09 正体は
本棚には様々な題の本が置かれている。『術式理論』『魔力とは』『生命力と魔力』『肉体改造』。それらも興味深いのだが、挟まれた冊子の内容がさらに興味をそそる。『不老不死への道』『被検体の記録』。『魔珠の特性』という紙切れも気になる。
他の三人も各々本棚を向いている。私もまず『不老不死への道』から読んでみよう。
魔珠を飲み込んでも効果は見えない。消化されることなく排泄されただけである。個体によっては吐き戻すこともあるだけで、利益はない。皮膚の下に埋め込んでもすぐには効果なかった。一ヶ月ほど観察すると、徐々に体調を崩し、死亡した。魔珠の力に耐えきれないのだろうか。
思い付きで心臓の代わりに魔珠を入れてみる。少々特殊な術式が必要だが、問題なく生存を続けた。元の心臓と同じくらいの大きさの魔珠を入れれば動物の体は少し大きくなり、さらなる養分を求めてか、その他の動物を積極的に襲い、心臓を喰らうようになった。この時に使う、魔珠を心臓に代える術式を心珠術式と名付けよう。
大量の獲物を用意し、被検体に心臓を食らわせる。百体ほど数えたところで、魔珠の大きさを確認すれば、一回りほど大きくなっていた。その他、魔珠を埋め込んだ動物は食事や睡眠が不要になっていた。食事を与えれば取り、放置していれば睡眠も取るが、食事を与えず、眠れない状況を用意しても、生命の維持に問題は見られなかった。
私達が魔珠と呼んでいる物をこの人物も魔珠と呼んでいる。この冊子ではやはり何からできているのか分からないが、私たちが異形と呼んでいる物の一部に魔珠が埋まっていた理由は分かった。人工的に生み出していたのなら、生み出した人物を捕まえてしまえば増えることはない。解決の糸口は見つかった。
次に手がかりとなりそうな物は『魔珠の特性』か。
魔珠は生命そのものだ。無限の可能性を秘めている。魔術の補助具として使用できるが、単純な補助具とするには勿体ない代物だ。人の力を超えた魔術の行使さえ可能にする力を持っている。気を付けるべき点は、何らかの制限を設けなければ永遠に作動し続け、周囲の命をも消費してしまう点だ。
ただ一つの出入り口から、ゴゴ、ゴゴ、と何かを引きずるような音が聞こえてくる。ゴリゴリと削れるような音と、金属同士が擦れるような甲高く不快な音まで聞こえた。
「何だ?」
集中を妨げるその音に視線を向けても、まだ何も変化はない。部屋全体が揺れているような感覚はあっても、音の発生源と思われる通路からは何も現れない。フィヒター先生が私達を守るように剣を抜き、通路の前に立つ。カイも槍を構え、その隣に並んだ。
いつでも術を発動できるよう準備を整えたエーデルシュタイン先生も待ち構える。今のうちに手に入れた情報を共有しよう。これから現れる何かへの対処に役立つかもしれない。
「なるほど。こっちには人工生命体についてのメモがあった。」
カイの見つけた情報も魔珠の利用法に関する物だった。新たに生命体を作り出そうというものだが、成功例はない。
「だけど魔力人形って物は生み出せたんだって。」
気掛かりな名称だ。話すカイも不安そうにしている。魔力を用いて他の物を操る技術はあるが、それは生命体を作り出すわけではない。ただの物に魔術をかけ、指定した動きを一回させるだけの魔術。何度も同じ動きを繰り返すためにはそれだけ魔力が必要で、術士の体力の消耗が激しいものとなる。
先生達の見つけた情報を共有する前に、通路から薄っすらと大きな影が近づいた。通路いっぱいの身幅で、振り返ることも難しそうだ。頭も天井に掠っており、先程から聞こえていた音の一つはこれだったのだと分かった。
「なんだ、これ。」
人型の岩だ。二本ある足で一歩一歩近づいてくる。剣で斬れそうにはない。むしろ刃が欠けてしまいそうだ。槍も突き刺さるだろうか。魔術中心で戦うことを考えたほうが良さそうだ。生物には見えないため、傷つけても動きが鈍るかどうか怪しい。動きを止める方法を探したほうが良い。何か絡繰りがあるはずだ。
私とエーデルシュタイン先生で様子を探る。どうこちらを認識しているのか、肉体を削るフィヒター先生とカイにも見向きもせず、私たちに真っ直ぐ向かって来る。諦めて私が魔術を打ち込み、撃退方法の探索はエーデルシュタイン先生に任せた。
氷の礫を飛ばしても効果はない。足を地面に貼り付けようにも一瞬も耐えられずに氷は割れる。天井はどんどん削れ、いつ落ちてくるかといった状況だ。人型は腕を振り回している。交戦するには狭い部屋で、逃げ回って魔術を行使しても人型の体を削り取ることもできない。これはエーデルシュタイン先生の解説を待つしかないのか。
「侵入者を感知したら動くようになってる!」
人型が天井と壁を削りながら動くせいで、互いの声が聞こえ難い。他にもエーデルシュタイン先生は何か言ってくれているようだが、内容までは理解できない。しかし人型に組み込まれた術式を浮かび上がらせてくれたおかげで、おおよそ何を伝えたいかは分かるようになった。円が幾つも重なり、魔術言語によって起動条件やどういった場合にどんな動きをするかなどが書かれている。今必要なのは停止条件だ。
長々と記述されているものが動作の指示だ。人型の要となる物は魔珠のようである。起動条件から逆算して停止できれば良いが、この部屋の入口付近を踏めば起動するとも見えるため、それも難しそうだ。
「ちょっと待って!探す!」
階段は狭かった。廊下も細かった。この部屋の天井も低い。それらは人型が削りながらでなければ動けないほどだ。つまり外から持ち込むことは難しい。外で作り、階段から搬入したのなら、もっと激しく壊れていたはずだ。そうすると人型をこの場所で作り上げたことになる。設計図がここにあるのではないだろうか。
人型はゴリゴリと天井を削りながら移動を続けている。私とエーデルシュタイン先生の動きに気付いているのか、フィヒター先生にも見向きもせず、なお近づいてくる。私達の行動を理解しているのかもしれない。それとも武術による攻撃は全く脅威ではないという行動だろうか。ともかく、この人型はきっとこの場所を守るための物だ。散らばった書物がここで研究している内容で、安心して研究に専念するため、侵入者を排除しようと作り出された。その設計図なら最後の研究内容となるだろう机の上の物たちとは別の場所に保管されているはずだ。頻繁に出し入れされたような形跡のある棚でもない。痕跡の少ない、先程は誰も探らなかった本棚を選び、題を見ていく。『魔珠式魔力人形』。おそらくこれだ。
「危ない!」
動きにくさに苛立ちでも感じたのか、はたしてこの人型に感情があるのか定かではないが、部屋の中央の机を蹴飛ばした。その机は私のいる方向に飛んでくる。
「燐、こっち!」
フィヒター先生も気を引こうと剣で叩いてくれている。エーデルシュタイン先生も術式の解析を一時中断し、部屋が崩れる危険を冒して人型の足を土で拘束する。私の手は先程見つけた本を離さないが、反対の手はカイに掴まれていた。
「早く!」
机から落ちた紙切れを踏めば滑ってしまいそうだ。割れた瓶の破片も怪我の元になる。用心深く移動したい。しかし人型も迫っている。カイが私を引っ張り、奥の部屋へと連れ込んだ。私でも屈まなければ入れないほど小さな入口は人型の侵入を防いでくれる。周囲を崩せば追って来られるだろうが、それよりも標的を変えることを選んだ。
早くあれを止める手がかりを見つけなければ。パラパラとページを捲り、先程エーデルシュタイン先生が浮かび上がらせてくれた術式に似た図形を見つける。人型に似た絵もある。これが本当にあの人型の術式なら、頭部にある紅い点が重要な部品だろう。
「頭を壊して!」
個々の攻撃では壊せなかった。全員の攻撃を一点に集中させれば、割れ目くらい作れないだろうか。威力を高め、頭部を打ち砕きたい。そのための魔術は用意できていない。そうなればここにある紙とペンを使って術式を描くか、詠唱するかの二択だ。人型が何を以てこちらを認識しているのかが分からない以上、紙とペンを取りに行くのも危険だろう。かといっても声を出すのも危険かもしれない。どちらかを取る必要がある。小声での詠唱が最も安全だろうか。
私は詠唱を大方済ませ、残り一言で発動できる所で待機する。エーデルシュタイン先生も同じようにいつでも発動できる状態にし、フィヒター先生の合図を待っている。カイも槍を頭部に向けて構えた。
「やれ!」
鉄のように硬い氷をぶつける。反対側からも同じような衝撃が加えられている。物は見えないため、エーデルシュタイン先生がよく使う風の魔術だろう。カイは人型の頭部を天井に埋めるような一撃を繰り出し、フィヒター先生も頭部を斬り落とすように刃を振るった。
崩れ落ちる天井の破片。それでも人型は動いている。頭部が埋まったおかげで手足をばたつかせているものの、躱しやすくはなった。それでもすぐ移動できる状態にはなってしまうだろう。これでもまだ人型を無力化するには至っていない。
「魔珠だ。燐、頭部に埋まっているのはきっと魔珠だ。そうでないと動き続けている理由が説明できない。」
人型は魔術で動いている。魔術の発動には魔力と術式もしくは詠唱が必須だ。術式は刻まれている。魔力はあらかじめ術式に込めておくこともできるが、その場合、時間経過で人型は動かなくなるはずだ。あれだけの巨体を動かすための魔力となるとそれ相応の量が必要になる。準備にどれほどの期間がかかることだろう。そうなると一つの答えが思い浮かぶ。周囲の魔力以外に人型は魔力を得る手段を持っている。魔力は命で代えられる。心臓は魔珠に代えられる。魔珠は生命そのもの。まだ何か情報が足りていないように感じられる。
設計図と思しき紙に書かれた人型の頭部に埋められた紅い物が魔珠であると仮定し、対策を考える。魔珠は大きな力を持っている。多くの魔力に代えられる。しかし無限ではない。このまま人型が動き続ければいつかは魔珠も消えるだろう。それがどれほど長くかかるかは分からない。私達は早くあの人型を無力化したい。魔珠を早く使い切るには、魔珠の力が人型以外に向けば良いだろう。
再び人型は移動を始めている。気を引いてくれてはいるが、このままではこの部屋が崩れるのも時間の問題だろう。幸い、魔珠が頭部にあることは分かっている。使用目的を限るよう魔珠に直接術式を刻み込んだ時に使った魔術が役に立つだろう。問題は頭部も揺れ動いていることか。
「一秒でもいい。動きを止めて。」
三人で協力すれば一秒程度なら止めてくれる。先程の一撃を再びカイが見舞ってくれれば、それでも稼げる。次は方向を定め、フィヒター先生も天井に埋めるように意識してくれる。エーデルシュタイン先生は天井が崩れた際に備えて、魔術を用意してくれていた。
転写する術式は無駄の多いもので良い。詳しく書き込む必要はない。ただ人型に魔力が流れ込まないようにすれば良いだけ。魔珠を使えば傷一つ付けられなかった人型を破壊することもできるだろうか。
「《粉砕》。」
爆破するようにしては魔術が上手く発動した際に飛び散った破片で私達が怪我をしかねない。そう砂の粒どころか霧のように細かく粉砕した。とても非効率的な魔術だが、魔珠に術式を刻んだため、疲れはない。私への負担は術式を刻むための魔術を使った分だけだ。
ドスンと人型は膝を付き、床に倒れ伏した。頭部があった場所からは紅い球が転がり落ちる。エーデルシュタイン先生の推測通り、紅い珠は魔珠だ。無駄に使用したが、まだ形を保っている。人型に動く気配はもうなかった。
「もう、終わりだよな。」
「お疲れ様。」
互いの健闘を称えつつ、室内の探索に戻る。これでようやく他の書物やメモを熟読できる。今一番読みたい物は人型に関する物だ。停止させるために流し読みしたそれを今度は好奇心のままに読み込む。それによるとこの人型は部屋や通路を感知する術式と連動しており、それに基づいて移動や攻撃を繰り出していたようだ。そのため、人型から見えるかどうか関係なく行動できる。人型が動かない今、感知する魔術だけが稼働していても脅威ではない。
人間がいた形跡はあった。しかし最近利用した痕跡はなく、長く放置されていたようである。何も書かれていない紙と使えるペンがあった。万一誰かが久しぶりに戻ってくれば私たちが侵入者として見つかってしまうが、巨狼もすぐ近くを通る場所に戻ってこられる人などそういないため、さほど心配は要らないだろう。
「魔珠を生物に埋め込んだ理由は知りたいね。そのための術式をわざわざ作って、心珠術式と名付けるほど利用してるんだから。」
埋め込まれた生物たちがどんな被害をもたらしたか知っているのだろうか、もう製作者は亡くなっているのだろうか、ただの好奇心で作り始めたのだろうか。疑問は幾らでも湧き出てくる。もし製作者が生きているのなら尋ねてみたいことが沢山ある。対話を試みるのなら感知の術式だけでも無事に残しておくべきだろう。人型は壊してしまっているため、せめてというくらいの意味合いにしかならなさそうだ。自分の物を勝手に壊されて面白い人はいない。
まだ奥にも部屋がある。そちらの探索の安全性を最優先にするのなら、感知の術式も壊してしまっても良い。探索したい気持ちは四人とも同じだ。見える術式は壊していく方針に定め、奥の部屋へと足を踏み入れた。
「檻?やばいな、これ。」
人間でも小さく丸まれば入れそうな大きさの檻が幾つも並べられている。そのうちの幾つかには猫らしき生物が入っていた。魔珠を埋め込まれた生物だろう。今も生きているのは魔珠のおかげか。生物として必要な食事や排泄の痕跡もない。この生き物を放置して生み出した者はここを廃棄したようだ。
こちらの部屋にも机の上に放置された本がある。下にも小さな本棚が設置されている。題は『猫18』『猫19』、『被験体の魔珠の変化』。観察記録らしき物と、それらをまとめた冊子のようだ。そのうちの一冊、観察記録らしき物を読み上げる。
「心珠術式を施す。用いた魔珠は被験体の心臓の半分程度の大きさ。
七日後。爪、牙が鋭くなっていた。今日から水、食事を与えない。
さらに七日後、実験開始から十四日後。体重変化なし。
さらに七日後、実験開始から二十一日後。被験体より大きな生きた猫を餌として与える。被験体が食することに成功。」
体長、体重などの変化も細かく記録されている。一冊に一匹の情報が記載されており、棚にずらりと同じような題の本が並べられていた。どれも実際の状況を想像したくない内容だ。
観察記録以外の本を一つ、『被験体の魔珠の変化』なら有用かつ想像しなくても良いような情報が載っていないだろうか。
「猫18と19を狭い檻に閉じ込める。五日後、猫二体は始終体が触れている状態にも関わらず、争う様子を見せない。体に傷がないことから、見ていない時も争っていないと思われる。
さらに二日後、開始から七日後。一体だけ餌として心珠術式を施していない猫を放り込む。一転して二体は奪い合う。しかしその過程で足がもげても胴体ばかりを取り合っている。勝敗が決した後、最初に食べたのは心臓、次に脳、それからその他内蔵の順だった。
さらに十日後、開始から十七日後。猫18と19を捌き、魔珠を取り出す。心珠術式を施した当日より魔珠は僅かに大きくなっていた。」
悪趣味な実験だ。気分が悪くなっていると、他の冊子を読んでいたエーデルシュタイン先生も有用な情報を見つけたのか、要約して内容を教えてくれる。そこには魔鷲という存在について書かれており、西に向かって飛び去った、と。こちらも大きな魔珠を用いて心珠術式を施しており、おそらくは私たちが巨狼と呼んでいる物に近い存在だ。私たちが戦った巨狼と思しき記述もあったが、ここでは魔狼と記載されている。他にも巨狼と同じような異形が存在するという記述もあった。それならそちらも討伐しに行ったほうが、この世界の人々は安心できるだろう。
「カイ、大丈夫?」
フィヒター先生の声に振り向けば、カイの顔色が悪くなっていた。空いた檻を良く見れば、赤黒い物で汚れている。先程の情報のせいか、乾いた血に見えて仕方ない。檻に入ったままの猫のような生き物は大人しくしている。このまま閉じ込めておけば危害は加えられない。
「この猫、どうするんだ?」
「殺しておこう。」
「この子達は何もしてないだろ。そんなことしても良いのか?」
カイは弱々しく疑問を呈する。食べる目的ではないのに殺すことにもようやく慣れてきたかという頃なのに、これには抵抗した。危害を加えてくるという理由すら奪われてしまったからだろうか。もっとも、今回に関しては私も特別殺す理由はないように思う。外に出るのなら人間に危害を加えることもあるだろう。今までも今も自力で檻から出ていないのなら、これから檻を壊して出るとも考えにくい。
一方、巨狼が倒されたことでこの近辺に今までよりは来やすくなった。誰かがこの場所を発見し、閉じ込められた猫のような異形を哀れに思い、鍵を壊してしまうかもしれない。そうなればこの異形は外へ出て、周辺の動物を襲うだろう。既に各地に何体も存在するため、微々たる違いとも言える。それでも今回の旅の目的を思えば、異形は少しでも減らしておきたい。
「次に行こう。これ以上見ないほうが良い。」
ちらりと他の部屋を見に行っていたエーデルシュタイン先生が戻ってくる。何を見たのか、探索を中断し、ここから出ようと私たちを促した。彼が一人様子見した部屋を覗けば、木の板や木屑が散乱していた。奥に何があったのだろう。さらに顔を覗き込ませようとすれば引き戻される。小声でカイには伝えないでと言われたのも、奥にあった物への興味がそそられる。
「殺す必要はなさそうだね。さ、行こう。」
「本当に?良かった。じゃ、一旦帰ろう。」
「何が良いのかしらね。私たちの倒すべき敵がまだいることがわかったのだけれど。」
安堵するカイに、目的を忘れないフィヒター先生。今回の目標は巨狼だったが、その目的は人類の脅威を排除すること。それはまだ残っている。手がかりは鷲に似た姿なのだろうという点と西へ飛び去ったという記述。そちらも探して討伐するつもりなのだろう。
先導して地下から外へ出るフィヒター先生。カイもここに長く留まりたくないのか迷わずついて行く。探索を続けさせたくなさそうなエーデルシュタイン先生も退路を断つように後に続いた。
今だ。先程隠された部屋に入る。既に放棄された久しいせいだろう、生々しい痕跡は残されていない。しかし綺麗に片付けられているわけでもなく、骨は残されたまま。餌とされた動物の骨だろうか。ここには檻と骨しかない。手がかりになりそうな書物やメモが置かれていないどころか、机すらない。飼育部屋だったのだろうか。他の幾つかの部屋も軽く覗いてみたが似たような内装で、新たな手がかりを得られそうにはなかった。だからエーデルシュタイン先生は調査を打ち切り、早く出ようとしたのだろう。
「燐!他の研究所を探しながら戻ろう。ここには何もない。」
私が調べていてはカイも興味を持ってしまうかもしれない。これらは見せたくない物だ。村で動物を狩っていた素振りを見せるカイが一番こういった物を好まないようだから、早く戻ってあげよう。確かにここからこれ以上の情報は得られそうにない。それよりも魔鷲と記載されていた異形の相手をする準備でもしたほうが良い。空中でも私とエーデルシュタイン先生の魔術があれば対処できるが、先程の人型のようなことがあってもできることは考えておきたい。フィヒター先生とカイが空中の相手に対してできることも限られている。対策の必要はあるだろう。




