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星合燐の降臨  作者: 現野翔子


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10 次の目的

 道すがら遭遇する異形も注意深く観察する。ほんの少しでも手がかりが欲しいからだ。ここから西へ飛び立ったというだけでは見つけられない。向かいつつ情報収集も必要だろう。そんな努力が実ったのか、異形には猫のような見た目の物が多いことに気付く。先程探索した施設でもそれらに関する記述が多かった。猫や狼のような四足の生き物以外となると鷲に関する記述くらいしか記憶に残っていない。今いるような森なら鳥の一匹でもいておかしくないだろうに、囀りも聞こえない。異形に恐れをなしてどこかへ逃げてしまっているのだろうか。

 他に新しい情報と言えるような物は見当たらない。足元にも似たような施設が隠されていないかと探してはいたが、蓋のような物もない。変わらない木々と茂みの風景が続く。出迎えてくれる見張り番も同じだ。

「帰ってきたねー。」

「その前に一仕事、ね。加勢するわ!」

 また熊のようなの異形に襲われていた。今回も退治はできていそうだが、人手は多くても困らない。私たちも戦うのには慣れている。しかしカイは施設で発見した物や事実を消化できていないのか、動きが鈍い。

「この異形達も元はただの動物だったのかな。なぜか異形以外の普通の生き物を積極的に襲うようになっただけで。」

 彼らも実験の被害者だと言わんばかりの言葉だ。それが事実だとしても、彼らを元に戻す方法が分からない以上、ここに生きる人達は異形を倒さなければ自分達の命が危うい。異形に同情する余裕などない。外部からやってきて色々言いたいなら元に戻す方法を探すべきだ。しかし今はまず私達も目の前の危険を排除しなければ、この町の命を見捨てることになる。

「カイ、異形を助けるか、人を助けるかだ。異形がただの動物だったとしても、危険は排除しなければならない。」

「どうしても殺せないなら後ろで見ていたら良い。今は余裕がある。」

 厳しい先生達の言葉にカイは怯む。気遣う言葉でも思いつければ良かったのだが、私には何も言えない。彼と同じ気持ちではいられないから。私は異形を殺すことにも抵抗がなく、どうしても人々を守りたいという思いもない。ただの様々なことを教えてくれた二人の先生と、勉強に付き合ってくれたラファエルさんのために、彼らの望みを叶えてあげたいと思っているだけだ。

「この子達は、前はどうしてたんだろう。ただ生きてただけだよな。悪い事をしたいなんて思ってなかった。元に戻った時、前みたいに生活できるのかな。」

 生きるための戦いに良いも悪いもない。この異形達に感情があるかも分からない。彼らの住処も異形によって荒らされているだろう。戻っても異形に襲われる。異形が既に討伐されていても、獲物となる動物や食料となる植物が失われていれば飢えて死ぬだけ。その上、まず元に戻す方法が必要だが、それが見つけられていない。心珠術式を応用すれば可能性が全くないわけではないが、既に生身の心臓が失われている彼らから魔珠を取り除くのなら、他に何か心臓の代わりになる物が必要となる。この異形を助けるために別の生き物を犠牲にするだけだろう。

「できないよ。この異形の代わりに誰を殺すって言うの?この異形達の心臓はもうないんだよ?」

 他の個体の心臓を入れたとて正常に稼働する保証もない。救う手立てはないと思って良い。既に先生達は戦っている。私もこうして見ているつもりはない。まだ迷うカイを置き去りに、魔術を発動する。氷の礫なら後片付けも楽だ。勝手に溶けて地面に水が落ちるだけ。それもいずれ太陽が乾かしてくれる。空いた穴を埋める必要も、投擲した武器を回収する必要もない。この町の人達の戦う姿も様になっている。慣れたものなのだろう。難なく敵の数を減らし、誰一人欠けることなく最後の一体を切り刻んだ。

 少なくとも魔珠の入った異形は人工的な生物だ。一方で魔珠のない異形については不明のまま。これだけ倒しているのに出現し続けている理由も分からない。心臓の中に小さな破片が見つかったこともあるため、魔珠がないのではなく見つけられない、と言ったほうが正しいのかもしれない。あの施設は既に放棄されていた。他の場所で生み出しているのだろうか。魔珠のない異形に関する記述はなかった。そちらに関しては全くの別件で、他の研究所で研究されていた可能性もある。魔珠の入った異形も多かった。一体全部で何個になっているのだろう。そもそも最初の魔珠はどうやって作り出したのだろう。

「ご助力感謝します、御子様御一行。」

「当然のことをしたまでだよ、アイヒェル。それより伝えたいことがあるんだ。」

 巨狼を倒したこと、施設で得た情報、特に魔珠の入った異形は人工的に作り出されていることをエーデルシュタイン先生が分かりやすく説明してくれる。魔鷲のことも伝えてくれた。ここで手がかりを手に入れられたならすぐにでも討伐に向かうつもりだ。

 アイヒェルさんからも情報を聞き出す。私達がいない間も異形の襲撃は続いていた。問題なく退治したようだが、やはり数の多さへの疑問は解消できない。他にも施設があると考えるべきだろう。巨狼がいないなら彼らでも調査はできると、快く送り出してくれた。次の目的地は西部最終防衛線、ここ同様に異形との戦いの激しい場所。巨狼を見つけられた今回のように、そこでも上手くいくと良い。

 詳しいことは北部最終防衛線で聞いても仕方ない。ひとまず西部最終防衛線へと向かおう。防衛線内部の移動ならそう緊張することもない。迷いの振り払えないカイがいてもそう大きな問題は起きないだろう。


 移動のための装備の点検を行い、食料の融通をしてもらい、いざ出発だ。巨狼捜索中より気軽な旅路は私達の気の緩みも招いていた。

「異形って意外と食べられる味よね。ただの猫は食べたことないけど、異形になったら味が変わるなんてこともあるのかしら。」

「さあ、どうだろうね。犬を食べる地域の話なら聞いたことがあるけど。」

 エーデルシュタイン先生は知識が豊富だ。小さな異形たちを倒しつつもその知識を共有してた。何匹も殺して魔珠を回収するいつもの流れ。野営の場所も定めれば、その日殺した異形が夕食に上る。しかし今日は何故かカイの食欲が落ちていた。

「村にいた時はさ、飼ってたんだよ。こっそりだけど。ずっと可愛がってたんだ。」

「これはその子じゃないわ。」

 猫型の異形は以前にも倒したことがある。その時はこんなことを言わなかった。話せるような間柄になれていなかったのか、そんなことを考えたり思い出したりする余裕もなかったのか。先生の慰めも空しく、カイは俯いたままだ。私も元気でいて欲しいと思っている。食べなければ体力も落ちる。

「カイはどうしたの?食べたくないの?」

「そういうわけじゃないけど、あんな実験されて、殺されて、可哀想だろ。残酷すぎる。」

 実験は確かにされていたようだった。しかし殺されて食べられるのは他の家畜も同じだ。人間の都合で食べるために飼育し、都合の良い時期に殺している。ただ、食べることも反撃することも生きるために必要なことだ。

「食べるより無駄にしてる気がする。」

 ゆっくりではあるが食べ進められているため、他の話でもして気を紛らわせてあげたほうが食べやすいかもしれない。今食べている物を意識せず、美味しいと思って飲み込めるように。エーデルシュタイン先生に調理法でも聞いてみようか。図書館で料理に関する本を探しても良い。街に戻ったらラファエルさんにも聞いてみよう。今すぐにできることは話を逸らすことだ。

「村ではどんな料理食べてたの?」

「鍋物が多かったかな。単純に焼いただけの肉も美味しかったな。良い肉が手に入った時だけだったけど。」

 野菜の栄養も無駄にせず美味しく食べるために煮込み料理。今回も旅の食事のため、手の込んだ料理はできないが、できる限り長く煮込み、食べやすく調理してくれている。異形肉も焼いただけで美味しく食べられるが、原型が分からないほうが抵抗なく食べやすいかもしれない。そんな配慮でエーデルシュタイン先生は鍋にしてくれているのかもしれない。

「明日の朝ならもっと煮込まれてるから、今夜は無理して食べなくて良いよ。」

 今も火は点いている。食べないと元気になれないが、元気がないのに沢山は食べられない。食事は二回分用意してくれているため、私がお腹一杯に食べてもなくなってしまう心配はない。味付けも持ち運んでいるだけの調味料しかないため、簡素な塩と胡椒だけ。それでも美味しいと感じられる素材があるのは有り難いことだ。獲物を仕留めた後の処理はカイが一番上手い。フィヒター先生も慣れている。エーデルシュタイン先生曰く、仕留めた直後の処理は味に大きく影響を与えるという。異形でもそれは同じことらしい。

「今日のは異形じゃなくて良かった。」

 心の底からの声。カイの考えを借りるなら、他の動物だろうが異形だろうが魔珠を心臓にする異形だろうが関係なく、命を奪っていることにならないだろうか。食べるためなら無為に奪ったことにはならない。それでも肉類を食べることに抵抗を覚えるのか。ゆっくりとではあるが食事を進められており、顔色も良くなってきた。一晩休めば問題なく回復するだろう。肉体的な疲労でも精神的な疲労でも、見張りができる状態ではない。カイ一人見張り番から外れる程度なら問題なく変わってあげられる。

 カイも食事を終えて、後は寝るだけ。最初の見張り番は私だ。しかしカイは眠れないからと自分が最初に見張り番をすると言い始めた。疲れている人が見張っても敵の接近を見落としかねない。そう話し相手になってもらう程度に留めた。先生達を起こさないよう小声での会話だ。明日に備えて早く休んでもらったほうが良いのだが、眠れないのなら仕方ないだろう。少し慣れてきて、落ち着いて、生き物を殺すことの衝撃を思い返してしまっているのかもしれない。自分たちが食べる分だけ、食べきれない分は保存できるように加工して。殺されないよう殺すことは今までと異なる感覚なのだろう。

 ぽつぽつと互いのことを話していく。ただ、彼はあまり村でのことを話したくないのか、私への問いかけが多い。しかし私も召喚される前のことは分からない。フィヒター先生とエーデルシュタイン先生との訓練のこと、ラファエルさんとの交流のこと。一緒に旅を始めてからのことは彼も知っている。

「好きな人とかっている?」

 勝手に私のことを呼び出し、勝手に頼ってくる人たちだ。それでも申し訳ないと頼み込み、そのための便宜は図ってくれた。魔術という新感覚の技術を覚え、発動するのも楽しかった。戦うために使っている間は楽しいなんて言っている余裕はないが、術式の無駄を無くしていく作業も一つずつ進んでいることが実感できて良いものだった。調整した術式を使ってみて、実際に疲労感が減っていたり、思ったような効果が得られれば達成感があった。

 召喚の場で最初に会った人はラファエルさんだ。二人の先生も厳しい時はあるが、知識を授けてくれた。知識を得るための方法も教えてくれた。自分で図書館で探すにしても、図書館の場所は教えてもらわなければ分からない。どこにどの分野の本が並んでいるかも分かればなおさら勉強しやすい。一人での勉強より話しつつの勉強のほうが覚えやすい。教えてもらえればより効率は上がる。ほんの少しの成長も褒めてもらえれば意欲も高まる。その成果を人々に披露し、感謝されればもっと頑張ろうと思える。救世主としての期待でなくとも、この世界に来てしまった以上、生活するために何かをする必要はあるのだから。それが何か分かりやすく、自分にできることなら悪くない。

「ラファエルさんが一番?エーデルシュタインさんともフィヒターさんとも仲良さそうに見えるけど。」

 順番なんて必要ない。三人は役割が異なるのだ。あの街の有力者はラファエルさんの家で、あの街だけでなく周辺の人々も守るために力を尽くしている。呼び出した人間から感情をぶつけられかねない、最初の挨拶と説明の役割も彼が担っていた。エーデルシュタイン先生は魔術関係、フィヒター先生は武術関係と分担している。その二人がそれぞれの得意分野から私を補助し、各地で脅威となっている巨狼のような異形たちの討伐に回る。今は目の前の異形討伐に集中しよう。それ以降の生活については、全てが片付いてから考えれば良い。

 答えを選び、希望を見せるように。そう話している間にカイは眠ってしまった。私も交代の時間が来ればゆっくりと休める。その時まで、近づく異形への警戒を続けよう。

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