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戦場の森、勾玉の光

彩花は、スマホの画面を何度もタップしながら、絶望的な叫びを上げた。「うっそ、マジでWi-Fiないじゃん! どうすんの、これ! 死ぬ!」心臓が激しく鳴り響き、手が震える。彼女は17歳、東京の高校2年生。期末テストのストレスから逃れるために、親友の美咲と学校の古い図書館の奥、埃まみれの蔵に忍び込んだのが、すべての始まりだった。美咲は「ここ、秘密基地みたい!」と笑っていたが、彩花は古い木箱の奥でキラキラ光る勾玉を見つけた瞬間、好奇心から指を伸ばした。冷たい玉の感触にビリッと電気が走ったような衝撃、そして爆発するような白い光。次の瞬間、彩花の視界は一変した。

光が収まったとき、彼女の足元は冷たく湿った土の地面だった。セーラー服のスカートが泥で汚れ、ポケットに突っ込んだスマホがやけに重く感じる。周囲を見回すと、鬱蒼とした森。太い木々が立ち並び、葉の隙間から差し込む陽光は薄暗く、かすかに揺れている。空気は湿気で重く、鼻をつくのは焦げたような、鉄のような生臭い匂い。彩花の鼻がヒクヒク動き、彼女は思わず鼻を覆った。「え、なにこの匂い? 焼き肉? いや、絶対違う! めっちゃ不気味…」

スマホを手に取り、画面を確認する。電波はゼロ、電池残量は12%。「うそ、充電器持ってない! これ、ガチでやばいんだけど!」彩花はパニックで周囲をキョロキョロ見回す。森の奥から、ドンドンと太鼓のような音が響き、続いて金属のぶつかる甲高い音と、叫び声。「織田の旗だ! 逃げろ!」とか、「浅井殿、持ちこたえろ!」とか、めっちゃ時代劇っぽい声が聞こえてくる。彩花の頭はフル回転。歴史の授業で聞いたことのある名前…織田信長! 戦国時代!?

「マジ!? タイムスリップ!? いやいや、ありえないでしょ! でも、この雰囲気、歴史ドラマのセットじゃないよね!?」彩花は歴史が苦手で、テストはいつも赤点ギリギリ。信長が天下統一を目指したヤバい武将で、鉄砲を使っていたことくらいしか知らない。でも、この匂い、この音、この空気…すべてが本物すぎる。心臓がバクバク鳴り、汗が額を伝う。とりあえず動こうと、木の陰からそっと歩き出す。足元に落ち葉がサクサク音を立て、彼女はビクビクしながら進む。

突然、目の前にドサッと音がして、人が倒れてきた。ボロボロの甲冑を着た武士で、脇腹から鮮血が流れ、うめき声を上げている。彩花は絶叫した。「うわっ! 死んでる!? いや、生きてる!? 救急車! いや、戦国時代に救急車ないよね!? どうしよう、どうしよう!」彼女はしゃがみ込み、武士の傷を覗き込むが、血の匂いに吐き気が込み上げる。現代の知識で止血しようとするが、手が震えて何もできない。

そのとき、低く鋭い声が森に響いた。「黙れ、小娘! 敵に見つかるぞ!」彩花はビクッと振り返る。そこには、黒い馬に乗った若い女性が立っていた。長い黒髪を高く結い、薄い青の小袖に簡素な胸当ての鎧をまとった姿は、まるで絵巻物から飛び出してきたような美しさ。手に持った薙刀が陽光にキラリと光り、その目は彩花を射抜くように鋭い。でも、よく見るとその瞳には、疲労の影と、どこか儚い寂しさが浮かんでいる。彩花はビビりながらも、思わず見とれてしまった。「え、誰!? めっちゃカッコいい! 戦国コスプレのクオリティ、ガチやばい! アイドル? モデル? いや、リアル武将!?」

女性は馬からスッと降り、ゆっくりと近づいてくる。薙刀の切っ先がヒュッと空を切り、彩花の鼻先にピタリと止まる。めっちゃ怖い! 「何だ、そなた? その奇妙な服、どこの者だ? 織田の間者か?」声は低く、威圧感たっぷり。彩花は後ずさりながら、ハイテンションで手を振る。「間者!? スパイじゃないよ! 私、彩花! 高校2年生! 東京…いや、未来から来た、みたいな!?」

女性の眉がピクッと動く。「未来? ふざけたことを。戦場で戯れ言を吐くとは、命知らずか?」彩花は慌ててポケットからスマホを取り出し、画面をタップ。電池残量10%、やばいけど、証拠を見せないと! カメラを起動し、女性の顔をパシャリ。画面に映ったのは、凛とした美貌。鋭い目元と、ほんの少し緩んだ口元。めっちゃフォトジェニック。「え、めっちゃ美人! これ、インスタに上げたらバズるよ!」

女性が身を乗り出し、スマホを覗き込む。「この光る板…何だ? 妖術か?」声に驚きが混じる。「妖術じゃない! スマホ! ほら、写真!」彩花が画面を見せると、女性は目を丸くする。「…これは、私か? なんたる術だ。まるで魂を閉じ込めたよう…」彩花は笑って言う。「魂じゃないって! ただのテクノロジー! ねえ、名前教えてよ! めっちゃカッコいいし、絶対推せるタイプ!」

女性は薙刀をゆっくり下げる。彩花の無邪気さに、警戒が少し解けたようだ。「…九条葵、此度の当主だ。そなた、怪しいが…害はなさそうだな。」「九条葵!? めっちゃイケメンな名前! いや、女の人だけど! え、葵さん、めっちゃ推せる! 戦国時代のアイドルじゃん!」彩花のハイテンションに、葵は呆れた顔をするが、口元に小さく笑みが浮かぶ。まるで、戦場の重圧の中で初めて見る光みたいな笑顔。彩花はまたドキッとする。え、なにこのドキドキ? 葵さん、めっちゃカッコいいし、なんか…放っておけない!

葵は馬の手綱を引き、森の奥へ歩き出す。「そなた、妙な娘だ。だが、今は戦場だ。織田の軍勢が迫る。ついてこい。」「え、戦場!? ヤバい、ガチの戦国時代じゃん! 葵さん、めっちゃ頼りになりそう! でも、私、死にたくないよー!」彩花は葵の背中を追いかけて小走り。遠くで響く太鼓の音、木々の間にちらつく甲冑の光、葵の凛とした背中。彩花の心は、恐怖と興奮でぐちゃぐちゃだったけど、なぜか葵のそばにいるだけで少し安心した。

森の先に、琵琶湖の水面がキラキラ光る。葵の領地、九条家の城が遠くに見えた。彩花の戦国時代が、今、始まる――。「これ、めっちゃバズるストーリーじゃん…って、SNSないやん! でも、葵さん、絶対私の推しになる! いや、すでに推してる!」ポケットの勾玉が、ほのかに温かく輝いていた。

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