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II

 興奮する蒼空に対して首を傾げる華蹴。どうやら、蒼空が一方的に知っているだけのようだ。


「すみません。驚きのあまりつい興奮してしまいました」


 少し照れる蒼空に声を掛ける華蹴。


「もしかして、俺の店に?」

「はい! 以前、依頼の最中に立ち寄った事がありまして。その時に飲んだブルーマウンテンの味が、今でも忘れられないんです」


 2人は、他の者達を余所に話を続ける。


「ブルーマウンテンは、うちのオススメの一品だからね」

「ですよね! あの、すっきりとした苦味に柔らかな酸味が口いっぱいに広がったかと思うと、後から来る深くて濃厚な甘味の余韻がもう――」

「ぼっちゃま……」


 珈琲の味を語る蒼空に大和が声を掛ける。


「――ハッ?! す、すみません……」

「いやいや。それにしても、13歳でその味がわかるなんて店主冥利に尽きるよ。また機会があれば飲みに来てくれると嬉しい」

「是非! お伺いさせて頂きます!」

「はいはーい。珈琲トークはもうええかー?」


 話のきりが良いところで、2度手を叩く槍壱。


「自分ら長いわほんまに。仲良うなるんはええけども」

「ごめんなさい……」

「ほな、次は――」


 槍壱が言い終える前に、狐がボワンッと音を立て煙を振り撒く。たちまち煙が消えると、なんとそこには耳と尻尾を生やした男の姿に変化(へんげ)した狐。

 艶のある黄金色(こがねいろ)のウルフカットに黄金色(こがねいろ)の瞳。聡明さが窺える目鼻共に整った顔立ちに、稲穂の描かれた夜闇を思わせる紫色の着流しが、180cmほどの身長に様になっている。手には扇子を持ち、黒を基調としたそれには満月と鳥居が描かれている。


「急になんやねん! びっくりするわ!」

「すまんのぅ。わしも自己紹介した方が良いかと思って変化してみたのじゃ」


 眠気が飛んだ叶は、男に変化し流暢に人語を話す狐をまじまじと見つめる。それに気付いたのか、照れるように扇子で口元を隠し目を逸らす狐。


「ほなまあ、喋れるんやったら自己紹介してもらおうか」


 『待ってました』と言わんばかりの勢いで扇子を閉じると、それで手の平の上を軽くた叩く。


「皆、初めましてなのじゃ。そして、まずは驚かせてしまいすまない」


 礼儀正しく頭を下げる狐。


「さて、わしの自己紹介じゃが……狐じゃ。ただの狐と言うより九尾の狐、つまりは、お主らの間で言う“妖怪”じゃな。妖怪が何故ここにいるんじゃ〜と思っておるかもしれんが、ギュッと話を纏めるとなんか巻き込まれたっぽいのじゃ。まあ、これも何かの縁じゃろうから皆よろしくなのじゃ」


 妖怪の類である狐は、意外にも人様に親切なようだ。


「それとじゃ、お主らと意思疎通(コミュニケーション)? とやらを図る為に、年齢層に合わせた姿に変化したのじゃが、どうじゃ?」


 蒼空たちに自分の姿を見せ回る狐。その尻尾をもふもふする叶。見てて微笑ましい。


「あと、そこにぶっ倒れておる変な化け物と戦ってる最中に名前も考えたんじゃ。えー……そうじゃ、ラウル・ロペス=アルバ、じゃ」

「どっからツッコンだらいいんや?」

「なんか変じゃったか?」

「じゃーじゃー煩いわ! 炊飯ジャーか!」


 シンと静まり返るその場に、春宮が気を利かせて少しだけ笑う。蒼空も他の者たちと戯れるラウルの様子に、少し笑みを浮かべた。


 ***


 ――数時間が過ぎ。

 先程まで、この森の中を照らしていた蒼い月は、雲に覆われてしまい辺りは一層と深い闇に包まれる。だが、焚火のおかげか円になって座っている蒼空たちの場所は、明るさを保っていた。

 しかし、その火も段々と弱くなっていた。それにいち早く気付いた槍壱は、焚火の近くで乾燥させていた薪を幾つか火にくべる。それが燃えると、火はたちまち力強さを増していく。


 さて、自己紹介もいい具合に進んで後半へ。そう、トリを飾るのは不良(ヤンキー)4人組。


「ほな、ちゃちゃっと自己紹介してもらおうか。“とらちゃん”」

「それ、その呼び方やめろよ槍壱」


 とらちゃんと呼ばれたリーゼントの男が、槍壱にタメ口を利く。


「ええやんけ、わいらの仲やろ? って事で、とらちゃん。声のトーン落としてくれるか」


 そう言って、左手の親指で華蹴の方を差す槍壱。どうやら、ラウルと戯れていた叶が眠ったようだ。


「わーったよ……ったく」


 リーゼントの男が、胡座(あぐら)をかいていた足を崩し立ち上がると、仕方なさそうに自己紹介を始める。


「俺は、獅子神虎之助(ししがみとらのすけ)だ。歳は18。これでも東京の頭張ってる。それと歳はちげぇけど、そこの槍壱とは昔からの親友(マブダチ)だ。つーことで夜露死苦」


 不良(ヤンキー)には似合わない小声で、淡々と自己紹介を終える獅子神。

 改めて容姿を見てみると、黒色の瞳をした男らしい顔つきに綺麗に整えられた黒色のリーゼントが際立つ。身長も170cmと平均的ではあるが、そこいらの高校生よりかはガタイが良い。また、“FIRE”と書かれた赤いTシャツの上には、ボタン全開のYシャツと襟詰めの学ランを着こなし、“ドカン”と呼ばれた太もも部分が太いズボンを履いた姿が、体格と相俟って様になっている。

 自己紹介を終え、皆から拍手を貰った獅子神が少し照れくさそうにしていると、隣に座っていたハーフリムのスクエア型眼鏡を掛けた不良の1人が、勢いよく立ち上がる。


「か……海堂義経(かいどうよしつね)。18」


 唐突に立ち上がったかと思うと、名前と年齢だけボソッと呟く海堂。どうやら、自分の番が回ってくるまでだいぶ緊張していたらしい。そんな彼、獅子神よりか細身ではあるが、鍛えているのか腕にはしっかりとした筋肉がついている。身長も180cmと高く、眼鏡を掛けた賢そうな顔には、青色の瞳と青色に染め上げた自然(ナチュラル)なコンパクトウルフ。半袖のYシャツには、青色を基調とした黄色と黒色の混ざったネクタイを結び、下は格子(チェック)柄の無地のスラックスを履いている。


「せやせや、忘れとったわ! こいつ結構な人見知りちゃんで恥ずかしがりやさかい、あんま喋るん得意ちゃうねん。せやから、わいがさらっと紹介するわ。“ヨッシー”ちゃん座っとき」


 ヨッシーと仇名で呼ぶ槍壱が、海堂の首に腕を回したかと思うと、彼の詳細について話し始める。


「さっきも聞いた思うけど、名前は海堂義経。18? やな?」


 コクリと頷く海堂。


「ほんで、とらちゃんとは住みちゃうけど、北海道で頭張っとんねん! しかも、こんなんやのに意外にもこいつ結構な武術の達人でな、攻撃よりもまあ、防御がめっちゃつよいって感じやな。せやから、周りからは“鉄壁(てっぺき)の義経”って呼ばれとんねん! な?」


 その呼び名が恥ずかしいのか、下を向いて顔を赤らめながら頷く海堂。


「まあ、そないな感じかな? って事で、みんな仲良うしたってな!」


 海堂の紹介が終わると、彼の頭をポンポンと叩いて、自分の座っていた場所へと戻った。

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