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 さて、[身体能力(ステータス)]や【技能(スキル)】などを確認し終えた蒼空たち一同は、未だに暴れ回っている巨大生物のいる森へと足を踏み入れようとしていた。

 しかしそこへ、吹き飛ばされた少年が急いで戻ってくる。


「待って待って!! ボクを吹き飛ばしておきながら、しかも、なんの装備もなしに森へ入る気!?」

「おっ、さっきはすまんな〜」


 少し息を切らしながら捲し立てるように話す少年に、先程の件で平謝りをする槍壱。


「べっつにぃ~……わざとじゃないだろうし? それにボクは《《神》》だから心広いし?」


 と言いつつも、少し不満気である。


「ほんで、どないしたんや?」

「あっ、そうそう! 装備だよ装備! ボクの《《残ってる力》》では、これぐらいしか出せないけど!」


 そう言って呪文を唱えると、神代文字と一緒に金色に輝く六芒星の魔法陣が描かれる。眩い光が一瞬放たれると、そこには武器や防具、装飾品(アクセサリー)などが山積みになっていた。


「こりゃ、たまげた! 流石、神様なだけあるわ!」


 そう言って、山積みになった装備品の中から“鎌槍”を手に取る。鎌槍とは穂の側面に枝刃(鎌)が付いている槍のこと。そしてこれは、枝刃(鎌)が上向きに付いている“上鎌十文字槍あがりがまじゅうもんじやり”と呼ばれるものである。

 その十文字槍を手に馴染ませるため、早速、幾度か左右に振り回す槍壱。


「……ええ感じや」


 気に入ったのかニッと笑みを見せる。


「おお……凄い」


 槍壱の槍術に感心する蒼空たち一同。彼らも槍壱に倣って、山積みになった装備の中から自分に合う物を選ぶ。


「チッ……早くしろよ」


 苛々が募り悪態を吐く極道(ヤクザ)。どうやら彼は、自身の担いでいる大鎌以外の装備を選ばなかったようだ。


「少しくらい待てよ」


 そう言って極道(ヤクザ)を宥める少女の父親は、帯刀している黒色刀で充分と言うように、蒼空たち一同が装備を選び終えるのを待つ。


「では、私奴(わたくしめ)はこれを」


 大和は白手袋を外し、獣の皮で作られた黒色の籠手(ガントレット)を両手に装備する。


「僕はこれで」


 春宮は、古惚けた分厚い本を手に取る。


「どれもぼくが扱えなさそうなものばかりだな」

「ぼっちゃま、これなど如何でしょう?」


 悩む蒼空に短剣(ダガー)を渡す大和。30cm程度の刀身をしたそれを受け取ると、「これなら」と慣れた手つきでナイフ捌きを披露する。


「うん。これにするよ」


 そう言って蒼空は、短剣(ダガー)を鞘に納め腰のベルトに装着する。

 それを見ていた狐が装備品の中を漁ると、2つの装飾品(アクセサリー)を咥えて、1つを少女にもう1つを自分の首に掛けた。


「パパ、狐さんから貰った」


 少女は嬉しそうに父親に報告する。父親は、狐をじっと見据えると、再び少女に視線を戻して「よかったね」と頭を撫でた。


「あ、そうだ」


 蒼空が何かを思い出したように声をあげると、片眼鏡(モノクル)を掛けた右目に右手を添えて「鑑定(かんてい)」と呟く。【固有技能(ユニークスキル)】を発動させたのか、少女と狐の首に掛かったネックレスの性能を確認した。


「えーっと、娘さんのネックレスには“治癒の加護”、狐さんのには“炎の加護”が付与されています。どちらもなんだか心強そうな能力ですね」

「そうか、ありがとう」


 少女の父親が礼を述べる。蒼空は「大したことは」と照れる。一同が装備をしたのを確認した少年が、手を叩いて大きな音を出す。


「さて、みんな準備万端のようだし、行こうか! あの森で暴れている突然変異の超巨大な魔物“トロール”退治に!!」

「色々とツッコミたいところやけど、今はそうもしてられへん様子やし、ちゃっちゃと行こか!」


 槍壱が、トロールと呼ばれた魔物の方へ振り返る。


「足手纏いにはなるなよ」

「おまいう」


 相変わらず仲の悪い2人。


「トロールとやらと戦うのは初の試みですゾ」


 初めて戦う相手に大和は少し胸を高鳴らせる。その彼の様子を見て『やれやれ』と笑みを浮かべながら首を振る蒼空。


「パパ……?」


 心配そうな顔で父親を呼ぶ少女。


「大丈夫だよ(かなえ)。お兄さんたちと狐さんと一緒に後ろで待っててくれるかな?」

「うん!」


 「偉いぞぉ〜」っと頭を撫でながら少女を抱きしめる父親。


「君たち、この子、任せてもいいかな?」

「ええ、勿論です。依頼承りました」

「は、はい!」


 すんなり承諾した蒼空に、慌てて返事をする春宮は思い出す。


 ――そうだ……蒼空くんは探偵だ。異世界に来ようが、頼まれた依頼は如何なるものでも受ける。その積み重ねがここまで彼を有名にしたのだから――


「よろしく頼むよ」


 そう言うと、少女の父親は再び森の方を向く。叶と呼ばれた少女も父親の言うことを聞いて、泣かないようにグッと涙を堪え、蒼空の手を強く握った。


 ――将来、きっと強い女性になるだろう――


 蒼空たち一同は、大人4人を先頭にして漸く森へと足を踏み入れた。


 ***


 森の中を駆ける蒼空たち一同。数分も経たずに開けた場所に出る。そこには薙ぎ倒された木々と約8m級の大きさのトロール。そのトロールの前方には4人の学生たち。彼らこそが、少年が誤って森に転移させた者たちだろう。


 ――いた! ……けど、どうにかして注意を逸らさないと!――


 考えるよりも行動を起こす大人たち4人。彼らは、トロールの背後を囲むようにして、人2人分の間隔を開けて広がる。左から極道(ヤクザ)、大和、少女の父親、一番右側に槍壱。彼らのそのすぐ後ろには狐と少年。蒼空、春宮、叶の3人は、トロールから少し離れた草陰に隠れて様子を窺う。だが、本当に倒せるのかと蒼空たち一同は少し不安になる。

 それもそのはず、トロールの大きさは8m級。岩のようなざらついた黒い肌には、所々に苔や草が生え花も咲いている。黒色に伸びたボサボサで痛んだ髪に、遠くの匂いも嗅げそうな大きな鼻、耳も沢山の音さえ拾えそうなほど長い。緑色の目は鋭く、口から生えた無数の牙は何でも砕けそうなほど鋭く尖っている。腰には汚れた大きな布を巻いており、その布地の上からは誇張するかのように沢山の髑髏(どくろ)を木の(つる)で繋げて巻いている。極め付きは、ゴツゴツと硬そうな巨体。手首には鉄の腕輪を付け、手の平には大木で作られた5mの棍棒を握って、それを所構わず振り回している。


「これ、逃げた方がいいんじゃ――」


 蒼空の案も虚しく、トロールが棍棒を振り回して周囲の木々を薙ぎ倒していく。


「下手に逃げるより、じっとしていた方が安全かもですよ……」


 春宮の冷静な判断のもと、3人はその場で待機して様子を窺う事にした。だがどうやら、トロールが暴れ出した原因を作っているのは、学生……と言うより不良(ヤンキー)4人。小石などを投げ、威嚇や挑発をしている。

 トロールが振り回す棍棒を必死に躱す大人4人。それぞれ散開し各位置に就くと同時に好機(チャンス)を窺う。すると、トロールが不良4人目掛けて棍棒を振り下ろす。


「危ない!」


 思わず蒼空が叫ぶ。不良(ヤンキー)たち4人が潰されるの見ないように目を覆う春宮と叶。

 しかし、その心配を余所に槍壱が「任せぇ!」と叫ぶと、瞬く間に不良(ヤンキー)たち4人の前に移動して、振り下ろされてくる棍棒を両手で持った十文字槍で弾く。

 トロールは、弾かれた反動で少し蹌踉(よろ)めくが、すぐに体勢を整える。

 槍壱の周りに砂煙が巻き上がる。どうやら、移動の際に【固有技能(ユニークスキル)】“神速(しんそく)”を使用したらしい。

 そして、その砂煙が晴れると後ろの4人に顔だけ向けて、ニヤリと歯を見せ笑う。


「おまっとおさん」

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