱えず、持ち主と共に生まれて持ち主と共に消えていく運命にある。
そんな国のとある貧しい貴族の長女としてクロエは産まれた。クロエの持つ魔法石は漆黒だが、見るものの内面まで映すような輝きを持つ美しいものだった。
「これが今回君がしなくてはならない仕事だよ」
にっこりと慈悲深い眼差しでクロエに一枚の写真を差し出すのは、この国の王子であり、婚約者でもあるアメディオ王子だ。
「この方の…なにを調べれば良いのでしょう」
暗い表情で金色の瞳を伏せながらクロエは尋ねる。長い黒髪がさらりと肩をすべる。クロエは婚約者であるこの王子が苦手だ。
5年前、11歳だったクロエに王子が一目惚れし、王宮に務めるよう命が下った。貧乏貴族からの王太子妃候補は非常に稀な、というより王国始まって以来のシンデレラストーリーだった。
もちろん妬みや誹謗中傷も数え切れないくらいあった。しかしその度にアメディオ王子が大袈裟とも言えるほど、クロエを保護してきた。
ただ、クロエ自身は王子からの愛を感じたことはなかった。慈悲深い微笑みも表面だけのもの。嫉妬や誹謗に対する対応も、いかに自分を良く見せるかが大事であり、クロエの傷ついた心に寄り添ってはいなかった。
「こちらは最近ずいぶん羽振りが良くなってきた商人でね、どうも爵位を欲しがっているらしい。そこで君に素性を調べてもらいたい」
簡単なことさ、と首をすくめてアメディオは言う。
「そんな…忍び込んで調べなくても、真っ当に調査をすれば良いのではないですか」
クロエはまっすぐアメディオの青い瞳を見つめる。
「真っ当な調査では出てこない情報こそ一番大切な情報なんだよ。別に弱みを見つけてこいと言ってるわけじゃない。」
わかるね?と有無を言わせない王族特有の圧をかけ、窓を開ける。
「…わかりました…。すぐに行ってまいります。」
クロエは深呼吸をすると胸元の魔法石にそっと触れる。星色の瞳を持つ夜空のような美しい黒猫の姿になる。
細身の美しい黒猫は音も立てず窓から走り出していく。
「…ケダモノが。」
一人残されたアメディオが笑顔のまま呟く。装飾の施された剣に嵌め込まれた魔法石の中で炎が爆ぜる。
ここまで読んでいただいてほんっとうにありがとうございます!!
拙い文章ですが、楽しく書かせていただきます!




