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雑文ラノベ「転校生は・・お姫様っ!~しかも異世界からというトンデモ設定っ!~」

作者: ぽっち先生/監修俺

■□■大型陸戦パワードスーツ教習■□■

今、俺はひとりで陸軍のだだっ広い演習場にいる。何故ならば今日から俺はここで大型陸戦パワードスーツ『ザグー』の実戦操縦訓練を受けるからだ。

大型陸戦パワードスーツは陸軍の中でも花形な兵器である。昔は戦車がその地位にいたが今は大型陸戦パワードスーツがそれに取って代わってる。なので兵隊にとって大型陸戦パワードスーツの操縦者になるのは皆が夢見る憧れの兵種なのだ。

当然その競争率は半端ない。特に身体能力についてはオリンピックの国内予選くらいは通過できるんじゃないのか?ってくらい高められていないと、いくら志願しても選考試験にすら通らないのだ。

何故なら大型陸戦パワードスーツはその操縦者の身体能力を倍増させて動くので搭乗者が持ち合わせている身体能力が即パワードスーツの機動に直結するからだ。そこら辺が従来の兵器とパワードスーツの違いである。

そう、パワードスーツは神様からポイっとチートを付与されてお気楽に無双出来るラノベ設定とは違うのだ。その操縦者になるには血の滲むような努力が必要なのである。

そして俺はここにいるくらいだから当然それらの競争に打ち勝ってきたのである。まっ、所謂エリートってやつだ。


だが、そんなエリートであるはずな俺は、何故かひとりでぽつんとここに立っている。おかしい・・、別に集合時間や場所を間違えた訳でもないのになんで誰もいないんだ?あれ?もしかして俺ってハブられたの?俺があんまり優秀なもんだから上官からイジメにあったんだろうか?


どすんっ!もくもく~


俺がそんな被害妄想に悩んでいたその時、突然俺の前に一機の大型陸戦パワードスーツが空から舞い降りた。

いや、舞い降りたなんて表現はぬるいな。正確に描写するなら墜落したと言ってもいいくらいのド派手な着陸だ。おかげで土埃がすごいよ。着陸時の衝撃もすごくて俺の体が3センチばかり浮いたもんな。

だがそのパワードスーツはそんな衝撃などへでもないとばかりに脚部のショックアブソーバーで全てを吸収してしまったようだ。うんっ、さすがは陸軍の最新正式採用パワードスーツだ。市販の工事用パワードスーツが玩具に見えてくるぜ。


さて、そんなパワードスーツは土埃が薄れるのを待ってから中の操縦者を降ろす為の降車形態をとった。つまりパワードスーツの中にいる操縦者は外に出ようとしているらしい。そして腹部の搭乗ゲートが開くと操縦者はひらりと外に降り立った。

うんっ、その体型から俺は即座にその操縦者が女性と判断したね。しかも年齢的には多分少女だ。えーと、どこをどうみてそう判断したかはちょっと言いづらい。

まっ、パワードスーツ用のコスチュームって操縦者の動きを正確にトレースする為に肌にぴったりとしたものを着用するのよ。そして当然コスチュームの下は筋肉の動きを正確にトレースする為に裸です。なので体の線がもろ出るんだよな。なので女性はお胸の辺りがぷるんぷるんなの。当然野郎どもの股間はもっこりだ。

しかもその女性が着ているコスチュームの色は肌色だった。おかげで遠目からは多分まっ裸に見えたはずである。はい、ちゃんと着ていますからね?びっくりしないように。・・って、こんなドッキリを芸風にしていた芸人が昔いたらしいなぁ。


そしてその少女は陸戦パワードスーツから俺の前に降り立つと多機能ヘルメットを脱いで若干汗で湿った長い金髪を右手でかき上げ整えると俺にこう告げてきた。


「こんにちわ、新人さん。私があなたの指導教官となったアルフィン・ピザン曹長よ。まっ、多分3日と持たないでしょうけど宜しくね。」

「・・。」

いきなり上からの物言いに俺は返事を返さなかった。いや、だって相手はどう見たって俺より年下だよ?そんな女の子から上官だと言われ、且つお前は多分役立たずだと宣言されたら誰だってムッとするだろう?

しかし少女はそんな俺の態度を軽くいなしてくる。


「あらあら、近頃の新兵は上官への礼儀も教わらずに実技教練に送り出されてくるのかしら?全く、いくら前線での損失率が高いからってこんなお子ちゃまを一端の兵隊にしなきゃならないなんて我が軍も落ちぶれたものね。」

「はっ、申し訳ありませんっ!突然の事で若干判断が遅れました。自分はこの度パワードスーツの実技教練課程を受講する事となったジョージ・ヤマモト上等兵でありますっ!」

少女からの指摘に俺は彼女が上官である事を思い出して態度を改めると敬礼を返しながら応えた。まっ、階級が絶対である軍では例え相手が年下であっても上下関係には厳しいのだ。

そな俺に対して彼女はよしよしとばかりに俺の粗相をなかった事にしてくれたらしい。


「いいでしょう、まっ、初めては誰でも緊張するものね。ではヤマモト上等兵、早速ですがあなたの技量を確かめさせてもらうわ。なのでメインコックピットに乗って私の指示する機動をして頂戴。」

「はっ、宜しくお願いしますっ!」

俺は再度彼女に敬礼すると少し緊張しながら彼女に続いてパワードスーツに乗り込む。

そう、このパワードスーツは訓練用の二人乗りなのだ。なので後部に指導教官である彼女が乗り込み俺はその前に搭乗するのである。

とは言ってもパワードスーツに席がふたつある訳ではない。ただふたり分のスペースがあるだけだ。つまり俺たちは狭いコックピット内で前後に密着して乗り込むのである。


うんっ、これには俺もうんざりしていた。だって初等訓練で俺の後ろに乗り込んだ教官ってマッチョなゴリラ野郎だったんだもの・・。

もう一度言うけどパワードスーツの操縦用コスチュームってとっても薄いのよ。おかげで他の訓練兵たちも訓練後はげんなりしていたもんな。俺は未だにゴリラ教官の生暖かい下半身の感触が記憶から消せないぜっ!


だが今回は違うっ!だって後から密着してくるのは女の子なんだぞっ!これを僥倖と言わずしてなんとするっ!実際、今俺の背中には女の子の柔らかな胸の感触がビンビンに伝わっているぜっ!

あーっ、ぷにゅっとしている~っ!うおっ、女の子の息遣いが耳元から伝わってくるよっ!あーっ、神様、ありがとうございますっ!アルフィン教官っ!先ほどは失礼しましたっ!俺は今最高に幸せですっ!


と言う事で俺はアルフィン教官の指導の下、4時間ほどぶっ続けでパワードスーツの高機動訓練を受けた。

うんっ、実戦では24時間くらい連続してパワードスーツに乗り込む事はあるらしいが、その殆どは移動とか待機で4時間も連続して高機動操縦なんかする事はない。

そもそも激戦と呼ばれる戦いの場でも、個としてのパワードスーツの戦闘時間は大抵長引いても20分くらいなのだ。何故なら普通はそれくらいで自分か敵が撃破されるから。たらたらといつまでもやりあうのはアニメの中だけの話である。

まぁ、場合によってはその20分が何セットも続く事はあるかも知れないが、それでも精々1時間だ。何故ならそれだけ戦えばパワードスーツが無事でも搭載している弾薬が底をつくからな。如何なパワードスーツと言えども徒手空拳では勝てないのである。まっ、アニメとかなら別だけどさ。

なので4時間連続、しかも高機動の連続という訓練はパワードスーツにとってもえらく高負荷な扱われ方である。おかげで最後の方では動力炉をモニターしているセンサー類がいい加減にしろよとばかりに警告しまくりだった。

そのせいなのか空調が効いている筈のコックピット内も熱が排除しきれない。まっ、これは狭いコックピット内にふたりで乗っているという事もあるのだろう。そう、密閉された空間では人が発する熱量ってのは馬鹿に出来ないのだ。


おかげで漸く訓練が終わって外に出た時には俺は全身汗だくになりながら激しく肩で息をしてへろへろとなって地面に突っ伏したよ。しかしアルフィン曹長の呼吸は普通だ。まっ、これは別に俺の後で操作を眺めていただけだからという理由ではないだろう。

だって彼女も置かれていた環境は俺と一緒なのである。確かに肉体的な疲労は俺よりは低かったかも知れないが、彼女だって高機動による加速度などに耐えなきゃならないから、ただそこにちょこんと佇んでいた訳ではない。

その証拠に呼吸こそ乱れていないが彼女のコスチュームも俺同様汗でびっしょりである。まっ、呼吸に関しては経験の差なのだろう。そこら辺はさすがは教官職と言うべきか。ちっ、俺もまだまだだなっ!


だが、そんな格の違いに打ちのめされている俺にアルフィン曹長からご褒美が与えられる事となった。

「ふぅーっ、あなた中々やるじゃない。私の指示で最後まで根を上げなかった新兵はあなたで3人目よ。なので先ほどの発言は取り消します。がんばって一端のパワードスーツ乗りになってね。」

「はぁ、はぁ、はぁっ。はいっ、ありがとうございますっ!」

俺は未だ整わない呼吸の中、アルフィン曹長に返事を返す。ただ残念ながらまだ立ち上がる事が出来なかったので敬礼はなしだ。

しかし、そんな俺を蹴飛ばしてアルフィン曹長はとんでもない事を言い出した。


「いつまで伸びているのっ!訓練後はシャワーを浴びて汗を流さないと風邪をひくわよ。兵士たる者、体調管理もしっかりしなきゃ駄目でしょうっ!後、シャワーを浴びたらお互い強張った筋肉をほぐさないとね。ほら、しゃきっとしなさい。」

アルフィン曹長の言葉に俺はいきなり直立不動の姿勢となった。うんっ、さっきまでのヘロヘロ感など今はもうすっ飛んでいる。

だってシャワーを浴びたらアルフィン曹長が俺をマッサージしてくれるって言うんだぞ?それどころか俺がアルフィン曹長の肢体をマッサージできるんだっ!ならばこんなところでへばってなどいられる訳ないだろうっ!

しかも軍のジャワールームって男女別じゃないからなっ!というか個室にすらなっていないから隣ににいるやつの裸が見放題だっ!

いや、普段は別に見たりしないよ?だって普段俺の隣でシャワーを浴びているのって野郎たちだからな。でも今回は見るぜっ!何だったら石鹸でアルフィン曹長のお体を洗わせて下さいっ!もうっ、全身くまなく洗わせていただきますっ!

あっ、まずい。想像したら股間のマイサムが起きだしてしまった。くーっ、正直だな俺の体っ!でもまぁ、これもまた健康な証だ。そうっ、健康管理も兵隊の大切な任務だからな。なので問題ないっ!


かくして俺はアルフィン曹長に連れられてこれから起こるであろうエロハプニングを期待しながらシャワー室へと向かったのだった。



■□■転校生は褐色美人。しかも絶対異世界人だよっ!■□■

がらがら・・。


「おらっ、お前らうるさいぞっ!小学生じゃないんだから教師が来ないからって騒いでいるんじゃないっ!」

その時、騒がしい教室の中でひとり読書に勤しんでいた俺は教室の扉が開いて教師が入ってきた事により読書を中断させられた。

うんっ、丁度良いところだったのだが仕方ない。続きは昼休みまでお預けだ。くーっ、アルフィン曹長のシャワーシーンを早く読みたいぜっ!


そう、俺は今教室で始業ベルが鳴ったにも関わらず中々教師が来ない事をいい事に読書に勤しんでいたのだ。

その本のタイトルは『雑文SF「衛星軌道戦士ダンガム~異世界からの侵略に対する地球の防衛は俺の手に掛かってるっ!~」』である。

うんっ、このラノベは当たりだな。今や斜陽なSF設定だけど、ちゃんと中学生男子のハートを鷲掴みする内容になっている。

えっ、どこがって?そりゃ『エロ』に決まっているだろうっ!エロ無くして昨今のラノベは語れないんだぞっ!なので金髪美少女とのシャワーシーンがあるのは当然だっ!その後に待ち構えているマッサージシーンも期待できるぜっ!

ただあまり過激な表現は青少年育成条例に引っかかるからそこそこに押さえてあるはずだ。でも思春期真っ只中な中学3年生である俺にはそれでも十分なのさっ!


いや、これは嘘。まっ、何が嘘なのかはちょっと言えないが俺にも色々事情があるのよ。なので読書は後々のお楽しみとして俺は真面目に授業を受けるべく教壇の方へ顔を向けた。しかし、そこには教師以外にひとりの少女が立っていたのだ。


「あ~っ、静かにしろ。今日は転校生を紹介する。彼女は国の学生交流プロジェクトに基づき外国から日本に短期留学としてやって来た。期間は2ケ月。短い間だが仲良くやってくれ。因みに彼女は日本語がペラペラだ。だからからかったりしたら即バレるから馬鹿なまねはするなよ。」

ほうっ、転校生か。しかも外国からかよ。うんっ、確かに彼女の顔立ちは日本人ではないな。肌の色も褐色だし多分東南アジアか中東辺りから来たのかな。

まっ、とっちにしてもえらい美人さんだ。おかげで今ではさっきまでの喧騒が嘘のようにみんな黙りこくって彼女に見とれているよ。

そんな状態の俺たちに満足したのか教師は話を進めてきた。


「それではスジャータ、自己紹介をしてくれ。」

「はい、リーダー。私はインディア王国から来たスジャータ・アッサムです。今回はみなさんと交流することを楽しみにしてきました。短い間ですがよろしくお願いします。」

そう言って彼女はぺこりと頭を下げた。その挨拶を聞いて俺は驚く。何故って彼女は本当に日本語がペラペラだ。電話で話したら絶対外国人だとは思わないよ。挨拶時に頭を下げるってのも日本的な動作だ。いや、これは彼女の国でもそうなのかな?でもインディア王国ってどこだ?


「では席は・・、そうだな、タケルの隣が空いているな。ではあそこに座ってくれ。」

なんと教師は彼女に俺の隣を指名してきた。でもここでひとつ問題が生じる。それは・・。


いや、先生、俺の隣は・・、あれ?本当に空いている。昨日まで、いやさっきまで隣に座っていた生徒は何故かひとつ空けた机に座っているよ。どうなってるんだ?いつのまに移動した?しかも他の生徒たちもその事を全然不思議がっていない。

そんな俺の混乱をよそに転校生が俺の隣に歩いてきて座った。そして俺に話しかけてきたよ。


「私はスジャータ・アッサムです。よろしくね。」

「ああっ、俺は大和 武 (やまと たける)です。こちらこそよろしく。」

何故か彼女は他の席のやつらを無視して俺だけに再度自己紹介をする。しかも教師までそれが当たり前とでも言うように俺に特殊な任務を押し付けてきた。


「よし、タケル。お前をスジャータの専属ガイドに任命する。2ケ月間がんばれ。失礼なくこなしたら国から感謝状を貰ってやる。これは進学や就職の時に有利だぞ。それじゃ、みんなも仲良くやるように。くれぐれも国際問題に発展するようなことはするなよ。」

「は~い。」

先生のジョークにみんなが元気に応える。う~んっ、ジョークだよな?そもそもなんでスジャータをそんな貴賓扱いするんだ?今時外国からの留学生なんて珍しくもないだろうに・・。

だがとうのスジャータはそんな事など気にもせずに俺に話しかけ続けてきた。


「タケル、たった2ケ月間ですけど忘れられない時間にしましょう。」

そう言いながらスジャータが俺に手を伸ばしてくる。


「そうだね、こんな事は初めてだけど何でも聞いてくれ。」

!!?


スジャータからの挨拶に対して差し出された手を握り返した俺は、そこで何か異様な感覚に襲われた。

なんだ?何故俺の警戒スキルはスジャータに対して危険な匂いを嗅ぎ取ったのだ?彼女は別に危ない存在などではないぞ?いや、もしかしたら国際テロ組織が日本に送り込んできたエージェントなのか?えっ、こんなに可愛いのに?

まぁ、映画などではスパイ役は美人ってのが定番だけど、そもそもスパイは中学校なんかに転校してこないよな。だって意味が無いから。

仮にウチの学校に重要国家機密を持っている役人の子供がいて、そいつを人質として情報を引き出そうという計画だとしてもわざわざ中学校に転入なんてしてこないだろう。

となると俺のスキルがバクったのか?むーっ、こっちに来て以来生温い生活を送っていたからサビついちまったのかなぁ。


まっ、でも一応警戒はしておこう。万が一って事もあるからな。うんっ、俺は常に石橋を叩いて渡るんだよ。それくらい慎重だったから今まで生き残れたんだ。

あーっ、まぁ最後の最後でドジを踏んだんだけどな・・。でもその事は今は思い出したくないぜ・・。


さて、初めこそ俺はスジャータから特別扱いにされているような気がしたが、その後のスジャータはクラスのみんなとも忽ち打ち解けた。なので休み時間になった途端みんなから挨拶を兼ねた質問攻めにあっている。


「私は恵理。ねぇ、スジャータってどこで日本語を覚えたの?」

「俺は卓也だ。先生はタケルを担当に選んだけど俺にも遠慮なく聞いてくれ。」

「僕は駿って言うんだ。勉強で判らないことがあったら聞いてくれ。大抵の事なら答えられる自信がある。」

「私は真理よ。スジャータってスポーツに興味ある?私、バレー部なんだけど良かったらやってみない?」

それらの質問にスジャータは悠長な日本語で答えている。うんっ、いきなり人気者だな。でもまぁ転校生なんてそんなもんだろう。

でもやっぱり俺のスジャータに対する疑念は晴れない。なので俺は密かにスジャータのステータスを魔法で読み取る事にした。

そう、ステータスコマンドの前にはどのような秘密も隠せないのだ。まっ、あくまで公開されている情報はね。でも俺のステータスコマンドはアンダーグラウンドから購入した非合法改造版なので大抵のパスワードはぶち破れるんだよっ!


「ステータス・オープン 対象:スジャータ・アッサム」

俺は小声で魔法を詠唱し発動させる。そうっ、俺はなんと魔法を扱えるのだっ!もっともそれには触媒となる魔法コンバータアイテムが必要なんだけど俺はちゃんとそれを持っているのである。


そして俺の魔法詠唱によりスジャータのステータスがスクリーンとなって目の前に表示された。するとそこには驚愕の内容が書かれていたのだっ!


検索対象者:スジャータ・アッサム

属性:王族 アッサム朝 第16代カシム・アッサムの三女

Lv:33

HP:66

MP:99

ERO:99

スキル:民衆従順化 違和感不問化 聖女崇拝


年齢:17歳

身長:163センチ

体重:この項目の読み取りにはパスワードが必要です

バスト:この項目の読み取りにはパスワードが必要です

ウエスト:この項目の読み取りにはパスワードが必要です

ヒップ:この項目の読み取りにはパスワードが必要です

月々のお小遣い:3千万ギール

愛読書:GCN文庫


属性、王族っ!しかもアッサム朝 第16代カシム・アッサムの三女っ!つまりお姫様って事じゃんっ!

そしてアッサム朝って言ったら異世界においてよっつある大国の内のひとつ、インディア王国だぁーっ!つまりスジャータって異世界人だよっ!

ぐわーっ!こんな秘密を知ってしまったら絶対インディア王国の公安に暗殺されてしまうっ!というか、なんで王室関係の情報が読み込めたんだよっ!


無理っ!絶対無理っ!

確かに俺のステータスコマンドは高性能だが王室情報はトップシークレットだろうがっ!王室関係者が装備する魔法防御能力は3級魔法使いが施したもののはずなんだっ!そんな化物のような魔法使いが施した魔法障壁が非合法改造版風情のコマンドで破れる訳がないっ!


だが実際に情報は閲覧できてしまった・・。何でだよ・・、もうっ、セキュリティのメンテナンスはちゃんとしておいて欲しいなぁ。

そして驚愕の事実を知ってしまい青ざめている俺は、ふと視線を感じてスジャータの方を見た。するとスジャータは俺に対してにこりと微笑んだよ。


ちっ、こいつわざと俺にステータスを読ませたなっ!その意図は判らんが意図的に読ませたのならば公安に暗殺される事はないかも知れない。うんっ、そうだといいなぁ。


きーんこーん、かーんこーん。


俺が頭を抱えていると次の授業開始を知らせるチャイムがスピーカーから流れてきた。なので当然スジャータは俺の隣へと戻って来た。

だがスジャータは俺に対して何も追求してこない。普通に転校生を演じているよ。だから俺もアクションを起こせなかった。

なので仕方なく俺もまたスジャータと机をくっつけて教科書がまだ届いていないスジャータの為に俺の教科書を見せながら授業を受け続けた。


しかし俺の心は乱れまくりだ。当然授業の内容など耳に入らない。と言うか悠長に授業など受けていていいのか俺?今すぐ逃げ出すべきではないのか?

だって俺は異世界の大国であるインディア王国のお姫様の秘密を知ってしまったんだぞ?この状況って普通なら全てを捨て去って地の果てまで逃げなきゃならない事だよな?


いや、無理か・・。とてもじゃないが逃げ切れないよな。となるとスジャータの方から説明してくれるのを待つしかないのか・・。

こうして俺はスジャータから漂ってくる鼻孔をくすぐる甘い香りを独り占めしながらも、次に起こるであろうアクションを今か今かとびくびくしながら待ったのだった。



■□■実は俺も転移者でした■□■

さて、みんなはなんで普通の中学3年生でしかない俺が魔法を使えたのかと訝っている事だろう。まぁ、これは俺にとってはトップシークレットなのだが既にスジャータにはバレてしまったはずなので隠してもしょうがないから教えてやろう。


じゃじゃ~んっ!


何を隠そう実は俺も異世界からやって来た転移者だったのだっ!


うんっ、驚いただろう?えっ、そうでもない?ラノベでは当たり前?いやいや、それってこっちの世界から行くやつであり、異世界からやって来るのは珍しいだろうっ!

全く最近のラノベ読みは感受性が乏しいんじゃないのか?あまりにも刺激の多いネット情報に触れ過ぎて麻痺しているんじゃないかね。


まっ、ラノベ読みの事は置いておこう。問題は俺のこれからの身の振り方だからな。

もう一度言うが俺はこっちの世界では普通の中学3年生男子として暮らしているが、実は異世界からやって来た転移者なのだ。

そして向こうの世界ではご他聞に漏れず冒険者をやっていた。えーと、ランクはC級です・・。

ちっ、C級だからって馬鹿にするんじゃないぞっ!学習偏差値で例えると冒険者のC級は50台なんだからなっ!

うんっ、あんまり威張れる値じゃないな・・。しかも俺のC級って所属していたパーティの成績に引っ張られる形でたなぼた的に貰えたランクだからな・・。実際の俺の実力は多分D級の底辺か、E級の上位ってとこだと思うし・・。学習偏差値で言ったら40前後かなぁ・・。


で、パーティ内での俺のポジションは魔法使いだ。但し雑用もそつなくこなせる大変お得な人材です。なので上位パーティからも大変重宝がられました。もう本当に料理から裁縫、洗濯から荷物持ちまで何でもこなしたからねっ!

いや、本当は俺だって勇者になりたかったんだよ?でも勇者ってなりたいからと言ってなれるようなポジションじゃないんだ。それこそ血の滲むような鍛錬を重ねて、且つ神から愛されているような人材でないと勇者にはなれないのである。

まぁ、それを言ったら魔法使いだって同じ様なものなんだけど勇者とは試練の度合いが違います。それに最近では便利な魔法アイテムがあるからね。なので割りと簡単に魔法使いポジションにはつけるんです。


でもまぁ上位パーティに所属する魔法使いともなるとその能力は絶大だ。魔法アイテムのチカラを借りて魔法を発動させるなんちゃって魔法使いなんかとは格が違うのよ。

なので俺が所属していたパーティにもそんな正式な魔法使いがいました・・。うんっ、俺って登録上は魔法使いだけど実際は雑用係だったんだ・・。

そんな正式魔法使いがいるパーティに俺が潜り込めたのは、正式な魔法使いが俺の先輩だったので実戦を経験して能力を磨けと誘ってくれたからである。なので決して雑用が必要だったから適当に選ばれた訳ではないっ!・・と思いたい・・。


でもまぁ、上位パーティの仕事って俺にとっては地獄のような経験だったよ。だってあいつら普通にA級の魔物たちに向かってゆくんだよ?ダンジョンだってそこにいるだけで魔力酔いしそうな濃度のところを平気で進んでいくんだ。

もうっ、あいつらって人間じゃないんじゃないのか?姿かたちは人間だけど実はもう魔物化しているんじゃないのかね?大体、1万度を越えるドラゴンのブレスを生身で弾き返せるものなのか?俺は50メートルは離れていたのに余熱で全身大やけどを負ったぞ?

まっ、やけどに関してはその後魔法使いに回復魔法でヒーリングして貰ったので跡形もなく直ったけどもう勘弁だ。

うんっ、やっぱり所属するパーティは身の丈に合ったランクでないと命が幾つあっても足りないね。実際、俺がこっちの世界へ跳ばされたのだって勇者たちが魔王と戦っている最中に魔王が仕掛けていた転移魔法陣に俺だけが引っかかったからだしさ。

そう、俺がこっちの世界にいるのは魔王のせいなのである。糞っ、普通は転移魔法って言ったら別の場所へ飛ばすもんだろうがっ!それがなんで別の世界へ跳ばすんだよっ!お前は異世界のラノベ作家だったのかっ!


かくして俺は勇者たちと魔王の戦いの結末を知らない。まっ、あの魔王もそこそこの実力があったんだろうがウチの勇者には敵うまい。

でもあの勇者って責任感の強いやつだったからなぁ。もしかして俺がいなくなった事に責任を感じていなけりゃいいけど。

うんっ、転移魔法陣を踏んだのは俺のミスなんだから気にすんなよ。そもそも、勇者はちゃんと事前に注意してくれたしな。ただ俺が勇者たちの戦いにビビッて後ずさっちまっただけなんだからさ。

くっ、思い出すと自分のヘタレ具合に泣けてくるな・・。でもそれくらい凄まじい戦いだったんだよ。よくもまぁあいつらってあんな戦いに身を投じられるもんだ。仮に俺が勇者のチカラを持っていたとしても御免被りたいよ。でも真の勇者ってのは退かないんだろうなぁ。


で、昔話も済んだので話を戻すがその後こちらの世界へ跳ばされる事になった俺は、その途中で最早定番ともいえる異世界転生転移の間にて女神からこちらの世界に関するレクチャーを受けた。

まっ、その内容は使用言語の自動変換やこちらの世界知識の強制学習や転移先での待遇に関してだ。う~んっ、このシステムをこっちの世界に導入できたら大儲けだな。でも学習塾は倒産するか?

そして最後に女神は俺にこう言ったよ。


「さて、説明も済んだし何か質問は?」

「元の世界に戻るにはどうしたらいいんだ?」


「あれ?戻りたいの?普通はそんな事いうやつはいないんだけどなぁ。」

「嘘をつくな。しらない世界へ強制連行されたやつが帰りたがらない訳ないだろう?」


「いや、それが君が跳ぶ先の世界ではそうでもないみたいなんだよ。あっちの世界から別の異世界へ行く事になったやつらは大抵なんの疑問も抱かずにチート能力を選択してまるで遠足にでも行くみたいにウキウキしながら行くんだ。」

「マジか?俺が跳ばされる世界ってそんなに戻りたくない程過酷な世界なのか?」


「まさかっ!私が管理する世界の中でもあの世界はトップクラスに安定しているよ。でも安定し過ぎて刺激がないのかもね。なのでゲーム感覚で異世界へ行くらしい。」

「ゲーム感覚って・・。そいつらって死ぬのが怖くないのか?」


「はははっ、自分は絶対死なないと思っているんだろう。まっ、実際には送り出してから1週間もしない内に9割方は死んでいるけどな。」

「9割・・、それってチートを付与された上での数字だよな?」


「勿論っ!でもあいつらが選択するチートって大抵攻撃系だから油断していると魔物に後からぱくりとされちゃうらしい。もしくは食あたりとか風土病の感染とかも多い。」

「防御系を選択しないのか・・。普通は知らない世界へ行くなら攻撃能力より防御系を欲するもんだろうに。」


「あーっ、駄目だめ。あの世界の感覚では攻撃こそ最大の防御だと勘違いしているらしいんだ。まぁ、中には万能系のチートを選択する者もいるが多くはない。なんせ万能系は突出した能力がないからな。だから人気がないんだよ。」

「残りの1割のやつらか・・。」


「そんなやつらでも1年後の生存率はほぼゼロだよ。いやはや本当にお前の世界は生きるのが厳しいよな。」

「まぁな、なんせ普通に魔物がいる世界だ。常に自分を鍛えて石橋を渡るように慎重に行動しなけりゃ生き残れない。」


「だよねぇ~、まっ、そうゆう事だから君は大丈夫なんじゃないかな。因みに君がどうしても元の世界へ戻りたいというのならあっちの世界に散らばっている七つの宝玉を集めるんだね。集められれば竜王が現われてなんでも願いを適えてくれるはずだよ。」

「七つも集めるんかいっ!それってなんていう無理ゲーだよっ!」


「なんでって言われてもなぁ、そうゆう決まりだとしか言えないぞ。これは宇宙の絶対法則だ。」

「くっ、なら仕方ないか・・。」


「まっ、そんなに焦るな。時間はたっぷりあるんだ。竜王にお願いする時に、こちらに跳んだ時の時間に戻してくれってオプションを付ければいいんだから。あっ、当然君もちゃんと跳んだ時点の年齢にして貰いなね。」

「そんなに細かく指定しなけりゃならないのか?」


「当然さ、今回だって魔王がオプションでちゃんとこの転移の間経由で跳ぶようにしていたからこうして説明したけど、なんの準備もなく跳ばされたら君は異世界で言葉や世界情勢も判らずおろおろしていたはずだ。いや、それどころか病気に対する耐性もないだろうからあっという間に死んでるね。」

「ちっ、そんなオプションをわざわざ付ける位なら異世界なんかに跳ばすなよっ!」


「はははっ、そうだね。でもまぁ魔王も退屈だったんだろう。なので君が異世界でどう生きるかを観察して笑い転げたかったんじゃないかな。ほら、オプションの中には監視システムも組み込まれているしさ。」

「魔王のやつって覗き魔だったのか・・。でも魔王ってもう生きてないよな?勇者に討伐されただろう?」


「あーっ、駄目だめ。その情報は君には教えられない。だからさらりと誘導しようとしても答えないよ。」

「くっ、お見通しって訳か。あんた腐っても女神なんだな。」


「腐ってはいないけど女神だよ。さて、それじゃそろそろ行って貰おうか。では達者でね。早く宝玉を集められるといいねぇ。」

そう言うと女神は指をパチンと鳴らした。途端に俺の周りの空間がぐにゃりと歪む。そして次の瞬間には俺はこの世界にいた。


その後俺は女神が用意した中学1年生という肩書きにてこっちの世界で生活し始めた。因みに両親は仕事の関係で外国で暮らしているという如何にもな設定だった。

うんっ、俺は元の世界では既に自立した大人だったので別に一人暮らしに不便はないけど、こっちの世界では未成年が一人暮らしって保護対象案件なんじゃないのか?それを周りのみんなが不思議からないのが不思議といえば不思議だ。まっ、多分女神がなんかしたんだろう。なのでそこら辺は考えない事にしている。


そして現在、俺はこちらの世界へ来て既に2年目である。その間俺は普通に中学生をしながら世界に散らばっている七つの宝玉を集めていて既に5つを手に入れた。

まっ、この事に関しては話すと長くなるので割愛するがまぁ大変だったよ。でも後ふたつの宝玉の在り処も既に掴んでいる。なので今年の夏休み中には手に入れられるだろう。


うんっ、普通の中学生は義務教育なので勝手に学校をサボれないのだ。いや、出来ない事はないんだけど、それをやると女神から罰則を喰らうのよ。

なんでなの?こっちの世界から異世界へ跳ぶやつらはやりたい放題らしいのになんで俺には厳しいの?なんか理不尽じゃないか?


とは言っても俺も異世界の魔法能力にてこちらの世界ではブイブイ言わせているけどね。うんっ、町で絡んできた不良どもは人体発火魔法で消し炭になって貰ったし、なんかしつこく家を売れと言ってきた地上げ屋はバナナの皮を踏んで転んで貰った。まっ、運悪くそこに先の尖った竹槍が刺さっていたのはお約束だ。

いや~、こっちの世界って魔法が存在しないからやりたい放題だぜっ!魔法が存在しないから証拠も残らないのでその気になればお金だって捏造し放題だよ。まっ、別にお金には不自由していないのでやらないけどね。

はい、外国で仕事をしているという両親から毎月ちゃんと振込みがあるのよ。はははっ、女神もその辺の事はちゃんとしているんだなぁ。


だが今回、そんな順風満帆な俺の生活にさざなみが立った。それはスジャータという転校生の存在だ。そしてスジャータはなんと俺が元いた世界のお姫様だったのであるっ!

まっ、多分スジャータは俺みたいに強制的にこちらの世界へ跳ばされたのではないだろう。多分王家内の事情かなにかで自発的に跳んで来たはずだ。その目的が何なのかは不明だが、スジャータに俺が魔法使いである事がバレた以上何かしらかのアクションがスジャータの方からあるはずである。


あるかな?普通はあるよな?まさか無視されたりしないよな?まぁ無視されたのならばそれはそれで構わないんだけどさ。でも気にして欲しいなぁ。

だって俺の事情を話せばもしかして哀れんで元の世界へ戻してくれるかも知れないじゃんっ!そもそもスジャータは王族だからなっ!ならばそれくらいはお茶の子さいさいだろうっ!

なんせスジャータの後には3級魔法使いがいるはずだからなっ!そうっ、俺のいた世界では3級魔法使いは最強なのだ。なので魔王ですら彼女たちとは争わないのである。

うんっ、俺も一応魔法使いなんだけど格差を感じるよね・・。でもしょうがないか、それこそ持って生まれた才能の差ってやつなんだから。


と言う訳で俺は元の世界でうだつの上がらぬC級冒険者だった事を隠しつつ、なんとかスジャータに気に入って貰おうと太鼓持ちよろしくあの手この手でスジャータのご機嫌取りを始めたのであった。



■□■スジャータ・アッサムとの蜜月■□■

さて、スジャータはその後互いに異世界からの転移者である事など気にする様子もなく普通に転校生として俺に接してきた。

うんっ、ちょっと拍子抜けだな。でもまぁ、公安からの暗殺の手は伸びていないみたいだから良しとしよう。


そんなスジャータはクラスの中で相変わらず回りに人だかりを作って話題の中心にいたが、ある日の放課後俺に声をかけてきた。

はははっ、周りのみんながその動きに反応しないのが面白いぜっ!さすがは民衆従順化と違和感不問化スキルだ。威力が半端ないぜっ!


「タケル、私はこの国の神話に興味があります。教えてください。」

「えっ、なに?神話?んーっ、俺も人に教えられるほど詳しくないなぁ。」

うんっ、これは本当。そもそも俺はこの国の人間じゃないしな。残念ながら女神から付与された現地情報にはあまりこの国の神話に関する情報は無かったのだ。


「タケルは自分の国の神話を知らないのですか?」

「いや、全然知らない訳じゃないけど・・、いや殆ど知らないのかな。あれっ、どっちだろう?」

う~んっ、この国ってあんまり神さまの話ってしないんだよね。でも正月には神社にお参りに行くなぁ。願掛けも神社だし・・。

でも出雲大社や伊勢神宮なんかは有名だけどどんな神様が祭られているのかまではみんな知らないんじゃないかな。やっぱり身近に仏様がいるから遠慮しているのか?


「駄目ですね、タケルは。判りました、なら私の国の神様たちの事をタケルに教えてあげます。」

「神さまたち?ああっ、スジャータの国も多神教なんだ。」


「はい、頂点神はいらっしゃいますが、他にも神と名の付く方は沢山います。」

「成程、だから日本の神さまに興味を持ったんだね。」


「ええ、特に上位神を慰める為に踊りを披露した女神の話は、私の国にも似たものがあります。」

「ああっ、それは俺も聞いた事がある。いや、神様の名前までは覚えていないんだけど、確か洞窟に隠れちゃった女神様を踊りの喧騒で誘き出して無理やり引っ張り出した話だったかな。」

俺は女神から与えられた情報ではなく自分で本を読んで得た知識を総動員してスジャータに答えた。でも神様の名前は覚えていない。と言うかこの国の神話に出てくる神様たちって名前が長げ~よっ!しかも漢字が当て字っぽ過ぎて読めねぇっ!

だがそんな俺の学習能力の低さに感づかないのかスジャータは普通に話を続けてきた。


「女神様を無理やり引っ張ったんですか?乱暴ですね。」

「まぁ、昔のことだからね。もしかしたら途中で改ざんされているのかもしれないけどさ。言葉や表現は時代と共に移ろうもんだし。なんせ昔は普通に生贄として神様を差し出していたらしいからね。」


「神に捧げる贄に神を捧げたのですかっ!」

「まあね、神様にもランクがあったのさ。なので本当の下級底辺神あたりは人間と大差なかったらしいんだ。だから神様のくせに普通に釣りなんかやるんだぜ。そして兄貴から借りた釣り針を無くして悩んだりするんだ。まっ、その後弟を許さなかった兄貴は『ざまぁ』な目にあうんだけどね。」


「ああ、それは判ります。私の国も上級神に仕える下級神という神様たちがいます。そして神様にも悪神がいて時々上位伸に諌められるんですよ。実は私はそんな下級神たちや悪神の寄り代となって踊りを上位神へ捧げる事もあるのです。」

「えっ、凄いな。スジャータって巫女様だったんだ。」

うんっ、神話なんかでは割と王族の娘が巫女をやっている事も珍しくはない。だから王族であるスジャータが巫女を兼ねていると言われても不思議には思わなかった。


「巫女?ああ、知っています。そうですね、近いものがあるかも知れません。そうだ、タケルにも踊りを見せてあげます。」

「えっ、いいの?神聖なものなんじゃないのか?」


「踊りにも色々あるんですよ。さすがに上級神へ奉納する踊りは駄目ですが、上級神から民へ下賜かしされるものは大丈夫です。」

「へぇ、そんなものもあるんだ。それなら是非見てみたいね。」

はい、これはトラップでした。だってスジャータったらやおら服を脱ぎ始めるんだものっ!おいおい、まだ陽は高いんだぞっ!それにここは学校だっ!クラスメイトたちだっているんだぞっ!だからそうゆう事は俺の部屋に来てからやってくれっ!?

いや、今のは冗談だ。本気でそう思ったけど冗談です。でもなんで服を脱ぐんだ?むーっ、嬉しいけど訳が判らん・・。

しかもスジャータのこんなとんでもない行動をクラスメイトたちはスルーしている。むーっ、違和感不問化スキル恐るべし。でもスキルが効かない俺は一応形だけだが止めに入った。うんっ、一応ね。


「なっ、なんで服を脱ぐの!あっ、なんか衣装に着替えるのかい?なら俺は別室へ・・。」

「いえ、この踊りは素肌に何も身に着けてはいけないのです。神は服などお召しになりませんから。」

でた~っ!問答無用のラッキースケベイベントっ!まさか神様からの贈り物が裸踊りとは思わなかったよっ!

ああっ、スジャータの国の神さまってなんていい神様なんだっ!是非ともこの国の国教神になって貰いたいもんだ。大丈夫、この国って宗教に関してはアバウトだから宗教間の争いは起きません。それどころかこんな素敵な神様ならあっという間に人口の半分は信者になるぜ!これは断言できるっ!だって人口の半分は男だからなっ!


などという俺の内面描写はさて置き、表面上だけ驚きのあまり動けずにいるように俺が偽っているとスジャータはテキパキとシャツを脱ぎ、スカートも脱いでしまった。なので俺の目の前には褐色の肌をブラとパンツで隠しただけのスジャータがいる。

あっ、くそっ!逆光で見えずらいぜ!いや、シルエットっていうのも中々そそるな。でも、俺は健全な男の子だからちょっと立ち位置を移動してベストボジションを確保するぜっ!


おおっ、スジャータがブラを取ったよ!女の子の生おっぱいなんて初めて見たかも知れない。ああっ、なんて柔らかそうなんだ!おっぱいってブラを外すとあんなに揺れるんだね。くっ、その柔らかな頂にあるのはもしかして乳首というやつですかっ!見たいっ!もっと近くで見たいぞっ!そして出来ればむしゃぶりつきたいっ!


いや、我慢だ!これはストリップじゃないんだ。スジャータは俺に踊りを見せてくれる為に準備しているんだ。これは神聖なものなんだぞ!邪な目で見てはいかんっ!


だがスジャータは俺の心の葛藤を気に掛ける様子もなく最終オプションの取り外しに掛かる。そう、スジャータは彼女の秘密の花園を覆っている天使のベールにそっと手を掛け、やさしく且つ思わせぶりたっぷりに降ろそうとしているのだ。当然スジャータはその為に前かがみにならなくちゃならない。なので俺の目の前には今二つの双頂がゆらゆらと揺れていた。


くっ、これは判断に迷うところだ。上の母なる揺り篭を堪能すべきか、はたまた下で未知との遭遇に備えるべきか。いや、ここはアングルを広角に切り替えて両方を拝むべきなんじゃないか?

だがこの国のエロ神は俺に厳しかった。なので無料で見れるのはここまでだそうだ。


その時、無常にもスジャータが脱ぎ捨てた制服からスマホのメッセージ着信音が鳴りハンズフリーにて音声を伝えてきた。


『スジャータ様、時間でございます。もうすぐ迎えの車が到着致しますので下校のご準備をなさってお待ちください。』


「あら、もうそんな時間ですか。ごめんなさい、タケル。私はこの後、約束が入っていました。だからこの続きはまた今度としましょう。」

スジャータはそう言うと脱いだ下着と制服を手早く着込み身だしなみを整えると俺にさよならと言って帰ってしまった。

そうか、これが全年齢対象の限界なんだな。この世界では俺の望みが叶うことはないんだ・・。くーっ、残念っ!


さて、スジャータとのラッキースケベはこの世界のエロ規制により蛇の生殺し状態で終わってしまったが、スジャータは別れ際に「この続きはまた今度としましょう。」と言っていた。なので俺はその言葉に一途の望みを賭けて待つ事とした。


でも突然のラッキースケベイベント発生で忘れていたが、スジャータってなんでこっちの世界へやって来たんだ?しかもわざわざ俺のいる中学へ?

んーっ、たまたまなのだろうか?でもスジャータは俺にわざと身元を明かすかのようにセキュリティを解除していたよな?

本来なら何重もの防衛システムで守られてしかるべき高貴な存在であるお姫様が異世界でそんな危ない事をするという事にどんな意味があるんだ?


この世界には『君子は危うきに近寄らず』という格言があるらしいが、同時に『虎穴に入らずんば虎児を得ず』というのもあるらしい。

となると俺は君子じゃないから知りたいと言う欲望に従っても仕方ないだろう。それに探りを入れればもしかしたら今回の続きが観れるかも知れないしなっ!



■□■スジャータ・アッサムの目的■□■

と言う事で翌日の放課後、俺はスジャータにこの件について問い質した。廻りにはクラスメイトたちがいるが例の如く俺がスジャータに話しかけた途端俺たちの事をスルーし始めた。う~んっ、違和感不問化スキル恐るべしだ。


「なぁ、スジャータ。君はもう気づいているんだろうけど俺は君と同じ世界からこちらに跳んできた転移者なんだ。だけど俺の場合は事故みたいなもんだったんだけど、君はそうじゃないんだろう?」

「あら、いきなり告白タイムなの?まぁ、最初から目星は付いていたけどもう少し躊躇してくると思ったのにタケルったら直球なのね。」

いや、告白じゃないからっ!どちらかというと詰問だからっ!お姫様であるスジャータにタメ口きくのはビクビクだからっ!いつ姫様付きの護衛の剣が不遜だという理由で俺の喉元に当てられないかと気が気じゃないからっ!


そう、異世界の3級魔法使いにとっては俺以外のクラスメイトを姫の護衛とすり替えるのなんて昼飯前だからな。クラスメイトたちが手にしているペンシルが突然短剣になって俺に投げ付けられても俺は驚かないよ。

だがそれは杞憂だった。そしてスジャータはあっさりと彼女がこちらの世界へ来た目的を話してくれたよ。


「実はね、タケル。私はこちらの世界に私の世界を救ってくれる勇者を探しに来たの。」

「ほうっ、勇者か・・。まっ、昔と違い昨今は異世界からの勇者召喚は下火になっているけど有りっちゃありだな。あーっ、それで勇者を探す為にわざとセキュリティを外していたのか。」


「ええ、勇者ならば例えまだ覚醒していないとしても無意識にアクセスしてくるはずだと王宮付きの魔法使いが言ってましたから。」

「インディア王国の王宮付き魔法使いと言ったら『出来損ないの悪夢』と皆から恐れられている3級魔法使いメーテルリンク・アリステリア・ミライだよな?」


「しっ!その名を軽々しく口にしてはなりませんっ!彼女の機嫌を損ねると忽ち消し炭になりますよ。」

「あわわ・・、えーと俺、なんか言いましたっけ?よく覚えていないなぁ。」

俺は慌ててシラをきった。うんっ、今回は俺が浅はかだった。あっちの世界にも色々禁忌はあるが3級魔法使いに関する事も大抵は口にしない方が無難なのだ。つまり恐れ多いって事なんだよね。いや、触らぬ神に祟りなしの方がしっくりくるか?

と言う事で俺はそれとなく話題を元に戻した。


「しかしわざわざ勇者を異世界から召喚だなんて俺がいない間に王国に何かあったのか?」

うんっ、本来なら姫様相手にタメ口はきけないんだけど、そこはほら、一応こちらの世界では俺とスジャータはクラスメイトという設定なので逆に謙譲語なんか使うとバランスが取れなくなっちゃうのよ。

なので絶対クラスメイトに紛れ込んでいるはずのスジャータの護衛も苦虫を噛み潰したような表情を隠しながらスルーしているんだろう。

そして俺の質問に対してスジャータは俺がこちらの世界へ跳んだ以降のあちらの世界の変化を話してくれた。


「ええ、そうよ。実は最近新たに魔王が現れたの。この魔王がどうも転生者らしくてね。今までの魔王と違ってやりたい放題し始めたのよ。」

「ほうっ、新参者が現れたのか。まっ、それもテンプレちゃテンプレだな。でもそんなやつは既存の魔王が叩きのめすだろう?もしくは王国には3級魔法使いがいるんだから彼女に仕事して貰えばいいだけじゃないか?」

そう、実は俺が元いた世界では魔王は沢山いるのだ。まっ、そうゆう意味では魔王も単に支配地域の魔物たちの王様みたいなもんなんだよね。なので従えている魔物たちの数や能力によって魔王たちにもチカラによる上下関係があったりする。

だからさっき俺が言ったように新参者の魔王はヤンチャし過ぎると既存の魔王たちから懲らしめられるのだ。仮にそれらの外圧をチカラによって防ぎきったとしてもインディア王国には3級魔法使いがいる。そして彼女らにとっては魔王ですら暇潰しの遊び相手くらいにしかならないチカラの差があるのである。

そう、俺のいた世界では3級魔法使いこそが『最強』であり最大の厄災なのだ。

なので先ほど俺はその事を指摘したのである。だがそれに関してスジャータはため息混じりに答えた。


「それは既にお願いしたのだけど断られてしまったの・・。なんでも彼女の中では、魔王を倒すのは勇者でなければならないという不文律があるらしいのよね。」

おーっ、さすがは3級魔法使いだな。国家の一大事よりテンプレの方が大事なのかよ・・。お前はこっちの世界の中学生かっ!

まっ、3級魔法使いがそう言うなら無理強いは出来ない。でもそれならそれで幾らでも方法はあるはずだ。なので俺はその事をスジャータに問い質した。


「あーっ、まぁ確かにそうかも知れないけど、なら王国には今勇者はいないのか?」

「残念ながらいないわ。一応勇者の肩書きを持っている者は何人かいるのだけど異世界からの転生魔王に対応できるスキルを持った勇者は既にもうかなりのご高齢でみんな引退しているのよね。」


「あーっ、最近は各地の魔王とも話がついて不可侵条約が結ばれているからなぁ。俺が知っている勇者による転生魔王討伐も30年以上前の話しだし・・。」

「ええ、なので仕方なくテンプレに則って異世界から勇者を召喚しようという事になったの。ただ最近は勇者召喚モノも廃れたのか中々見つからなくてね。なので私が直接こちらの世界へ来て探す事になったのよ。」


「それってアドバイスしたのは3級魔法使いだよな?」

「ええ、そうよ。一応当たりは付けてあるから跳べば勇者の方からアクセスしてくるはずだって言っていたわ。」

うんっ、それは多分嘘だな。いや、これはスジャータの言葉が嘘なんじゃなくて3級魔法使いの説明が嘘だって事だ。きっと3級魔法使いは誰が勇者なのか知っているはずだ。ただ自分が召喚したのでは面白くないんで隠しているのだろう。さすがは3級魔法使い、我侭だねぇ。


しかし3級魔法使いの説明が本当だとするとこの中学に勇者がいる事になる。でなければスジャータをこの学校に転校などさせないはずだ。

でもそんなやついたかなぁ。俺も一応こっちに跳ばされた時に全員にさぐりを入れたけどそんなやつはいなかったけどなぁ。

まっ、俺が調べたのはあくまでこちらの世界での各生徒の立ち位置とかだったので引っかからなかったのかも知れない。なんせあの時はこちらの世界に勇者候補がいるなんて思いもしなかったからな。

なので俺はその事をスジャータに告げた。


「俺が知っている範囲では残念ながらそれらしいやつはいないな。まぁ、俺が調べたのはあくまでこっちの世界での立ち位置なので、もしかしたら異世界へ跳んだ後に覚醒するのかも知れないけど・・。」

「あーっ、それに関してはもう見つけました。タケル、あなたが魔法使いが指名した勇者です。」

「へっ?」

スジャータの言葉に俺は首を傾げた。いや、だって俺ってこっちの世界の人間じゃないのよ?向こうの世界でもしがないC級魔法使いだったの。確かに小さい頃は勇者に憧れたけど残念ながら俺にはそんな才能はなかったのよ。

だがそんな俺の混迷を気にする様子もなくスジャータは駄目押しとばかりに話を続けてきた。


「タケル、あなたが今回魔王と戦い世界に平和を取り戻す勇者です。」

「いやっ、待てっ!それってテンプレを外しているだろうっ!俺はしがないC級魔法使いなんだぞ?しかもそれだって所属していたパーティの成績に引っ張られる形でたなぼた的に貰えたランクなんだ。実際の俺の実力は多分D級の底辺か、E級の上位ってとこなんだよっ!」

うんっ、自分で言って落ち込んだ・・。ぐすん。


「そうですね、それは私も調べました。でもそれはまだあなたが覚醒していないからです。そして魔法使い曰く。儀式を行えばあなたは覚醒するとの事です。なので早速執り行いましょう。」

そう言うとスジャータは服を脱ぎ始めた。げーっ、それって儀式の為だったの?うわーっ、俺ってどうなっちゃうんだっ!


かくして今、俺の前にはすっぽんぽんになったスジャータがいる。そして彼女は神に捧げる舞を踊り始めた。そして気づいた時にはそれまで周りにいたクラスメイトたちは全員いなくなっていた。つまり今この教室にいるのは俺とスジャータだけである。

うんっ、特等席で独占だぁっ!ダフ屋からこの席を購入したら100万円くらい吹っかけられるぜっ!


もっとも気恥ずかしさをそんな冗談で誤魔化している俺と違い、踊るスジャータの顔は真剣そのものだ。なので俺も真剣にならねばと思うんだけど、何故か俺の意に反して下半身が反応してしまう。

あーっ、駄目だ。神聖な儀式をエロい感情で汚すだなんてやっぱり俺は勇者なんかじゃないよ。うんっ、御免ねスジャータ。俺は君の期待に添えそうもない。


だが徐々に激しさを増すスジャータの踊りに呼応するように俺の中から何かがこみ上げてくる。そしてそれはやがて右手の甲に集まりとある文様として具現化した。


「ぐわっ!なんだ?チカラが・・、チカラが溢れてくるっ!」

そのC級魔法使いには不相応なチカラに対して俺の体が悲鳴を挙げた。まずい、このままでは飲み込まれてしまう。しかし抗おうにもその強大なチカラは俺の意思などではどうする事もできない。

そしてスジャータの舞がクライマックスを迎えるのと同時に俺はとうとうそのチカラを放出した。えーと、パンツの中にね・・。あーっ、恥ずかしい・・。


そして踊り終わったスジャータと、不本意ながらイッてしまった俺は共に恍惚の表情で荒い息を繰り返す。うんっ、この状況を人が見たら絶対勘違いするよな。はははっ、スジャータよ。人払いしておいて正解だったねっ!

まっ、冗談はさて置き、暫くして息が整ったスジャータは俺の右手の甲に現れた勇者の文様を目線で確認すると、満足そうに微笑みながら話しかけてきた。


「納得しましたか、タケル?もっとも実は私も半信半疑だったのです。でもタケルには勇者の印が浮かび上がりました。これで私も役目を果たせて安心しました。さぁ、タケル。いえ、勇者様、どうか私の国をお救い下さい。」

そう言うとスジャータはすっぽんぽんのままで俺の前に跪き俺の右手の甲に接吻した。うんっ、もう一度繰り返すけどこの状況を人が見たら絶対勘違いするよな。だって確かエロゲーでこんなシチュエーションがあったものっ!


でも悪いけどスジャータ、その前にちょっとトイレに行って来ていいかな。うんっ、ちょっと漏らしちゃったみたいなの・・。えーと、おしっこじゃない方を・・。なので洗っておきいんだよね・・。



■□■勇者にしてくれるって話にホイホイ乗っかるアホな俺■□■

その後、トイレでパンツを体育用の短パンに履き替えた俺は、スジャータと共に元の世界へ戻った。う~んっ、折角集めた宝玉が無駄になっちゃったな。これって元あった場所に戻さなくても大丈夫なのかな。まっ、いざとなったら相手先着払いの宅配便で送り返すか。


そして戻った元の世界っ!おーっ、懐かしいぜっ!だって2年ぶりだからなっ!あーっ、飲み屋のツケはもう無効になったかな?まさか今更払えとは言われないよな?

そもそも俺が異世界へ跳んだのは仕事中なんだから俺の後始末はパーティリーダーの仕事のはずだ。そしてリーダーは真面目なやつだったから絶対立て替えてくれたはず。

あれ?そうなるとやっぱりリーダーには返さなくちゃ駄目か?あれれ?

まっ、今の俺にはあの頃の酒代なんて大した額じゃないから払えるけどねっ!だって俺って勇者なんだよ?しかも国家直々の指定だぞっ!まだ給与関係の話はしていないけどそれ相応の額は支給されるはずだ。・・されるよね?


俺はその事についてスジャータに聞こうと思ったが、それを口にする前にスジャータはとんでもない事を俺に告げてきたよ。


「それでは勇者様。これより真の勇者になる訓練を受けて頂きます。担当教官は魔法使いですのでくれぐれも失礼のないように気をつけて下さいね。」

なんじゃそりゃーっ!

えーっ、普通はそうゆうのって文様が発現した時点でセットで備わっているもんじゃないの?そんな注文してから食材を裏の畑に取りに行くようなこだわり過ぎなお店は嫌だよっ!俺は普通に早い、安い、旨いが売りの牛丼でいいよっ!あっ、出来れば大盛りで卵もつけてくれると嬉しいです。


とは言っても王族であるスジャータの命令はここでは絶対だ。なので俺は召喚モノの定番である王様との謁見もなしにいきなり3級魔法使いの下へと連れて行かれた。

そこは王宮の裏に建てられたこじんまりとした建物だった。まぁ、実際には前にある王宮がでか過ぎるのでそう感じただけでよくよく見れば結構大きな屋敷だ。


俺たちがその屋敷へ赴くと既に屋敷の召使と思しき女性が待っていて俺たちを屋敷内の一室へと案内してくれた。そしてそこにはひとりの少女が椅子に座って俺たちを待っていたのだった。

むーっ、こいつが3級魔法使いなのか?どう贔屓目に見ても小生意気なガキんちょにしか見えないんだが?だがスジャータは少女に対して最高級の礼節で対応している。となるとやっぱりこいつが3級魔法使いなのだろう。


「魔法使い様、ご指示どおり勇者様をお連れしました。ですのでどうか勇者様におチカラをお授け下さい。」

「うわーっ、本当に連れてきよった・・。スジャータよ、お前って本当に真面目じゃのぉ。」

うんっ、やっぱりこいつは3級魔法使いだ。だって王族であるスジャータに対してえらく尊大な口をきいているもんな。

でもそれも実力のなせるところなんだろう。なんせインディア王国の王宮付き3級魔法使いメーテルリンク・アリステリア・ミライと言ったら魔王たちからですら『出来損ないの悪夢』と恐れられているとんでもないやつらしいからなぁ。いや、本当に俺なんかを勇者にするよりこいつがちょっと出掛けて行った方が簡単に片付くと思うよ?


だが現実は俺が望まない方向へと話が進んでゆく。なので魔法使いは俺に話しかけてきたよ。


「ふむっ、お主がシリウス・アルデバランか。まっ、今回お主は勇者として生まれ変わる事になるからその名は捨てよ。なので新しい名は向こうの世界で使っていた名前を使うがよい。」

あらら、いきなりの戸籍剥奪かよっ!でもまぁ、俺は孤児だったからあまり名前に執着はないけどね。そもそもシリウス・アルデバランって名前も冒険者登録する時に考えた名前だし。

うんっ、実は孤児時代の俺って名前もなかったのよ。と言うか親の記憶もありません。いや~、今から思うとあの頃の俺ってよくもまぁ生きていれたよなぁ。まぁ、殆どサバイバル状態だったけどね。


だが今は昔を懐かしんでいる場合じゃない。なんせ俺はこれからこの災害級魔法使いの下で真の勇者になるべく特訓をしなけりゃならないのだ。

くそっ、これがラノベなら神様からぽいっとすげーチートを貰って無双するパターンなはずなのに現実は厳しいぜっ!


その後、俺を残してスジャータは立ち去ってしまった。ただスジャータは別れ際に「あなたにこの国の未来を託します。どうか生きてお戻り下さい。私は何時までもお待ちしております。」と言って涙を流しながら俺にキスしてくれたよ。

くーっ、ここまでされたらやっぱりやめますとは言えないよな。おっしゃーっ!こんなご褒美を貰った以上俺はやるぜっ!どこのポンコツ魔王だろうが聖剣エックスリカバリーでばっさりだっ!


とは言ったものの3級魔法使いのシゴキは地獄の如き荒行だった。俺はもう毎日特訓に継ぐ特訓で心身共にボロボロとなった。

「これ、この程度の事がこなせずして真の勇者になろうだなど10分早いぞよっ!」

「サーっ、イエッサーっ!」


「よしっ、では次は10km先の川からこの畑へ水を引く水路を掘れっ!使える時間は今日一杯じゃっ!」

「イエッサーっ!」

俺は特訓内容に色々疑問を感じながらも指示された事を黙々とこなしてゆく。


「サーっ!任務が完了しましたっ!」

「馬鹿もんっ!誰がこんな小川を掘れと言ったっ!こんな水量では全部の畑に水が行き渡らんではないかっ!やり直しじゃっ!」

「申し訳ありませんでしたっ!サーっ!」

いや、俺だってそれは判っていたんだよ?でも時間が足りなかったんだよっ!と言うか普通は一日で10kmの水路は重機を駆使してもひとりでは掘れないぞっ!


だが俺は賢いから魔法使いに対して言い返さない。いや、一回だけ反論したんだけど、その時魔法使いのやつは俺がやりきれなかった事をあっさりと魔法で片付けやがったのよ。

くっ、嫌味なやつだ。そんなやつには夕飯のスープに雑巾の絞り汁を入れるぞっ!いやゴキブリを細かく刻んで入れた方が効果的か?・・いやバレたら後が怖いからそんな事はしないけどな・・。


だがそんな意味不明な特訓でも何故か俺の勇者レベルは上がっていった。特に精神力を鍛える為だと言って王室が経営している公衆浴場の番頭をした時はレベルがいきなり5も上がったからな。

でもあの苦行はそれくらい凄まじいものだったから当然と言えば当然だろう。だって裸の女の子が大勢俺の前にいるんだぞっ!これを苦行と言わずして何とするっ!

まっ、一番ダメージを喰らったのはバアさんのしわしわの干し葡萄をもろに見た時だけどなっ!しかもバアさんのやつ、俺が衝撃のあまり固まっているのを見るとポッと頬を染めて恥らいやがるんだもの・・。止めてくれ、そんな反応されるくらいなら罵倒された方が万倍マシだ・・。


そんな修行も今日で終わりだ。なので今、俺は魔法使いに連れられて修行の成果を確かめるべく郊外の草原に来ている。なんと後ろの方には王室関係者たちまでいるよ。当然その中にはスジャータの姿もあった。


「ではこれよりお主の勇者最終試験を行う。その前にお主に伝えておこう。よくぞここまでがんばった。それだけでも勇者と呼ぶにやぶさかではないが、残念ながら世の中は過程でなく結果を重視する。なのでここでお主のチカラを示せっ!」

「サーっ、イエッサーっ!」

魔法使いからの意外な労いの言葉に多少戸惑いながらも俺はこれまでの訓練で身についてしまった脊髄反応で形通りの返事を返す。

うんっ、まるで戦争映画の新兵訓練みたいだな。そうか、極めて過酷な状態におかれると人間って頭で考えなくなるんだねぇ。


「では最終試験の課題を言い渡す。我を倒せっ!」

「サーっ、イエッ・・へっ?」

俺は意外な試験内容に思わず返事が止まった。いやいや、何言ってんのあんた。あんた魔王すら避けて通る3級魔法使いだろうがっ!そんなやつをどうやって倒せって言うんだよっ!

あっ、判った・・。こいつ単に俺で遊びたがっているだけだ。今までの俺では瞬殺しちゃうからある程度耐えられるようになるまで待っていただけだよっ!つまり俺はおいしく食べられるようになるまで餌を与えられ続けた家畜だったんだっ!

だが、俺が返事に詰まっていると魔法使いは妥協案を示してきた。


「まっ、いきなり我を倒せと言われても戸惑いもあろう。なんせ我は世界一可愛い女子おなごじゃからな。躊躇うなという方が酷である。なので代替として我の子分を相手にせい。」

そう言うと魔法使いは草原にドラゴンを召喚しやがった。うわーっ、マジか?確かに3級魔法使いよりはマシかも知れないけどそれでもドラゴンかよっ!後、別にお前は世界一可愛い訳じゃないぞっ!一体誰がそんな事言ったんだっ!


だが今の俺にはそんな突込みをしている余裕はない。何故ならばドラゴンがスジャータたちがいる方へ向かい始めたからだっ!

ちっ、俺のやる気を出させる為なのかも知れないがやり方がちょっとゲスだぞっ!

なのでまず俺はドラゴンに対してお前の相手は俺だと判らせる為に一発ぶっ放した。


「爆縮熱反応術!アトミックボンバー!!範囲限定、目標ドラゴンっ!」


どか~んっ!


俺の詠唱と共にドラゴンの体が1万度を越える紅蓮の炎に包まれる。だが影響を受ける範囲を限定したのでその熱はスジャータたちには届かない。しかしこれでドラゴンは丸焼きになったはずだ。

だが爆煙が消えた後には目を真っ赤にしてこちらを睨みつけているドラゴンがいたよ・・。まっ、これは想定内だ。だってドラゴンって自身も数万度のブレスを吐き出しやがるからな。ならば熱には耐性があるはずなんだ。でないと口が火傷しちゃうだろう?


だが攻撃ってやつは火力だけじゃないんだぜっ!おらっ、今度は力比べだっ!


「爆圧魔法!ウエイトパンデミック!フルパワー!」

俺の詠唱によりドラゴンを取り巻く空間がドラゴンに向かって一斉に圧縮し始める。本来重さが無いとさえ言われている空気ですら圧縮され液体になりやがては固体化してドラゴンを上から押し潰そうとした。固体空気?科学アカデミーの教授たちが聞いたらさぞ顔をしかめるだろう。だが魔法に不可能はないんだよっ!


多分今ドラゴンの体には数十万トンの加重が圧し掛かっている。いや上だけじゃないな。上下左右あらゆる方向から漬物石宜しくドラゴンを押し潰そうと圧力が掛かっているはずだ。そしてその凄まじい圧縮熱により空間自体が灼熱している。

まっ、熱に関してはドラゴンは耐えるだろうけど圧力による力技攻撃にはさすがに耐え切れないだろう。


だがこの時俺はドラゴンが規格外生物である事を失念していた。そう、ドラゴンは最強なのだ。なのでドラゴンはこの攻撃も耐え切りやがったよっ!お前は化物かっ!

あっ、でも6ミリくらいは縮んだか?うん、それでも6ミリか・・。ハンパないなぁ。


だが世の中にはそれでも上には上がいるんだけどね。なので俺は慌てずに次ぎの策へと移行した。その策とは?


じゃじゃ~んっ!それは宝玉だぁっ!

そうっ、実はドラゴンって光物に滅法弱いのよ。なのでよく宝石とかを集めているんだ。はははっ、お前は色付きのビー玉を集めまくるカラスかっ!


「ほれほれ、大人しくしていればこれをやらんでもないぞ?」

俺は向こうの世界から持ってきた宝玉をチラつかせながらドラゴンを誘惑する。するとドラゴンの目はもう宝玉に釘付けだ。う~んっ、さすがは宝玉。効果てき面だな。


「よしよし、それでいいんだ。だが宝玉を手に入れたくばそれだけじゃ駄目だ。はい、お座りっ!」

俺の号令にドラゴンは犬っころよろしくピンと固まって地面に座した。


「よしっ、次はごろんだっ!」

またしてもドラゴンは素直に俺の号令に従いその場で腹を上にして転がった。でも視線は宝玉の方に向いている。う~んっ、そんなに宝玉が欲しいのか?すげーな宝玉の魅力って。

だがここで俺は少し調子に乗ってしまった。なんとドラゴン相手に『お手』をさせてしまったのだ。


ぺちゃ・・。


はい、結果から言うとドラゴンは素直に従った。だが体格差があり過ぎて俺はドラゴンの手で押し潰される格好になった。

ぐはっ!この野郎っ!少しは加減せんかっ!俺じゃなかったらぺちゃんこだったぞっ!いや、実はかなり平べったくなってしまった・・。う~んっ、なんか向こうの世界ではこんな感じの妖怪がいたなぁ。名前なんて言ったっけ?


その後、なんとかドラゴンの手から這い出した俺は土埃を払いつつ、最後の失敗はなかった事として魔法使いにどうだとばかりに判定を求めた。


「むーっ、いまいち盛り上がりに欠けるがまぁいいであろう。知恵も勇者の証のひとつであるからな。」

そう言って魔法使いは俺に祝福を与えた。因みにその方法はやっぱり指パッチンだった。う~んっ、万能だな、指パッチンっ!


こうして俺は無事に魔法使いから課せられた勇者試験に合格し真の勇者となった。うんっ、全然勇者っぽくなかったけど合格したんだから気にしない。

因みにドラゴンはスジャータに宝玉込みで預けた。うんっ、ドラゴンのもうひとつの弱点って美女だからな。このふたつを持ってすればドラゴンなんてペット同然だっ!


その後、無事魔法使いから勇者認定を受けた俺は敵となる新参魔王についてレクチャーを受けた。


「あーっ、これはスジャータたちには内緒なんじゃが、このロクデナシ魔王はお主たちがイチャコラしていた異世界からやって来た転生者じゃ。こやつ、こっちに来る前は中学生だったんじゃがな、試験が嫌で学校に火をつけようとして誤って用意したガソリンを被ってしまったのじゃ。その後、火事自体は警報機が作動して直ぐに消防が出動し消し止めたのじゃがこやつは死んでしまった。まっ、自業自得である。」

う~んっ、確かにそうだけどなんかこの頃そうゆう事件が多いよな。なんでみんな鬱憤を放火で晴らそうとするんだろう?


「じゃがこやつはヘビー級のラノベ読みでのぉ。なので異世界ポイントが規定値に達していた為に異世界でやり直す権利を得ていたのじゃ。」

はぁ~?何それ?そんなの聞いた事がないぞ?そもそもそのポイントは何処が管理しているんだよっ!


「なのでこやつが女神に願い出たチートも如何にも中学生が考えそうなやつでのぉ。なので他の魔王たちもその対応に苦慮しておる。」

あーっ、これまた無双系のお決まりだな。本当に中学生ってとんでもない事を考え出すからなぁ。でもまぁそれでも内容を知ってしまえば対応は幾らでも出来る。なので俺はそこら辺を詳しく聞く事にした。


「そうなんですか。で、そいつはどんなチートを願ったんですか?」

「それは戦ってからのお楽しみじゃ。ここでバラしては興ざめじゃからな。」

お楽しみって・・、こいつ本当に自分の事しか考えてないな・・。さすがはみんなから『出来損ないの悪夢』と言われるだけの事はある。


でもまぁ俺も向こうの世界にいた2年間で結構な数の異世界モノを読んだからな。大抵のチートなら対抗策を考えてあるぜっ!そうっ、この世に絶対なんてもんはないんだよっ!

そこら辺の事、きっちり教えてやるから待ってろよっ!ロクデナシ魔王っ!


「ではタケルよっ!この世界をひとりで救えっ!」

「えっ、何?ちっ、ちょっと!もしかして俺だけなの?他に仲間はいないのかよっ!俺一人だけなのかっ!」

「それがラノベ界の常識じゃっ!ラノベにおいて仲間などは所詮脇役。主人公が全てをかっさらって行くのがラノベ読者の願いなのじゃっ!あやつらにとってはテンプレこそが神なのであるっ!」

そう言うと3級魔法使いはパチンと指を鳴らした。

いや、なんでもラノベで例えるのは止めて欲しいんだが・・。そもそもラノベって異世界系だけじゃないんだぞっ!


だがそんな俺の心の叫びは当然ながら無視される。かくしてシリウス・アルデバラン改め新たに大和 武 (やまと たける)と名乗る事となった俺は、C級魔法使い冒険者から勇者にジョブチェンジして現在インディア王国で絶賛やんちゃをしている糞ったれ転生魔王を倒す為にやつがいる場所へと飛ばされたのであった。


う~んっ、俺って働き者だなぁ。あっ、そう言えばまだ賃金に関して話し合ってないや。あれ~、もしかしてこれって無給ですか?だとしたらテンション下がるなぁ・・。



■□■我侭し放題な魔王はやっぱり転生中学生っ!■□■

さて、魔王がいる場所と言ったら魔王城である。なので俺は今新参ロクデナシ魔王が居を構える魔王城の前にてそのしょぼい全容にため息をついた。

うんっ、さすがは転生中学生が作っただけあってテンプレを外していないなぁ。はははっ、まるでダンジョンみたいだよ。

でもそれじゃ住むにはちょっとアレなんじゃないか?そもそも地下に城なんか作ったら入り口を塞がれたら終わりじゃん。えっ、ちゃんと裏口がある?ふ~んっ、それってどこ?えっ、あの森の中に通じているの?よしよしならば最初に焼き払っておくか。


「爆縮熱反応術!アトミックボンバー!!範囲限定、目標あの森っ!」


どか~んっ!


俺は魔王への挨拶代わりに脱出口と教えられた森をこんがりと焼いた。うんっ、誰に教えられたのかは秘密だ。なので突っ込んではいけない。


「さて、それじゃテンプレに則り魔王城の衛兵辺りから片付けていくか。むーっ、出来ればさっさと四天王辺りが出てきてくれると助かるんだけどなぁ。」

俺は魔王城改めダンジョンの入り口にて中から前座の魔物たちが飛び出してくるのを待った。うんっ、俺は今回ひとりだからね。極力体力は使いたくないのよ。

だがあれだけ派手にぶちかましたにも関わらず誰も出口から飛び出してこない。あれ?なに?もしかして場所を間違えた?あれれ?そうなると俺がした事って単なる自然破壊?


まっ、森林火災に関してはカミナリが落ちたと言い張ろう。そして俺は通りすがりの冒険者だ。ただ冒険者の義に則り未だ燻っている火をスコール魔法で消火した使命感の強い立派な男という設定にして誤魔化そう。うんっ、別に感謝状はいらないよ。俺はやるべき事をやっただけなんだから。

はははっ、自分で火を付けておいて発見を通報し出動して点数を稼いでいたどこぞの消防士みたいな事を言ってしまった。


だが俺がそんなマッチポンプな芝居をしていると漸くダンジョンから出てくる者がいた。そして驚く事にそいつが魔王だったよ。う~んっ、魔王自らお出ましとは嬉しい誤算だ。実に話がスピーディに進むから大歓迎である。

でもその前に俺は頭に浮かんだ疑問を魔王に投げつけた。


「あーっ、俺ってお前を倒しに来た勇者なんだけど、お前が魔王だよな?」

「なっ、勇者だと?では裏口の森を焼いたのは貴様かっ!」

「うんっ、そう。でも消火したのも俺だから罪には問われない。」

いや、そんな道理がまかり通るのならば警察はいらないよな。もっともこの世界に警察という名称の組織はないけどさ。


「ところでここってお前ひとりしかいないのか?普通対魔王戦といったら前座として四天王とかが出てくるもんじゃないの?」

「ぐっ、ぬぬぬぬ・・。」

俺の問い掛けに何故か魔王は悔しそうな顔をして答えなかった。だが俺はその表情と事前に3級魔法使いから得ていた情報を刷り合わせて察したよ。


「あっ、もしかしてお前四天王たちから見放されたんじゃないのか?」

「なっ、なんでお前がそれを知っているっ!」

俺の当てずっぽうがどんぴしゃだったらしく魔王は自ら馬脚を表してしまった。


「あっ、やっぱり。いや、お前みたいなやつは大抵そうなるんだよ。普通、人気者ってのは周りにも気を使うからな。お前みたいにチカラでごり押しするようなやつの下には仲間は集まらないもんなのさ。」

あたた・・、これは俺にもブーメランだったな。まっ、だけど今の俺には勇者という肩書きがあるからね。これさえあれば女の子たちなんて入れ食いさっ!


そんな俺の嫌味に対して魔王は強がりを返してくる。

「ふんっ、使えないやつらなどいても仕方ないから俺の方からクビにしただけだっ!俺こそがこの世界で最強であり最高の指導者なんだっ!つまり俺がダンガムだっ!」

お前はどこぞの国の元大統領かっ!いや、色々混じっているな。最後の方ってアニメの台詞じゃなかったか?

まっ、この情報により俺は少し魔王をからかう事にした。もとい、挑発して冷静な判断が出来ないように仕向けたと言い直そう。


「ところでお前ってキュアキュアってどの世代の女の子が好き?俺は初代の髪の短い方なんだけど。」

「ふっ、初代か。まぁ確かに初代も可愛いが何と言ってもイチオシは5代目のハートキャッチピュアピュアだっ!」

あらら、ふざけて聞いたのに魔王ったら乗ってきちゃったよ。所詮は中学生。好きな事には抗えないんだな。でも中学生にもなってキュアキュアに夢中だなんて少し恥ずかしくないか?いや、俺は大人だけど好きだけどね。


さて、精神的ダメージを狙って話を振ったのにマジで返されてしまった。なのでここで方向修正しないと夜を徹してキュアキュア談議になりそうだったので俺はこほんと咳払いをして仕切り直しを図った。


「まっ、キュアキュアに関しては語りたい事は幾らでもあるが残念ながらノートの余白がもうない。なので本題に入ろう。ロクデナシ魔王よ。お前ちょっとやんちゃし過ぎだ。なので悪いが社会平和の為に死んでもらうっ!これは民意だっ!異論は聞かんっ!」

魔王への死刑宣告と共に俺は一発で終わらせようとありったけの魔力を注入して爆縮魔法をぶっ放した。


どか~んっ!


ほいっ、一丁あがりっ!ふんっ、他愛もない。確かにこの爆縮熱反応術アトミックボンバーはドラゴンには効かなかったがさすがに生身の中学生では防げないだろう。

だが、どうやら中学生だったのは中身だけらしく魔王はこの攻撃を凌ぎやがった。あらら、そう言えばこいつって魔王だったな。あんまり言動が中学生していたから失念していたよ。

そして俺の攻撃を防ぎきった魔王は薄ら笑いを浮かべながら俺に嫌味を言ってきた。


「ふふふっ、なんだ今の攻撃は?ちょっと熱めの湯にでも浸かった程度でしかなかったぞ?この程度の攻撃で俺を倒せると思っていたのか?くくくっ、これはとんだ勘違い勇者が来たものだ。」

いや、魔王よ、強がりはよせ。お前ちょっと鏡を見てみろよ。髪の毛なんかちりちりだぞ?羽織っているマントなんて端の方がまだ燃えているんだが?


でもまぁ、俺も全力を出したからな。それを防ぎきった事は認めてやるべきだろう。うんっ、俺って相手を褒めて伸ばすタイプだからね。いや、この場合は伸ばしちゃ駄目か?


さて、俺からの初手を凌いだ魔王は次は自分のターンだとばかりに俺に対して攻撃を仕掛けてきた。


「とこしえの闇に集いし我が眷属どもよっ!我が命ずるっ!勇者を討てっ!」

魔王の詠唱と共に地面から続々と闇の亡者たちが這い出してきた。あっ、でも二、三匹は途中に石でもあったのか中々出れずにもがいているよ。仕方ないなぁ、ほれ手伝ってやるからしゃきっとしろっ!


「爆圧魔法!ウエイトパンデミック!範囲限定、目標亡者どもっ!」


どんっ!


地面から這い出てこれからが本番だとウキウキしている亡者たちを俺は無常にもぺしゃんこにした。うんっ、残念ながらお前たちと遊んでいる暇はないの。俺はさっさと仕事を片付けてスジャータに褒めて貰わなくちゃならないからな。

ふふふっ、俺とスジャータはもうチューまでした仲だからなっ!となれば次のステージはっ!がはっ、駄目だ、想像しただけでイッてしまいそうだよっ!

だけどそんな俺の事情を知らないであろう魔王は亡者たちを瞬殺されてお冠のようだった。


「貴様・・、アクションシーンのお約束を知らぬのかっ!雑魚とはいえ少しは苦戦するのがテンプレだろうがっ!」

「うるさい、俺には時間がないんだ。早く終わらせて午後5時からのアニメを見なくちゃならないんだからな。お前だってそうだろう?」

「うっ、確かに・・。ちっ、慌てて出てきたから録画をしていない。ならば確かに遊んでいる時間は無いな。いいだろう次は俺が直々に相手をしてやるっ!」

そう言うと魔王は一気に気を高めて次なる眷属を召喚した。うんっ、こいつ直々って言っておきながら自分では戦う気はないんだな。さすがは中学生。身の程を弁えているぜっ!

いや、今のは誤解を招く発言だった。全ての中学生がそんなではないからな。そうっ、中にはがんばっている中学生だって沢山いるんだ。

うんっ、がんばれ君たちっ!いずれ栄光は君たちの頭上に輝くよっ!


さて、次に魔王が召喚してきたのは身の丈が30メートルはありそうな機動戦士だった。うんっ、つまりロボットである。

おいおい、お前ジャンルを間違えていないか?ここって中世欧州風な異世界なんだぞ?なんでロボットなんか出して来るんだよ。世界観がぶち壊しだろうがっ!

だが俺の心の突込みを聞けない魔王はよっこいしょとばかりにロボットの腹の中に入っていった。そして外部スピーカーを通して俺に啖呵を吐いてきた。


「がははははっ!所詮勇者など剣と魔法で戦うしかない時代遅れな存在よっ!最新科学に基づいて創作されたこの戦闘マシーン『ユニコーン』の敵ではないわっ!」

あーっ、なるほど。一応名前を神獣にしておいて世界観を誤魔化そうという手立てか。うんっ、実に中学生らしいこすいやり方だ。いや、これはどちらかというと大人のやり方か?


しかし大丈夫なのかね。俺の知っているユニコーンって操縦者の意志を乗っ取って暴走するはずなんだけど?

まっ、そうなったらなったで俺には関係ないけどね。

でもこの戦闘マシーン『ユニコーン』の戦闘の能力はマジで凄かった。なんとこのロボット空を飛んだよっ!はい、ジャンプしたんじゃなくて本当に飛んだのっ!

おいおい、その脚は何の為にあるんだ?空が飛べるんなら必要ないだろうっ!と言うか逆に邪魔なんじゃないのかっ!

そしてユニコーンが装備している兵器は何故かライフルだった・・。まっ、一応実弾系じゃなくてビーム系だったけどちょっと概念が古いんじゃないのか?そのビームのエネルギー源はどこにあるの?


まっ、それを言っちゃうと魔法もかなりキナ臭いものになっちゃうんで突っ込まないでおこう。なので俺は上空から乱射されるビームを魔法障壁で防ぎながらあちこちへと逃げまくった。

うんっ、別に防ぎきれるから逃げる必要はないんだけどそれだと巻き上がった土埃で俺の姿が見えなくなっちゃうからね。俺って勇者だからそれじゃ駄目なのよ。

そう、勇者はみんなに見てもらってなんぼだからさっ!


さて、ビームライフルでは埒が明かないと悟ったのか魔王は次にライフルを放り出すとロボットの背中からロケットランチャーを取り出してきた。

あらら、どこにそんなもん隠していたの?今までなかったよな?と言うかロケット弾ってビームより破壊力があるの?エネルギー量的におかしくない?


だが実際にはおかしくなかった。何故ならば魔王が発射したきたロケット弾って核弾頭だったからなっ!

お前は馬鹿かっ!こんな近くで撃ったらお前自身も吹っ飛ぶだろうがっ!


俺はさすがにこれは防御障壁でも堪えきれないと判断し転移魔法で後方の上空へと距離を取った。そして爆心地を見下ろす。そこには悪魔の如ききのこ雲が周囲から空気を巻き込んで天に向かってそそり立とうとしている。おかげで地上では突風が吹き荒れているよ。

うんっ、ハンパないね核爆発って。いや、威力的には俺の爆縮熱反応術アトミックボンバーも似たようなもんだけどさ。


さて、俺は暫く上空から様子を窺っていたけど爆心地には動きがない。うんっ、多分魔王はロボットごと蒸発してしまったのだろう。なので俺はそれを確認する為に魔法で爆煙を吹き飛ばした。するとびっくりした事にロボットのやつあの爆発を耐えきっていやがったよっ!

いや、機体のあちこちはボロボロになっていてもう動けそうもないけど取り合えず形は保っていた。

う~んっ、多分中の魔王は燃えちゃっているだろうけど一応確かめないと報告書が書けないからな。なので俺は冷却魔法で爆心地一体を急速冷凍した。

はい、だって未だ地面なんかてろてろに溶けて陽炎が立ち昇っているからね。あんなところに降りていったら忽ち大やけどだ。あっ、コスモクリーナーで放射性物質も除去しておかなきゃっ!


そんな事前準備を施してから10分後、俺は地上へと戻った。でもそこで俺は驚愕な情景を目にする。おーっ、なんと魔王のやつがロボットの中から這い出てきたよっ!

うわっ、こいつ生きていやがったっ!かーっ、お前の生命力はゴキブリ並みかっ!

そして地面に降りると魔王はひとりで反省会を始めてしまった。


「くっ、失敗した。これが最新兵器の威力か・・。抜かったわ、やはり取扱説明書はちゃんと読まねば駄目だな。」

ほうっ、魔王ったら中身は中学生の癖にちゃんと反省出来るんだな。こいつもしかしたら大したやつなのか?


さて、その後失敗のショックから立ち上がった魔王はやおら腰のポシェットからポーションを取り出すと一気に飲み干した。


「くーっ、まずいっ!だがもう一本いっとくか。」

そう言って魔王は新しいポーションを飲み干す。すると先ほどまで衰弱しきっていた魔王の体がみるみる内に元気になってしまった。

あらら、すごいなそのポーション。それだけ即効性があるとオリンピックで禁止されるのも頷けるよ。

そしてドーピングが完了した魔王は先ほどの失敗を無かったものとすべく俺に再戦を申し込んできた。


「さて、遊びは終わりだ。ここからは本気で行くぞっ!」

うんっ、便利だな。「俺はまだ本気出してなかったからっ!」ってフレーズは。なので俺は魔王に対して精神攻撃を仕掛けた。


「さっきは勝手に自滅した癖に・・。」

「ぐかーっ!うるさいっ!あれはちょっと油断しただけだっ!そもそもお前に負けた訳ではないっ!」


「説明書も読まずに自滅した癖に・・。」

「しつこいぞ、貴様っ!それでも勇者かっ!勇者なら正々堂々と戦わんかっ!」


「お前に言われてもな。まっ、お前と話なんかしていてもつまらんし決着をつけようぜっ!」

「ふんっ、返り討ちにしてくれるわっ!」


「あっ、あそこに5代目ハートキャッチピュアピュアのフィギュアが落ちてる。」

「えっ、どこ?」

俺は魔王が俺の嘘に目を反らしたのにタイミングを合わせて衝撃魔法をぶつけてやった。まっ、これは単なるジャブだ。ちょっとからかっただけである。


「ぐわーっ、不意打ちとは卑怯なりっ!」

「お前が言うなっ!ほれ、次々いくぞっ!」

そう言うと俺は拳を固めて一気に魔王の元に跳び渾身の一撃を腹にぶち込んでやった。


「ぐふっ!この野郎っ!腹を狙うとは貴様ドメスティックバイオレンスな糞ったれ亭主かっ!」

俺の一撃をなんとか持ちこたえた魔王は文句を言いつつ反撃の拳を俺の顔目掛けて放ってきた。それを俺は紙一重でかわす。そして有名な一言を呟いた。


「顔は止めてっ!私これでも女優なんだからっ!」

いや、俺は女優じゃないです。勇者です。でも一応元ネタがそうゆう台詞なので尊重しました。そしてこの台詞は結構効いたらしい。なんと魔王は顔を狙ってこなくなったよ。うんっ、言ってみるもんだなぁ。


だがそれでもドーピングにて肉体強化をした魔王のチカラは侮れなかった。致命的な一発は貰わないにしても連続した魔王からの攻撃に俺は防戦一方となったのだ。

なので俺は一旦魔王と距離を取る為に苦し紛れに衝撃魔法を放った。


「くそっ、このインチキ野郎がっ!実力で来いやっ!薬なんかに頼っていると廃人になるぞっ!衝撃魔法っ!」


ぽんっ!


軽い音と共に俺と魔王の間で衝撃魔法が発現する。俺はその圧力を利用して一気に後ろへ飛び退いた。


「くははははっ、なんだ今のは?もしかして緊張のあまり屁でもこいたのか?少年漫画ではないのだから徐々に上げていく必要は無いぞっ!それともお主の必殺技は死に際にしか発動できぬのかぁっ!」

「ぬかせ!雷撃魔法『君の瞳は10万ボルト』だぁ!」


「アース展開!馬鹿め、電流は流れやすい方に誘導できることを学校で習わなかったのか!」

「うるせー!ちょっとぐらい勉強してたからって自惚れるなよ!降雨魔法『土砂降り』来い!」


「うわっ、こら!よせ、痺れるではないか。わかった、不純物を含む水は電導体になることを知っていたのは褒めてやる。では次はこちらから行くぞ!氷結魔法『ケルビン温度3』範囲限定!」

魔王が叫ぶとともに俺の周りにあった水溜りが一瞬で凍りつく。それに対して俺は火焔魔法で対抗し凌いた。


「ぐわーっ!てめぇ、普通、水を凍らせるならマイナス1度で十分だろう!ケルビン3度だと?さらっと自慢するんじゃねぇ!」

「いや~、すまんな。俺も大人気ないことはしたくないんだが、俺の才能はふとした事で漏れ出てしまうでなぁ。許せ、心理攻撃『大人の時間』発動!」


『いや~ん、お兄さんたらすごすぎぃ~、私こんなにすごいの始めてよぉ。』


「ぐはっ、なっ、なんだ。体中の血流が下半身に集中してしまう!」

俺は魔王の中身が中学生と侮っていた。なのでまさかこんな高等なエロ攻撃を仕掛けてくるとは思ってもいなかったのだ。そんな攻撃に身をくねらせて耐える俺に魔王が勝ち誇ったように告げてくる。


「どうだ、勇者よ。これぞ今まで幾多の童貞勇者を葬ってきた俺の奥の手だっ!ふふふっ、この誘惑には逆らえまい、幸せな夢に溺れて天国へ昇天するがよい!」

「があ~っ、くっ、くそぉ~、このくらい・・、俺はこのくらいで負けるわけにはいかないんだぁー!フルパワー!『聖なる御神体』の力を受けてみろ!」

俺は密かにスジャータから渡された『聖なる御神体 (スジャータのパンツ)』を広げて前にかざす。すると聖なる御神体 (スジャータのパンツ)は後光を発し、その金色の光を浴びた魔王はあまりの神々しさに膝を付き敗北を悟ったらしい。


「くっ、所詮、バーチャルは幻影。リアルには敵わぬのか。」

スジャータ!ありがとうっ!君のパンツは最強だよっ!


かくして『聖なる御神体 (スジャータのパンツ)』の聖なる光を浴びた魔王の魂は浄化され天へと昇って行った。後には魔王の寄り代となっていたのであろう魔法陣が描かれた一枚のお札が破れた状態で残されていた。


「はぁはぁはぁ、やったぜっ!」

俺は魔王に勝利した事に心の底から歓喜した。よしっ、これでこの国の美女たちは俺のもんだっ!くくくっ、でもまずはスジャータから味わうぜっ!あーっ、早く王宮に戻って報告しなきゃっ!


だがその時、俺の明るい家族計画を邪魔するかのように新たな敵が俺の前に現れたのであった・・。

いや、その展開いらないからっ!俺は早く可愛いスジャータとイチャコラスローライフをしたいのっ!だからお前なんかを構っている暇はないっ!



■□■テンプレ展開。黒幕登場っ!■□■

しかし俺の願いは天には届かなかったようだった。いや、一応神様には届いたみたいだけどその神様は所謂『邪神』だったらしい。

なので魔王を浄化して一安心したのもつかの間。それまで晴れていた空が俄かにたち曇り日の光を遮りあたりを暗くする。それに併せるかのように強い風まで吹き始めた。

うんっ、さすがは邪神だ。演出に金掛けてるなぁ。多分次は稲光が光ってその光をバックに黒いシルエットで邪神が登場するよ。


ピカっ!ゴロゴロゴロ・・。


うんっ、適当に言ったのに当たってしまった・・。本当に邪神が現れたよ。そして定番の台詞を俺に投げかけてきやがった。


「勇者よ、魔王を倒したくらいで頭に乗るでない。あれなどはわしが従えている数多の魔王の中では最弱な者だ。そしてわしこそが世界を混沌と闇とに導く最強の存在。邪神ダークフレイムマスターとはわしの事だっ!その圧倒的なチカラにおののき恐れよっ!」

「わーっ、もう駄目だぁ、邪神様が降臨されてしまったぁ。この世はもう終わりだぁ。」

邪神の台詞に併せて俺もテンプレな台詞を口にする。まぁ棒読みだけどね。


で、なんで俺がそんなにやる気のない返答をしたかというと面倒臭かったから。だってこれって少年漫画辺りでは定番のインフレ展開じゃんっ!倒しても倒しても次が出てきて終わらないやつだよっ!

もうっ、俺は忙しいのっ!これからスジャータとイチャコラしなきゃならないんだからお前となんか遊んでる暇はないんだっ!


だが邪神はそんな俺の態度が気に喰わなかったらしい。やおら片手を俺に向けるといきなりビームを放ってきやがった。俺はぎりぎりで障壁を構築してそれに耐える。

うおっ、さすがは神レベルだなっ!念の為に三重に張っていた障壁がふたつまで吹き飛ばされたよっ!

あれ?これってふざけている場合じゃないんじゃないのか?なんかマジでヤバイ感じなんだけど。


その後俺は邪神からの攻撃を時に防ぎ、また時にはこちらからの攻撃によって対消滅させながらチャンスを伺った。しかし既に俺のカラータイマーばピコンピコンと点滅している。

うんっ、神相手に魔力量勝負して勝てる訳なかったよ・・。


まずいっ!これは非常にまずい状況だ。防戦一方の俺は応援を呼ぼうにもスマホすら取り出せない。糞っ!だからピンでは戦いたくなかったんだよっ!こうゆう時に身を持って俺を助けるのが脇役の役目だろうがっ!

まっ、もっともスマホを手にできたとしても邪神に対抗できる戦力としてはあの3級魔法使いしか当てがない。そして絶対にあの魔法使いは俺が死んでからしかやってこないだろう。だってその方が話が盛り上がるからなっ!本当にあいつは自分本位だよっ!


だがその時俺の前に予想外の応援が現われた。そう、その人物は褐色の肌も麗しい世界一可愛いスジャータであるっ!


いや、スジャータ。来てくれたのはすげー嬉しいけどこの状況では君って邪魔でしかないんだけど?俺は今、自身すら守るのが精一杯なのにその上君までは守りきれないよ。

いや、一応優先順位は君が上だけど出来れば王宮で待っていて欲しかったなぁ。そうすれば俺は一応尻尾を巻いて逃げられたのに・・。


だが当のスジャータは俺に守ってもらう気などさらさらなかったらしい。そして彼女は肩から吊るしたショルダーバッグに手を突っ込むと中からとあるアイテムを取り出してこう叫んだよ。


「いでよ竜王っ!私はここに7つの宝玉を持つ者なりっ!現われて私の願いを叶えよっ!」

いや、スジャータ。竜王って向こうの世界のキャラクターだからこっちの世界には出演してくれないんじゃないかなぁ。ほら、こうゆうのって縄張りがあるらしいじゃん。

というか俺がスジャータに預けた宝玉って5つだったはず。あれぇ、もしかして残りの2つはスジャータが探したの?またなんで?


まっ、色々と疑問はあるが結論から言うとなんと竜王が現れたよ。そうか、竜王も異世界市場の隆盛にのっかかりたかったんだな。うんっ、出張ご苦労様です。


さて、現在俺の前にはふたつの世界の神様級な存在が対峙している。こうなると当然大バトルが始まるんだが残念ながらそれを書くノートの余白がもうない。なのでざっくり過程と結論を説明すると、俺からの開始の号令を合図に双方相手へ突撃を開始した。

成る程、いきなりブレス戦はしないのか。実はこいつらってこの状況を楽しんでいるのか?なんだかなぁ。

そんな一進一退を繰り返すプロレスみたいな戦闘が数時間に渡り繰り広げられた。俺とスジャータは手を取り合いながら特等席でそれを鑑賞していたよ。


その後、邪神と竜王はこのままでは埒が明かないと思ったのか互いに最終奥義を繰り出しあった。その名も『邪神犬』と『来来軒』だっ!

うんっ、邪神って漢字が書けなかったんだな。後、竜王って絶対狙って名前をつけただろうっ!

だがネーミングセンスは駄目だめだったが奥義自体のエネルギー量は凄まじかった。そうだな、ラノベ的に表現するなら双方50万ポイントってとこかな。うんっ、日間はおろか年間ランキングでも一位になれるよ。

でも安心して欲しい、それらは本来大爆発して世界が崩壊するくらいのエネルギー量だったんだけど、邪神と竜王のエネルギーは正反対な性質だったらしく大した影響も残さずに双方きれいさっぱりと対消滅してしまったから。そうっ、つまり打ち消しあったんだ。

うんっ、良かった。大爆発なんてされたら俺たちまで巻き添えになっただろうからな。くくくっ、結局最後は『愛』が勝つのさっ!


かくして黒幕だった邪神はイマイチ出番がなかった竜王と共に消滅して今回の騒動はめでたし、めでたしとなった。なのでその後は俺はスジャータと結ばれて末永く幸せに暮らしましたとさ。



・・で終わるのが昔話のテンプレなんだが現実は厳しかった・・。うんっ、その事に関してはまた今度話してあげるよ。

それにしても邪神って台詞も大してなかったし出てくる必要あったのか?あれじゃまるで扱いが前座じゃないか。くーっ、かっこ悪りぃ~。



■□■くくくっ、ここからは俺のターンだっ!■□■

さて、結局おいしいところをスジャータに持っていかれて俺は少し拗ねた。だがそんな俺を今はスジャータの柔らかいおっぱいが慰めてくれている。

はい、ここまで説明すれば判るだろう。でへへへへっ!とうとう俺たちはラブラブになりましたっ!なのでここからは俺とスジャータのいや~ん、馬鹿~んな馬鹿っプル展開ですっ!


いや、確かに大きなくくりではそうなんだけど、そうなるにはそれはもう壮絶な試練が俺の前に立ち塞がりやがったよ。その試練とはっ!


えーと、まず俺は魔王と邪神を倒した功績によりインディア王国から爵位を授けて貰いました。つまり貴族となったのだっ!とはいっても准爵なんだけどね・・。

うんっ、准爵って貴族の位の中では最弱です。つまり一番下。

そしてスジャータって王族だから准爵くらいではお嫁に来て貰えないのよ。なので俺は何とかして男爵くらいまで爵位を上げなきゃならないの。


いや、俺の功績を鑑みればもっと上の爵位を賜ってもおかしくないんだけど、そこはほら、貴族たちにも色々立場があるんだって。

まっ、確かに如何に功績があろうともぽっと出の庶民がいきなり同列になったら上位貴族たちも面白くないだろう。それどころか下位貴族たちは絶対裏で影口をたたくね。きっと俺に対する誹謗中傷な怪文書が宮中に出回るはずだ。

なのでそんな無益な嫉妬を避ける為に国王は一番下の位を俺に授けたのだと思う。なのでこれはあくまで仮の爵位である。そして暫くして貴族たちが俺の事に関心を示さなくなった頃を見計らって徐々に昇進させる手はずは整っているのだ。これが所謂『根回し』というやつなのだよ。

だがその為にはそれなりの理由が必要なので俺もがんばらなければいけないのである。


それ以外にも俺はスジャータの旦那として相応しいだけの教養とマナーを身に着けなければならない。そしてこれが俺には下手な魔王戦より手強かったのだ・・。

うんっ、勉強は嫌いです。でもスジャータとのラブラブ新婚生活を実現する為にはがんばらねばっ!えっ、皿に残っているソースって直接舐めちゃ駄目なの?あっ、パンで擦り取るのはいいんだ。そうだよなぁ、このソースってすげー美味いもんなぁ。残したら勿体無いよ。

後、なんでテーブル上にこんなにフォークやスプーンが並んでいるんだ?もしかして見せびらかしてるの?俺はこんなに銀のスプーンを持っているんだぜっ!って自慢したかったのか?


まっ、こんな初歩的な事に疑問を持っているくらいだから俺は王宮の内務を取り仕切っている執事のセバスチャンに毎日のように駄目出しを喰らっている。なので一度だけ俺は耐え切れずに王宮を逃げ出した。でも三日と経たずに捕縛されて連れ戻されたよ・・。

くっ、さらば俺の青春よっ!自由と冒険に明け暮れた日々よっ!俺はもう汚れちまった。だからもうあの素晴らしい日々には戻れないんだ・・。


そんな俺の今の慰めは読書である。ただ王宮の蔵書って堅苦しい純文とか歴史系ノンフィクションばかりなんだよなぁ。ちっ、SFはないのか、SFはっ!俺はアルフィン教官のシャワーシーンを読みたいんだよっ!


そしてどうやらこの俺の思いは声に出ていたらしい。なのでそれを3級魔法使いに聞かれてしまった。しかし魔法使いはその事で俺をからかう事は無く、それどころか

「なんじゃ、そんな事か。ほれ、我が買ってきたから先に読むがよい。」

と言って俺が向こうの世界で読みかけていた雑文SF「衛星軌道戦士ダンガム~異世界からの侵略に対する地球の防衛は俺の手に掛かってるっ!~」の最終巻を貸してくれたのであるっ!


そうか、魔法使いよ、お前もSF読みだったのか・・。うんっ、特殊な読書嗜好を持つとはお互い肩身が狭いよなぁ。

まっ、別に魔法使いの事はいいや。わーい、アルフィン教官のシャワーシーンを堪能するぜっ!


かくして俺は『晴耕雨読』の如く貴族になる勉強の合間を縫ってはわくわくするSFを読んだのであった。因みに『晴耕雨読』とは、晴れた日は畑を耕し、雨の日は家にて本を読んで過ごすという意味である。つまりのんびりスローライフの四字熟語だっ!

おらっ、少しは勉強になっただろうっ!まっ、これが今度の試験に出るかは別の問題だけどなっ!


「タケルー、どこにいるのぉーっ。」

あっ、スジャータが呼んでいる。行かなくちゃっ!


俺は読もうとしていたSF本を放り出してスジャータの元へと走る。うんっ、だってSFもいいけどスジャータといる方が万倍楽しいからなっ!リアルにこそ本当の楽しさがあるのさっ!そして今日もベッドの上でイチャイチャだっ!


-お後がよろしいようで。-



■□■衛星軌道決戦っ!異世界からの侵略に対する地球の防衛は俺の手に掛かってるっ!最終巻■□■

さて、俺がアルフィン教官に戦場における様々なノウハウを叩き込まれてから早2年。俺も一端のパワードスーツ乗りとして地球の衛星軌道にて異世界からやって来る魔物の迎撃任務に従事している。


うんっ、本来俺って陸軍なんだけど1年前に異世界側から大攻勢を受けた際に宇宙軍のパワードスーツ乗り共が壊滅状態に陥ったのでその穴を埋めるべく急遽大勢の陸軍パワードスーツ乗りが宇宙軍へ出向となったのだ。

全く宇宙軍の兵隊たちは根性がないぜっ!俺たち陸軍のパワードスーツより何倍も金の掛かったパワードスーツに乗りながらこの体たらくだからな。


因みに今の俺の階級は少尉だ。まっ、これは別に俺が戦功を挙げたから昇級した訳じゃない。宇宙軍ではパワードスーツ乗りは尉官以上という規約があるから便宜上暫定的に与えられただけだ。なので陸軍に戻ったらまた元の軍曹になる。

うんっ、実は俺もこの2年で上等兵から軍曹になりました。つまり下士官です。でも今は仮とは言え尉官だからなっ!廊下ですれ違ったらちゃんと敬礼しろよっ!もっともパワードスーツ乗りである俺が基地内にいる事は滅多にないんだけどね。


なので俺は今も衛星軌道上でパワードスーツに乗り込み待機状態です。因みに今俺が乗っているパワードスーツは宇宙軍に最近正式採用された衛星軌道特化型重バトルスーツ『UC00ユニコーン・ダンガム』だ。うんっ、『ダンガム』だからなっ!間違うなよっ!

とは言ってもその実態は旧式ダンガムの機能拡張版でしかない。なのでユニコーン・ダンガムは衛星軌道兵器なのに相変わらず『脚』があるよ・・。いやはや、設計者のこだわりもここまで徹底していると逆に清々しいな。

でも陸軍のパワードスーツと違いユニコーン・ダンガムは軽量化の為、脚部の強度は殆どないから魔物を思いっきり蹴っ飛ばしたりしたらもげるらしい。うんっ、益々何の為に脚が付いているんだか判らんな。


そんな『UC00ユニコーン・ダンガム』の主兵装は『対ドラゴン用250mm電磁誘引重加速砲ゲバルトMkⅡ』である。まっ、簡単に言うとレールガンだ。

ただこれはドラゴンなどの大型魔物用なので雑魚魔物用にAK88ビームライフルも装備している。但しこれらはどちらもパワードスーツの腕を使って射撃するので同時には使えない。うんっ、ますます宇宙軍の兵器運用ドクトリンが判らんよな。

しかもゲバルトMkⅡって250mm実体弾を発射するんだけど、なんと自動で再装填出来ないんだよっ!一々砲尾に付いているボルトを操作して砲弾を再装てんしなくちゃならないんだっ!

マジ宇宙軍の兵器開発部はアホなのかっ!パワードスーツに脚なんか付けてないで自動再装填装置を開発せんかいっ!

更にゲバルトMkⅡってでか過ぎっ!しかも糞重いっ!ユニコーン・ダンガムの全長が30mくらいなのにゲバルトMkⅡは40mもあるんだっ!もっともその内30mくらいは電磁誘引のガイド部なんだけどね。

そして自重はぶっ飛びの30トンであるっ!砲弾自体も一発500Kgだっ!

もうっ、はっきり言っちゃうとこんなの機動力を是とするパワードスーツ用の兵器じゃねぇよっ!戦闘艦にでも積んでおけっ!


しかもこのゲバルトMkⅡって重いから少しでも身を軽くする為に自前で身に付けておく予備の砲弾は5発だけだ。なのでもしも砲弾を撃ち尽くした場合は後ろに控えている専属の弾薬補充兵から補給を受けなきゃならない。そしてこれがまた面倒なんだよね。

だってこっちはドラゴンのブレスを避けながら戦っているから一箇所に留まったりしない。もう常に動き回るんだ。弾薬補充兵は基本新兵なので俺たちのそんな動きについて来れないから距離を取って控えている。なので呼んでも直ぐには来られないのだ。

うんっ、ここら辺が実際の実戦とアニメとの違いだよな。いいなぁアニメって。弾薬を撃ち尽くす事を心配しなくていいんだから。

そもそもアニメの宇宙空間での格闘戦ってどんだけ優秀なセンサーと瞬発力のある推進機を持っているんだ?俺なんか弾薬補充兵と会合する為に1分は等速直線運動を強いられるのに。それくらい無重力空間でのランデブーってのは難しいんだぞ?そもそもゲバルトMkⅡは重過ぎだっ!


だけどそうは言っても軍にも事情があるのだ。そう、なんとそれまでパワードスーツの主力兵装であった88mm砲弾ではドラゴンの装甲を撃ち抜けなかったのであるっ!命中してもぱんーんっ!と弾き返されちゃったんだっ!

さすがはドラゴンっ!想像上の規格外生物だぜっ!


もっともだからと言っていきなり250mm化はないよな。ぎりぎり150mmくらいがパワードスーツで運用できる上限だよ。はははっ、人間って恐慌に襲われると加減が判らなくなっちゃうんだなぁ。

とは言え250mm砲弾の威力は絶大だった。もう一発当たればドラゴンですら大爆発である。まっ、当たればね・・、うんっ、これが結構難しいの・・。まっ、そこら辺の事は長くなるから説明しないけどさ。


そして俺の現在の撃破スコアはドラゴンが3でワイバーンが6、後はグリフォンやケルベロスなんかも数多く撃破したけど、多過ぎて今では数えるのを止めてしまった。ゴブリンに至っては弾薬が勿体無いのでスルーだよ。

うんっ、後方のやつらにも獲物は残しておいてやらないとあいつらすぐ怠けるからな。と言うか生身のゴブリンって耐熱装備を持っていないのか大気圏に突入すると圧縮熱でこんがり燃えちゃうのよ。わざわざ流れ星になりに来るなんてあいつらマジでなにしにやって来ているんだ?意味が判らん。


因みにドラゴンを5体撃破すると軍からエースの称号が与えられる。なので俺は後ふたつだ。残念ながらワイバーンは対象外なのである。

そして今、レーダーによる解析の結果、俺の遥か前方には100体のドラゴンが迫っているらしい。くーっ、止めて欲しいぜ・・、普通勇者だって100体のドラゴンは相手にできないんじゃないかな。


もっとも迎え撃つこちら側も別に俺しかいない訳じゃない。俺が所属する部隊が担当する宙域だけでも24機のユニコーン・ダンガムがいるのだ。つまり数的には4対1くらいだ。

いや、実際にはやって来るのはドラゴンだけじゃないから数的にはもっと不利なんだけど雑魚どもは雑魚専門の部隊が別にいるので俺たちはドラゴンだけに集中するのである。つまり戦艦の相手は戦艦という事だ。

でも4対1か・・。はははっ、かなり分が悪いな。でも俺は割と楽観している。何故かって?そりゃ隣に心強い仲間がいるからさっ!そしてその仲間とはっ!


じゃじゃ~んっ!アルフィン・ピザン大尉であるっ!

そうっ、なんと今回の作戦にはアルフィン教官も参加しているのだっ!因みにアルフィン教官の大尉という階級も宇宙軍出向による暫定的な階級だ。なので陸軍に戻ったらまた元の曹長になる。

そう、アルフィン教官はあくまで教育部隊に留まる限り階級は曹長なのである。なんでかというとそうゆう決まりだから。でもアルフィン教官は教育部隊を離れ陸軍の実戦部隊へ戻れば俺と違ってその階級は大尉さまだっ!

いや、上層部としてはアルフィン教官には佐官を与えて連隊辺りを任せたいらしいんだけど彼女が辞退しているらしい。まっ、そこら辺は彼女にも色々あるんだろう。女の子の過去をあれこれ勘ぐってはいけないのだよ。


「ジョージ少尉、通話回路をオープンにしたままで何をぶつぶついっているんだ?」

「あっ、すんません。久しぶりに教官殿とご一緒になったもんですからみんなに教官殿の可愛らしさを自慢してました。」


「アホ、浮かれていると初撃であの世行きだぞ。貴様が死ぬのは別に構わないがユニコーン・ダンガムはまだ数がないんだから壊すなっ!」

「くぅ~ん、そこはもっと労わって下さいよぉ。」


「ほうっ、例えば?」

「この戦いに生き残ったら一発やらせてくれるとか。」


どか~んっ!


俺の軽口に対してアルフィン教官はAK88ビームライフルをぶっ放してきた。ぐはっ、危ねぇっ!一応出力は抑えてあったみたいだけど右足に直撃したぜっ!

ちょっとちょっとっ!いくら隣同士と言ってもここは宇宙空間なんだぞ?なので俺たちの距離は500kmは離れているはずなのにピンポイントかよっ!すげーなっ!


「馬鹿な事を言ってないで準備をしろ。そろそろ来るぞっ!」

「うっす、了解です。」

さて、アルフィン教官からきついお灸も貰った事だし真面目にやるかっ!


で、その後の魔物たちとの戦闘はそれはもう壮絶なものだった。俺は装備している砲弾を撃ち尽くし何度も弾薬補充兵を呼びつける。


「ララ准尉っ!20秒後にポイント7-6-2で会合するっ!相対速度を見間違うなよっ!」

「ポイント7-6-2、了解ですっ!」

因みに俺の担当弾薬補充兵は女の子だ。しかも2ケ月前にパワードスーツの操作過程を卒業したばかりのルーキーである。なので当然今回の実戦が初陣である。

うんっ、いきなりこんな大会戦が初陣とはララも運がないよな。でも彼女もがんばっている。必至になって俺の無茶な指示に付いて来ているからな。本来なら褒めてやるべきだが残念ながら今は戦闘の最中だ。なので俺の口からは罵倒しか出て来なかったよ。


「違うっ!ベクトルがずれているっ!もっと寄れっ!」

「はい、申し訳ありませんっ!」


「謝っている暇があったら集中しろっ!」

「了解ですっ!」


「ぼけっとするなっ!砲弾を渡し終えたら直ぐに離脱だっ!馬鹿野郎っ!直線的に退くんじゃないっ!ブレスの直撃を受けたいのかっ!」

「すいませんっ!」

うんっ、かなりキツイ言い方をしてるがこれも生き残る為だ。それくらい戦場ってやつは過酷なんだよ。


だが彼女はよくやっている。この分なら多分生き残れるかも知れない。しかし次の瞬間、戦場のワルキューレは彼女に微笑みやがった。

いや、実際に死神の大鎌を首元に突きつけられたのは俺の方だったんだがなんと彼女が身代わりになったんだ。


その時、俺とララは最後の弾薬補給中だった。そしてここで俺は油断した。この時、俺のユニコーン・ダンガムの動力炉は度重なる加減速により調子を崩していた。なのでランデブーのタイミングが中々合わない。

だがこの補給が最後で撃ち尽くせば後方に下がれるという思いが俺を急かしたのだろう。俺は動力をアイドリングにまで落として数秒間等速運動をしてしまったのだ。

そしてそこをドラゴンのブレスに狙われた。


「危ないっ!少尉っ!」

なんとドラゴンのブレスを察知したララ准尉のパワードスーツが身を呈して俺のユニコーン・ダンガムの盾となった。


「ララっ!」

動力炉への直撃こそ免れたが、ララ准尉のパワードスーツは上部がきれいに吹き飛んだ。当然そこにはララ准尉がいたコックピットも含まれている。


「ララっ!」

呼んでも無駄な事は判っていたが俺は叫ばずにはいられなかった。しかも無常にもララ准尉のパワードスーツはブレスを受けた反動で俺の元から遠ざかってゆく。

その残骸と化したパワードスーツを見て俺はぶち切れた。なので俺たちにブレスを吐き出してきたドラゴン目掛けて最大戦速で突進する。

とは言っても糞重いゲバルトMkⅡを抱えていてはユニコーン・ダンガムは思うように加速しない。かと言ってゲバルトMkⅡでなければドラゴンは倒せない。なので俺はゲバルトMkⅡを捨てる訳にはいかなかった。

代わりに俺はドラゴンには効果がないビームライフルを捨てた。とは言ってもゲバルトMkⅡに比べたらビームライフルの質量なんてたかが知れている。

しかしそれでもこの時の俺は少しでも軽くしてドラゴンに肉薄したかったのだ。


だがこの時俺のユニコーン・ダンガムは動力炉が限界に達していた。なので忽ちエンジン関係のアラートが鳴り響く。けれども俺はそれを無視してドラゴンに向かって突き進んだ。

そして俺が向かった先には3体のドラゴンがいた。残念ながら俺はララからの弾薬補給に失敗している。なので手元にある砲弾は一発だけだ。

3体のドラゴンに対して250mm砲弾は一発だけ。冷静に考えればどうやっても勝てない。だが頭に血が上っている俺はそんな事などお構い無しだ。いざとなったら肉薄して動力炉を暴走させドラゴンを道連れに自爆してやるとさえ思っていた。


だがまずは1体を片付けるっ!俺はドラゴンのブレスをぎりぎりでかわしながらゲバルトMkⅡを構えて300kmの近距離から最後の一発を撃った。この距離なら絶対外さない。仮に外れても近接信管が作動して少なくない被害を与えられるはずである。そして実際に砲弾は近距離にて爆発しドラゴンに無数の破片を喰い込ませた。


「よしっ!残りは2体っ!お前らは道連れだっ!」

俺は無用の長物となったゲバルトMkⅡを捨て去るとドラゴンに向かって突撃した。そんな俺に向かってドラゴンたちは大口を空けて迎撃態勢に入っていた。


「ちっ、この距離ではかわせないか?だがそんなの関係ないんだよっ!死ねやっ、糞ドラゴン共っ!」

この時、俺の願いが天に通じたのかいきなり俺の目の前で1体のドラゴンが爆散した。


「へっ?なんで?」

俺が突然の出来事に呆けていると残りの1体にも何かがぶつかり次の瞬間爆発してドラゴンは沈黙した。


「あれって・・、もしかして。」

そう、多分あれは250mm弾が直撃したのだ。それも1分と間をおかずに2発も。こんな芸当ができるのは・・。


「仲間を失って我を忘れるとは貴様もまだまだだな。陸軍に戻ったら鍛え直してやるから覚悟しておけ。」

「アルフィン教官っ!」

俺は250mm砲弾を撃ち込んできたやつの正体を知り愕然とする。だって今教官と俺の相対距離って戦線が広がった結果1千kmは離れているんだよ?しかもあのやたらと再装填に手間が掛かるゲバルトMkⅡを1分かからずに連射するなんて普通は出来ねぇよっ!

いや・・、アルフィン教官なら有り得るか。だってあの人普通じゃないからな・・。ぐわーっ、折角生き残ったけど嬉しくねぇっ!鍛え直すって何をされるんだぁーっ!もしかして俺、このまま死んだ方がマシなんじゃないのか?


その後、各部隊の奮戦もあって来襲した魔物たちは全て撃退した。もっともこちら側の被害も甚大だったが取り敢えず人類は勝利したといえよう。

しかし、人類と魔物たちとの戦いはまだ続く。多分この戦いは人類側が異世界へ侵攻し魔王を倒すまで続くはずだ。もしくは魔王自らが地球に降り立つかも知れない。

うんっ、もう西暦1999年はとっくに過ぎているのになぁ。と言うか今は宇宙世紀なんだけど?恐怖の大王の時間感覚ってかなりアバウト過ぎないか?


でも目下俺の一番の関心事はアルフィン教官から与えられるであろう恐怖のシゴキである。でも多分それを乗り切ればご褒美を貰えるはずだからがんばるしかないっ!

はい、アルフィン教官っ!シゴキが終わったらまたふたりでシャワーを浴びましょうねっ!その際はアルフィン教官の体の隅々まで洗わせて頂きますっ!だからがんばるぜっ!



雑文SF「衛星軌道戦士ダンガム~異世界からの侵略に対する地球の防衛は俺の手に掛かってるっ!~」-第1章 完-

次回からは雑文SF「衛星軌道戦士ダンガム~ウタは最強っ!世界を救うっ!~」が始まりますっ!


いや、嘘だから・・。始まる訳ないじゃんっ!



-お後がよろしいようで。-


後書き

ジャンルを『詩』にしたのは冗談なので真に受けないでねっ!

でも一応保険として最後にふたつみっつ詠んでおこう。


魔法使い

魔法の無い世で

やんちゃする

だけどちゃんと

ツケは払えよ?


お姫様っ!

ああ、お姫様

お姫様っ!

なんであなたは

お姫様なの?


一人称

主人公が

喋り過ぎっ!

お前の独白

ウザ過ぎるっ!


中学生

こんなの読むなら

勉強せいっ!

そして目指すは

大金持ちだっ!


-お後がよろしいようで。-

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