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Ⅰ.Better late than never.

 パチパチッと音を立て、火の粉を飛ばして燃える焚火。その周りを囲む蒼空たち一同は、転移後の激しい戦闘などに疲れ果て、その場でぐったりとしている。


「そういや色々あって忘れとったけど、全員集まったんなら自己紹介でもせえへんか?」


 その提案を出しながら携帯食料を頬張る槍壱。


「はいはい! じゃあボクから」


 傷だらけの少年が元気な声で自己紹介を始める。


「それでは皆さん、改めまして。ボクは、“知恵の神”アルフィー。年齢不詳! 訳あって、君たちをこの異世界に連れてきた張本人さ! よろしくね!」


 周囲を苛つかせるウインクと決めポーズまでした少年に(まば)らな拍手を送る一同。


「え、みんな反応薄くない……?」


 蒼空たちの反応が薄いのは当然だろう。勝手に連れてきた挙句、厄介ごとにまで巻き込んだのだから。


「ほな次、わいやな」


 項垂れる少年を座らせて、立ち上がる槍壱。


「よっこらしょーいちっと……どうも! わいは早乙女槍壱(さおとめそういち)。歳は25。浪花(なにわ)に生まれ浪花で育ち浪花で()()()浪花を愛する生粋の大阪人! それと、しょーいちちゃうで槍壱や! そこんとこよろしゅう!」


 ()()()と言う言葉が少し気掛かりではあるが、それを気にさせないほどの饒舌な大阪弁で自己紹介を終える槍壱に盛大な拍手を送る蒼空たち一同。少年は「ボクの時と違う」とぶつぶつ愚痴を吐く。


「ほな次……じゃあ、そこのスーツの……ほら、あれや! でっかい鎌投げとった兄ちゃん! 自己紹介、頼むわ!」

「あぁん!?」


 慣れ合うのが嫌いなのか、槍壱に自己紹介を急に振られて嫌がる素振りを見せる極道(ヤクザ)の男。


「ええやないか。な?」


 極道(ヤクザ)の男の首に手を回し、「ちょっとだけや」と同意を得る槍壱。


「……チッ、クソめんどくせぇ。倉本恵介(くらもとけいすけ)。23」


 凭れ掛かった木から立ち上がり、淡々と名前と年齢を言う倉本。


「ちょい待ちぃ! そんだけかいな!? もっとこう……職業とかあるやろ!」


 思わずツッコミを入れる槍壱に、面倒臭そうに自己紹介を続ける倉本。


「てめぇらが頭で考えている通り、職業は極道(ヤクザ)だ。それと訳あって副業で“死神”をやってる」


 死神と聞いてリストを開いた蒼空は、記載された内容を読む。


 ――倉本恵介……倉本……あった! 職業は極道。“白銀の死神”、それ以上は不明……か。そういえば、噂を耳にしたことがある。なんでも、自殺や安楽死などの依頼を請け負っているとか何とか。都市伝説……ではなさそう。それに危険人物にも記載されてる。まさかこんな人物をも連れてくるなんて――


「死神……白スーツに銀色(シルバー)の髪。白鞘作りの短刀(ドス)に先程の大きな鎌……もしかして、“白銀の死神”ですかね?」


 春宮が蒼空の考えていたことをそのまま言葉にする。


「周りの奴らが勝手に呼んでんだよ」


 面倒臭そうに悪態を吐く倉本。


「ほぉん。わいは知らんなぁ」


 聞いたことのないその情報に首を傾げる槍壱。


「まあ、ええわ。名前も聞けたことやし、よろしゅうな恵介くん」

「下の名前で呼ぶんじゃねぇよ、気持ち悪ぃ」


 顔には出さないが、呼ばれ慣れていないのか少し照れ臭そうにそっぽを向く倉本。


「ほな次、恵介くんのことよう知ってる春宮くん」

「あっ、はい! えっと、春宮凛都(はるみやりつ)です! 年齢は16歳。高校1年生です。一応、小説家です……よろしくお願いします!」

「緊張しすぎやで自分。それに小説家なんて凄いやん!」

「それほどでも」

 

 槍壱に褒められて照れる春宮に拍手を送る蒼空たち一同。


「ほな次、じぃさん頼むわ!」

「承知致しました……皆様、初めまして。(わたくし)京極大和(きょうごくやまと)と申します。今年で50になりました。大和と気軽にお呼び頂ければ幸いです。それから職業ですが、以前は“美島財閥(みしまざいばつ)”の執事として務めておりました。今は訳あって、こちらにおられるぼっちゃま、“美島蒼空(みしまそら)”様の探偵業の助手兼お世話係としてお手伝いをさせて頂いています。宜しくお願い致します」

()()、やて?」


 大和の長い自己紹介の中、槍壱は“美島”と言う名前だけに敏感に反応を示す。


「やっぱり! あの美島財閥の御曹司、美島蒼空さんですよね! 10歳から探偵業を始めたのち、数々の事件を解決し飛躍的に有名になった、あの――」


 槍壱の疑問を掻き消すかのように、蒼空の情報を捲し立てながら話す春宮。


「はい、左様で御座います」

「チッ……」


 春宮の話を折る大和。倉本は、槍壱と同じように“美島”と言うう名前に対し、気に食わない様子を示す。しかし、他の者たちは、美島と言う名前を聞いて盛り上がる。そう蒼空は、財閥の御曹司とともに探偵で知らない人はいないほど、彼は有名人なのだ。


「ほな、じぃさんからも紹介あったことやし、蒼空くん頼むわ!」


 先程の事が何も無かったかのように、ニッと笑顔を見せて「蒼空くん」と下の名前で呼ぶと、自己紹介を再開させる槍壱。


「もう皆さん、ぼくのことご存知でしょうけど。先程、大和から紹介がありましたが、改めまして。美島蒼空、13歳です。ぼくのことは、気軽に蒼空って呼んで頂けると嬉しいです。それと、ほとんど春宮さんが言ってしまいましたが、職業は探偵業を営んでいます。猫探しから浮気調査まで、勿論、どんな事件も……と言いたいところですが、この神とか言うアルフィーさんに異世界に連れて来させられるとは思いもしませんでしたけど。まあ、何はともあれ、皆さんよろしくお願いします!」


 蒼空に盛大な拍手を送る一同だったが、それもすぐ止み、あれやこれやと蒼空の噂話や事件で持ち切りになる。


「はいはい、そういう話一々してたら進まんて」


 周囲の者たちに注意を促す槍壱。


「じゃあ次は、順番的に俺かな。叶、こっちおいで」

「ん……」


 不良(ヤンキー)の一人、女の子の膝元で少し眠たそうに目を擦りながら座っていた叶を呼び寄せる父親。はいはいしながら進み彼の膝元にちょこんと座る様は、とても愛らしい


「座りながらで悪いな。俺は兎威華蹴(といかける)。28だ。元いた世界では、喫茶店を営んでいた。喫茶“FULLMOON(フルムーン)”の店主(マスター)をしていた。それから、この子は俺の娘で、名前は兎威叶(といかなえ)。6歳だ。俺は華蹴、娘は叶って気軽に呼んでくれ。迷惑を掛けるかもしれないが、よろしく頼む」


 頭を下げる華蹴の真似をするかのように、ぺこりと頭を下げる叶。拍手が起こるかと思いきや、皆も何故か彼に倣って頭を下げる。だが、1人だけ頭下げなかった者がいた。そうそれは、何故か全身を震わせている蒼空だった。


「まさかまさかまさか!! こんな場所で出会えるなんて思いませんでした! 店主(マスター)!!」


 蒼空は感激のあまり身体を震わせて、目を爛々と輝かせ歓びを全身で表す。


 ――あの日、立ち寄った喫茶店で口にしたブルーマウンテン……まさか、そこの店主(マスター)と出会えるなんて! こんな巡り合わせを運命と呼ばないで何と言うか! この日ほど神に感謝したことは一度もないよ!――


 蒼空は無言で立てた親指をアルフィーに向ける。アルフィーは『えっへん』と謎の威張りを見せるが、『たまたまだけど』と舌を出す。そんな蒼空の様子を遠巻きで見ていた一同は少し引いており、大和さえも『あちゃー』と頭を抱えていた。

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