ヤマノケ戦隊!ハイレンジャー
皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申す者でございます! 皆様、ヤマノケってご存知ですか?
そうですね、山のなかでぺったんこらぺったんこら、テンソウメツテンソウメツと跳ねてきて、娘ないし彼女の子宮に侵入して「ハイレタハイレタ!」と喜んだりする怪異ですね。見聞きするお話だと大体取り付かれた人は元に戻れなくなることが多いみたいですが、何だかいいですよね、「テン、ソウ、メツ」の掛け声。
そんな中二心の赴くままに書いたお話です。
是非お楽しみください!
年末年始。
それは多くの人々が歓喜とともに年を越し、新年の幸福を互いに約束し合う、美しい人の心が垣間見える期間である。インターネットでも、多くの配信者がカウントダウンや新年を記念した動画を出すため、孤独に過ごすものたちにも安心だ。
だが、その期間こそが絶望となる場合もある。
学校や幼稚園という逃げ場をなくし、家にい続けなければならない子どもたち──そう、家族からの虐待に、冬休みなどないのである。
年明けを控えた寒い冬の夜。
その日も、ひとりの少女が山道を走る車で両手足をガムテープで縛られたまま運ばれている。運転手は彼女の父親で、その顔は赤い憤怒に彩られていた。
「姫始めはお父さんとって約束してたはずだよなぁ!? どうしてそれを嫌だなんて言うんだ、この親不孝ものめ! そんな子に育てた覚えはないぞ!」
「むむんむむぅ、むんむんむん!」
猿轡を付けられた口では、精一杯の謝罪すら伝えられない──否、そもそもこの少女に謝るべき事柄などありはしないのだが、長年繰り返されてきた身体的・精神的・そして初潮を待ってから始まった性的な虐待の数々は、まだ11歳の少女の心を砕くには十分すぎる凶行だった。
車は人気のない山道を更に外れて、道の途切れた草むらで停まる。父親は暴れる少女の頬を張り、強引に車から引きずり下ろした。
「むぅん!」
「そこでしばらく反省していなさい。彩月が反省した頃に迎えに来るから、それまでに自分がどんなに悪い子なのかをよく考えて、迎えに来たお父さんにそれ相応の態度を示すこと。いいね?」
地面に叩きつけられた痛みに呻く少女──彩月を置き去りに、父の車は去っていく。遠ざかっていくテールライトの赤い明かりは、少女にとって命の灯が弱まるのとほぼ同義であった。
冬の山は、あまりに寒い。
手足は悴み、冷たさや痺れを通り越して何も感じない指先が飢えた獣たちに齧られる様にも恐怖を覚えて。食べ物も飲み物も与えられずに放り出された空腹感、渇き、心細さ──その上訪れる絶望感。
帰っても、またこんな毎日が続くの……!?
車に乗せられる前にさんざん折檻されて綻びつつあった少女の心は、容易く砕けた。
少女が最後に聞いたのは、ぺた、ぺたと何かが裸足で跳ねているような音。片足立ちで迫る、どこかおどけたような足音の主を確かめる前に、少女の意識は闇へと沈んだ────。
* * * * * * *
所変わって、除夜の鐘鳴り響く寺の参道。
BPM220ほどの速さで鐘を突いてフロアを沸かせる僧侶を尻目に、3人の男が下卑た笑みを浮かべて集まっていた。
「すると、皆さんのお子さんもあの山に?」
「えぇ。まったくうちの弥生ときたら、父親である僕を差し置いて幼稚園の同級生が好きだなんて言うんですよ? ちょっと折檻したらピーピー泣いちゃったもんで、静かにさせようとしたんですが……薬が効きすぎちゃいましてね。とりあえず抜けるまでは置いとこうかと。あれじゃうるさくて寝られませんからね」
「ハハッ、小さいうちは元気な方がいいですって。葉月にも見習ってほしいもんですよ、マグロほどつまらんものもない。どうにか声を出させようといろいろ試しているんですが、堪えることで俺に反抗しているようでしてね、ついついムキになり過ぎました……。家に置いておくと今度こそ命を奪いかねんので、とりあえず山に、とね」
「それぞれ、いろんな事情があるもんですねぇ……。私も、彩月が姫始めを嫌だなんて言ってね? …………」
皆一様に、自らの娘に対する凶行を語り合う。酒の肴にするように、自分の雄としての強さを誇示するように、まるで競い合うように娘の痴態を語り、己の振るった拳を語り合う。
その顔は、およそ子を持つ父親のものとは程遠く。
悪鬼羅刹すらもこの者たちに比べたら慈悲の心を解するだろうという様相。
観衆が僧侶たちの披露するブレイキンに見惚れているのをいいことに、男たちの狂った談笑は続く。
「なんだか自分の娘だけじゃ刺激不足なのかも知れないな。どうです、今度みんなで娘さんを交換してみませんか? あぁ、弥生ちゃんはまだそこまで無理させられませんけど、教えるくらいならね」
「ありがたいです。いろいろ教え込む快感はあっても、やっぱり生殺し状態が続くとどうもストレスが溜まって……。皆さんのお話を聞いて羨ましいと思ってたんですよ! 葉月ちゃんみたく反応しない子も新鮮で良さそうだなぁ~!」
「そうですか? フフフ、気分転換になればいいですがね。俺も彩月ちゃんのように素直な反応をしてくれる子に興味が湧いていたところです。どれ、若い頃みたくいかないだろうが、たっぷり鳴かせてみるとしましょうかね!」
嗚呼、これぞ下衆の極み。
畜生とはこの者たちにこそ相応しい言葉である。
醜悪なる笑顔、聞くに堪えぬ暴言の数々。
誰かこの者たちに天誅を下さぬものか。
そう思われたとき、それらは現れた。
「そこまでぞ!」
ザッ!
鋭い声と共に3つ揃った、砂利を踏みしめる音。
ギラつく瞳が、3匹の畜生共を見つめれば。
「むぅ、何奴! ……弥生?」
「曲者──葉月!」
「おのれ何者……彩月……?」
振り返った畜生3匹が相見えるは、己が毒牙にかけ続けた娘3人。しかし、その様子は一見してわかるほどに異様であった。
案山子のように両手を広げ、片足立ちで跳ねる姿は、けんけんぱで遊ぶ幼子にも似ていた。だが、空から垂らす操り糸で釣られたような動きはとても児戯とも言えず。その様はさながら魑魅魍魎の類いとすら言えた。
鐘撞き堂では、僧侶たちのブレイキンに合わせるように半裸の男たちが和太鼓を打っている。冬の冷たい空気に湯気をたなびかせながら、観衆たちの手拍子や歓声と熱と変え、男たちの熱演は続く。
やがて、娘たちと相対する畜生共の耳には、遠くに聞こえる歓声がある一定の響きとして届き始めた。
テン、ソウ、メツ
テン・ソウ・メツ
テン! ソウ! メツ!
その声を受け、娘たちは声を張り上げる。その声は、幼い少女とは似ても似つかぬ、嗄れながらも威厳に満ちたる声であった。
「テン! 天網恢恢疎にして漏らさず!」
「ソウ! 総毛立つよな畜生働き、逃しちゃおけぬ!」
「メツ! 滅してくれよう、悪党どもよ!」
トォゥッ!!
一斉に少女たちが跳ぶ!
否、否!
跳ねたのは少女たちに非ず、その頭部のみ!!
ぶちぃっ、ずるぅぅっ
脊椎をぶら下げ、天高く舞う少女たちの頭部。八方を睨む龍が如く、畜生3匹を見つめながら降り立つ頃には、残った皮膚すら溶け落ちて。
現れたるは、紛れもなく山の怪異。案山子のように両手を広げ、一本足で跳ねるそれらを、いつしか人はヤマノケと呼んだ。
硬直したように動かぬ畜生共を睨みながら、名乗りをあげた。
「胎借り宿る怪異の名の下、狼藉者を成敗いたす! 勧善懲悪、因果応報! ヤマノケ戦隊・ハイレンジャー!!!」
ブヂュバァァァァ~~~~ッッ!!
3匹の名乗りを合図に、頭をなくした躯がその場で炸裂する。噎せるような血煙、そして臓腑の雨に降られながら、ハイレンジャーは畜生共を囲んでいく。
天の目で咎人を捕らえるハイレンジャー・テン。
猛る正義の心を拳に宿すハイレンジャー・ソウ。
狼藉者に滅びの裁きを下すハイレンジャー・メツ。
この3匹に見つかって逃れられる悪党、この世になし。
「彩月……じゃあないだと?」
「なんだ、何なんだお前たちは!?」
「うちの娘に何をしたァ! 許さん!」
自らの所業を忘れて声を荒らげる下郎に、容赦する必要はなし。今こそ成敗の時!!
ハイレンジャー・テンが、和太鼓の音色に乗るかのように空を舞う。ソウは地龍の這うがごとく腰を落として一本足で駆ける。そしてメツが両手を組み、波動を放つ力を溜める。
そして狼狽する畜生共に、鉄槌を下す!
「今際の嘆きを聞き遂げて!」
「我ら山より降り立った!」
「外道畜生狼藉者共、神妙に致せい!」
「「「テン・ソウ・メツ!!!」」」
「「「あっ、あぴゃあぁぁ~~~~」」」
テンの飛び蹴り、ソウのラリアット、メツの波動が悪辣なる人間たちを一斉に襲う!! 3人の悪党は、世にも無様な悲鳴と共に、その場に崩れ落ちて二度とは動かなかった。
その魂の受ける沙汰は、閻魔のみぞ知る。
「よっ、日本一ィッ!!」
鐘撞き堂の催しが華々しく終わり、観客たちは熱狂しながらカウントダウンライブを見続けている。
3匹のヤマノケはその光景を見守りつつ、倒れ付した畜生共を満足げに見下ろしてから、人知れず山へと帰っていった。
日はまさしく大晦日。
今年の穢れは今年のうちに。
来年の穢れは来年速やかに。
今日も明日も、ヤマノケたちは往く。
往け往けハイレンジャー、頑張れハイレンジャー。
入る胎と嘆きの声がある限り、彼らの戦いに終わりはないのである……!!
前書きに引き続き、遊月です。本作もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪
テン、ソウ、メツ。
全てはこの掛け声から始まりました。Y◯uTubeで怖い話系統の動画を漁っていたとき、思ったんですよね──この「テン、ソウ、メツ」って、ヒーローの名乗りみたいだな、と。
そもそも作者がヤマノケをはじめとする「洒落怖」の怪異たちを知ったのは叙火先生の成人向け漫画『八尺八話快樂巡り~異形怪奇譚~』なのですが、収録されている他のエピソードだと「猿夢」も怖かった覚えがあります。あんなの、見たらもう詰みですからね……! 興味が湧いて原作(?)のスレッドを見たときの『こっちの世界では心臓麻痺でも、あっちの世界は挽肉です……』という締めの文言がとても怖かったのを覚えています。夢の中で遊園地で走っているような小さい電車を見かけても、乗るのは遠慮したいところですね。
ということで、ハイレンジャーのお話でした。
補足情報として、テン、ソウ、メツの宿主となった女の子たちは、彼らに取り付かれる前に命を落としています。悲しいですね。
ということで、また別のお話でお会いしましょう!
ではではっ!!