第50話 おまけSS③
「ね、小南江ちゃん。相談があるの」
放課後、舞亜瑠が小南江に話しかけた。
「ん? なに?」
「最近、山本先輩がイマイチ……なんというか、私を妹扱いにしてるっていうか」
「いや、妹じゃん」
「血がつながってない義妹! ってことはだよ、私の事、もっとこう、意識してもよくない?」
「いやいや。今はともかく、小学生のころから一緒に住んでたんでしょ? もう家族じゃん。人間って、家族にはそういう感情なくなるらしいよ」
「そんな……私はずっと……」
ぶつぶつ言う舞亜瑠。
と、小南江がいいことを思いついた、という顔をして、
「ね、だからね。そういうのって、倦怠期の夫婦でもあるんだって。で、倦怠期を脱するためにどうするかというと……」
「どうするの?」
「コスプレに決まっているでしょ!」
★
「ただいまー」
誰もいない家に、武士郎は声をかけて玄関を開ける。
開けた瞬間、武士郎は文字通り腰を抜かしてその場にへたりこんだ。
なぜなら、そこには。
執事がいたからだ。
髪の毛をオールバックになでつけ、宝塚みたいなメイクを施した、燕尾服の執事がいたのだ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
作ったようなハスキーな声。
しかし、武士郎が目の前の人物を見間違うわけがない。
まちがいなく、舞亜瑠だった。
「…………なにしてんの」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「……今日はどういう趣旨?」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ほかにセリフのバリエーションないのかよ!」
「だって、執事だなんてよくわかんないし……」
武士郎はあきれ果てて、
「だからなんで執事なんだよ!」
「だって小南江ちゃんが! いつもと180度違う恰好がいいってこれをすすめてくれたから!」
「あいつか! 今いるのか、おい、小南江!」
武士郎が呼びかけると、キッチンの方から犯人が出てきた。
「どうもっす。どうです先輩。今日のマルちゃん、ドキッとしませんか?」
その小南江はメイド服姿だった。
しかも、かなりきわどい。
それでなんでパンツが見えないの? って聞きたくなるほど短いスカート、脇の下あたりになぜかスリットが入っていて白い肌が丸見えだ。
「お前にドキッとしたよ! 馬鹿!」
「えへへー。ポチに見せてあげようと思って」
「それ、いくらしたんだ」
「Vtuberのアバターより高かったすよ、マルちゃんのおごりだけど」
「マジでお前らなにやってんだ」
もう武士郎はかける言葉もない。
「あのさー、小南江ちゃん」
舞亜瑠が口をとがらして言う。
「なに、マルちゃん? ほら、ちゃんと執事っぽく喋らないと」
「逆じゃない?」
「なにが」
「どうみても山本先輩、小南江ちゃんの方にしか視線が行ってないんだけど」
「ふふふ、先輩だめすよ、私はポチの飼い主なんだから」
はあ、と武士郎は大きなため息をつく。
「そんな姿、父さんと母さんに見られたらどう思われるか……ってか小南江、お前はマジでどうかしてる」
「そうすか? ね、先輩、今日のマルちゃんどうすか? いつもと違った雰囲気で、ビビビッってこないすか」
「メイクが濃すぎるだろ……舞亜瑠はいつもの恰好が一番かわいいよ」
そう言ってから、武士郎はしまった、と思った。
舞亜瑠の顔が見る間に赤くなっていく。
「そ、そうなの、おに……先輩?」
「い、いや、今のは言葉の綾で……」
「えへへ、そっか、お兄ちゃん、普段の私の事、ちゃんとかわいいって思ってくれてたのかー」
宝塚風執事姿で、モジモジし始める舞亜瑠。
「で、先輩、私はどうすか? エロいすか? このあとポチにも見せるんすけど」
「お前は頭がおかしい」
武士郎は言い捨てて自分の部屋にもどろうとして――。
「そのエロいメイド服、舞亜瑠の分はないのか」
気になったので聞いてみた。
「え、お兄ちゃん、私のメイド服姿見たいの!? じゃあ今から注文する!」
「しなくていい! ちょっと聞いてみただけだ」
正直、危なかった。
舞亜瑠があんなエロいメイド服を着ていたら、実際クラッと着ていたかもしれない。
「じゃ、マルちゃん、このメイド服着てみる?」
「うーん、胸の辺りが入らないと思う……」
小南江は執事姿をしている舞亜瑠の腕に抱き着いた。
「パッツンパッツンになってエロさアップするよ! 横乳が出る! よし、今から着替えに……」
そのときだった。
武士郎の後ろで、玄関のチャイムが鳴ったかと思うと、返事も聞かずにドアがガチャリと開いた。
星子だった。
星子は執事に抱き着いているエロメイドの小南江を見て、持ってきていたプリングルスの容器をこん棒のように握った。
「浮気……」
「い、いや違うの! ポチ、これは違うの! これには深いわけがあって……」
星子があまりにも強い力で握りしめたので、プリングルスの容器が壊れてサワークリームオニオン味のチップスが散らばった。
「そのメイドは……私のものなのにぃ!」
舞亜瑠につかみかかろうとする星子を止め、説明してなだめるのに小一時間はかかってしまったのだった。
結局、舞亜瑠が着ていた執事服は、星子に譲られることとなり、誤解させたおわびとしてなぜか武士郎が三人にカメダコーヒーでご飯をおごることになってしまった。
武士郎は思った。
小南江と星子……この二人、ぜったいこのコスプレでエロいことをする……。
「で、お兄ちゃ……山本先輩。じっさいのところ、山本先輩はどんなコスが好きなの?」
「別に……」
武士郎はぶっきらぼうに答える。
なぜなら、武士郎が好きなのは、いつもの制服姿をしている舞亜瑠だからだった。
もちろん、そんなことは口が裂けても言えないのだったが。
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