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 突如、森に現れた巨大生物。けたたましい咆哮をあげるそれに、呆気に取られ尻餅をついてしまう蒼空。


「なんやけったいなもん現れよったで」

「な、なにあれ」

「ぼっちゃま、大丈夫ですか?」


 大和が、蒼空の傍にすぐ寄ると手を差し伸べ立たせる。


「あっ……あそこに$#%&@¥」


 少年が、もごもごと口ごもりはっきりしない。だが、彼のその様子を見て蒼空が察した。


「どうやら、この神曰く、残りの4人はあの巨大生物のいる森にいるみたいだよ」

「え!? じゃあ、早く助けてあげないと!」


 唐突に声をあげたのは、襟詰めの学生服を着た男性。第1ボタンまでしっかり締めている。目鼻立ちの整った爽やかな顔には、緑色(グリーン)の瞳に丸眼鏡を掛けている。髪形もツイストスパイラルパーマに重めの韓国マッシュと、少しミステリアスな雰囲気を漂わせる。


 ――彼は……そうだ! 橋で消えた高校生だ!――


 影が薄い彼を危うく忘れそうになっていた蒼空。


「えぇ加減にせぇよ、われ……」


 槍壱は、後頭部を掻きながら呆れる。


「あとでお仕置きな」


 物優しそうな男性は、Yシャツの両袖口を肘の少し上辺りまで捲る。


「あとでしっかり落とし前つけてもらうからな」


 なんだかんだ悪態を吐きながらも協力を惜しまない極道(ヤクザ)。何処から取り出したのか、肩には大鎌を担いでいる。


「不肖ながら、私奴(わたくしめ)も助太刀致しますゾ」


 大和は、両手の白手袋を装着し直す。

 その4人から溢れる謎の絶対的安心感は、神と名乗る少年をも凌駕する。しかし、彼らの手持ちの装備では、あの巨大生物を倒すことは不可能。寧ろ、死に急ぐようなものである。『どうすべきか』と頭を悩ませている間にも、巨大生物は暴れ回り次々、森を破壊していく。だが彼らは『考えている余地はない』と即決すると、4人を救助すべく森へと走り出した。


 ***


 一同が森へと向かってる最中である。ふと、疑問を抱く蒼空。


 ――なんで狐がいるの?――


 少女を守るかのように並列で走る狐。艶のある綺麗な毛並み。それは、とても野生の狐とは思えないほど黄金色に輝いている。ただ、普通の狐と違っているのは尾が9本も生えていること。だが狐は『詮索するな』と言わんばかりの勢いで、横目で蒼空に睨みを利かせる。

 蒼空が慌てて目を逸らすと、前方から大和が近寄ってくる。


「ぼっちゃま、もう間もなく森に到着致します。私奴(わたくしめ)から離れぬよう、しっかり付いてきて下さい」

「全く、大和(じぃ)はすぐ子供扱いするんだから」


 大和の心配を余所に『やれやれ』と適当にあしらう蒼空。


「いや、自分子供やろ!」


 そこにすかさずツッコミを入れる槍壱。


「頼りないですが、僕も一緒にいますので」


 頼りなさげにそう言うのは、蒼空と並行して走る先程の高校生。


「あっ、すみません。初めましてですよね。僕、春宮凛都(はるみやりつ)って言います。よろしくお願いしますね!」

「どうも、春宮さん。ぼくは――」

「自分ら、自己紹介はあとにしぃ!!」


 槍壱の言葉と共に、森から地鳴りと突風が吹きつける。蒼空は、飛ばされまいと踏ん張ったものの、体重も軽いせいもあってか地から足が離れ宙に浮く。


「ぼっちゃま!!」


 大和は手を伸ばそうにも、地鳴りと突風を防ぐのが精一杯で身動きが取れない。


「僕の手を掴んで下さい!!」


 春宮が伸ばした右手に蒼空が間一髪で掴み、何とか事なきを得る。


「大丈夫ですか? 怪我はないですか?」


 蒼空の下へ駆け足で近付き、彼の身体に傷がないかとあちこち確認する大和。


「なんとかね」


 無事なことに安堵したのか、くるりと春宮の方へ向き直り、燕尾服(えんびふく)の内ポケットから何やら取り出すと、頭を勢い良く下げ両手を差し出す大和。


「春宮殿!! 感謝を!!」


 そう大袈裟に感謝を述べる大和の手には、札束が1つ。


「い、いえ。無事ならそれで。あと、お金はいいです怖いです」

「左様ですか……」


 少し不満そうに札束をしまう大和。そのやり取りに『そりゃそうでしょ』と心の中でツッコんだ蒼空は、破壊された森の一部に視線を戻す。


「これは……酷いですね」

「はよ助けに行ったらなやばいんとちゃうか?」

私奴(わたくしめ)もそう思います。すぐに参りましょう」


 森の入り口を塞ぐように薙ぎ倒された木々。その近辺から巨大生物を見上げる槍壱と大和。


「もう死んでんじゃねぇか?」

「まだ生きてる可能性はある」


 極道(ヤクザ)のマイナスな発言に対して、希望を捨てない少女の父親。


「あ、あのさ……君たちに渡したいものがあって……いいかな?」


 失態続きの少年が、おどおどした態度で会話に割り込む。蒼空たち一同は『次はなんだ?』と眉を(しか)めながら少年を見る。


「その、本来なら全員集まってから渡そうと思っていたんだけど……」


 少年は指をもじもじさせながら、チラチラと蒼空たちの様子を窺う。また彼らに怒られたり呆れられたりされないかと、心配しているようだ。


「で、なんやな。その渡したいもんって」

「えっとね、それは【技能(スキル)】だよ!」

「【技能(スキル)】? はて、どういったものなのでしょうか?」


 大和は、聞き慣れない単語に首を傾げると、蒼空に問う。


「あれだよ、あれあれ。アニメとか漫画でよく聞く“最強技能(チートスキル)”的な感じの……」


 蒼空たちの会話を余所に、少年はその【技能(スキル)】とやらを授けるための準備に取り掛かる。しかし、準備と言ってもただ目を瞑り呪文を唱えるだけ。魔法陣は出現せず、それよりも少年の手の平から眩い光の玉が、無数に宙に浮き上がる。


「わぁ……綺麗!」


 宙に浮かび上がる光の玉に、可愛らしい笑顔を見せる少女。


「さあ、好きなのを1つ選んで!」

「好きなんって……どれが、なんやねん!」


 槍壱が、光の玉の1つにツッコミを入れると、それが彼の体内に入り込み眩い光を放つ。


「な、なんや! ……って、なんも起こらんで」

「[身体能力(ステータス)]って言ってみて」


 少年に言われた通り槍壱が[身体能力(ステータス)]と唱えると、Smartphoneより大きい画面(ディスプレイ)が宙に浮かび上がる。少し身体をびくつかせたものの、彼はすぐに落ち着きを取り戻して、まじまじとそれを眺める。


「ゲームみたいやな」


 飲み込みが早いのか、表示された画面(ディスプレイ)を横に操作(スワイプ)すると、2つめの画面(ディスプレイ)の一番最後の項目に視線を移す。

 そこには――


固有技能(ユニークスキル)

 *神速(しんそく)

技能(スキル)

 *神鳴一閃突(かみなりいっいっせん)

能力(アビリティ)

 *体術A

 *武術A

 *槍術B


 ――など、少年が言っていた【技能(スキル)】の他にも沢山の項目が記載されていた。


「他にもなんや色々あるみたいやけど、この【固有技能(ユニークスキル)】“神速(しんそく)”ってやつ特に気に入ったわ! なんせ、笑いには速さが命やからな! なんでやね~ん!」

「それはよかっ――ぐっ……はぁっ!!」

「ってこんな……風に……」


 軽く振ったつもりの槍壱の右手に【固有技能(ユニークスキル)】“神速(しんそく)”が使用され、少年の腹にめり込むと、果てしなく続く草原の彼方へと吹き飛ばされていく。


「あらぁ~…………」


 広大な草原へと吹き飛ばされていく少年を眺めながら「めっちゃ飛ぶやん」と呟く槍壱。


「可哀想だから、お仕置きはやめてあげよう」

「そうだな」


 少年のおかげか、初めて意見が一致した極道(ヤクザ)と少女の父親。その様子を見ていた蒼空と他の一同は、宙に浮いた光の玉に触れ[身体能力(ステータス)]と呟くと、各々、自分の【能力(スキル)】などの確認をし始めた。

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