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第5話 ギルド登録を、二人で…ですか?

「では、アルルさん、オクタージュさん。ギルド登録完了しました。最初は無理しないで、等級にあった依頼をお願いしますね、オホホ」

 あらら、わたしたち、そんなに無謀な事をしそうって顔していたかしら。


(アルル…場慣れし過ぎてますよ。初心者はもっとオロオロしていますよ。あの娘みたいに)

 念話で語りかけるオクタージュが投げた視線の先には、確かに落ち着かない神官らしき女性冒険者がいる。小さく溜息をつくと、オクタージュの肩を引き寄せた。

(はいはい、悪かったわね。わたしはね…ついこの前まで銀等級の冒険者だったのよ。それにね…あのギルドの女性、あなたも十分に怪しいと思っているわ)


 ここは王都最大の冒険者ギルド。海千山千の冒険者たちが揃っている。そこは大陸屈指の優秀な冒険者が数多くいる、同時に大陸一、奇抜で怪しげなスキルの持ち主も集っている。

 異能な能力者、特殊な性癖持ち、フェチやマニア、コレクター、明かな変態もいる。踊り子や吟遊詩人、錬金術師、薬師、道化師、占い師、お尋ね者や暗殺狂まで職種に陰陽を問わず、ここでは地方ギルドでは見られない職種ジョブや技能・特殊能力クラスにあふれている。

 種族も多彩で人族はもちろん、エルフ族、ドワーフ族、ホビット、ノーム、ゴブリン、精霊族、獣族、半人半獣族、魔族、魔物族、巨人族ほか、三つ目族や特殊な身体特徴をもつ種族、植物系、物質系(この辺は生死の判断がないような)種族までが冒険者として生活している。

 当然、会話の手段も、オクタージュのように念話を使うのはもちろん、視覚や嗅覚で情報を伝達する種族もいて、コミュニケーションがとれない相手もいる。


「いろいろな冒険者がいるから王都ギルドは面白いんだけど、相手が多様過ぎて、よく分からなくなることがあるわ」

 飲んでも酔わない水みたいなエールを口にしながら、久しぶりの(実際には1週間も経っていないのに、1か月以上に感じているだけ…)ギルドの雰囲気を懐かしんだ。

(1500年前には、こんな多彩なジョブ、種族はなかったわ…)

 わたしの前には、わたしとまったく同じ顔の女性が一人、周りの冒険者を楽しそうに見回している。

 その姿を呆れた思いでみつめる。

「あなたね…自分は録画だとか、意識はすでに消えたとか、言ってませんでした?」

(そんなこと…言ったかしら?)

「あのねぇ…」

 果たして彼女をどこまで信じていいのかしら。


 【ダークネス・ミラー】という魔術で、彼女は自分を実体化させていた。どうやら自分の分身を召喚する魔術らしいが、彼女のボディ特性「限界無効」の効果で、召喚時間に制限がないというぶっ壊れた性能をもっている。

 すでに数時間は実体化しているのに、彼女は平然としていて、消える気配がまったくない。魔力で分身体を維持しているはずなのに、ボディにその消耗感もない。おそらく…どこか他に魔力の源があるはずだが…。一体、どういう仕組みになってるのかまったく分からない。



 当然のように彼女は、オクタージュという名でギルドに冒険者登録をした。二人は双子というよりも実像と虚像の関係にあり、容姿はもちろん、服装の小さなほころびまで一致している。ギルドの受付嬢も混乱し、思わず二人の間に手を入れて、鏡がないかと確認するほどだった。



 オクタージュはしばらく周囲を楽しんでいたが、ふと(あの神官さん、誰かに誘われているようですね。あまり雰囲気のいい連中ではありませんね)とつぶやいた。

 彼女の言葉に誘われように目を上げると、確かに怪しげな人たちに囲まれていた。

「あれは…遠慮したい連中だわね」

 でも冒険者なら、ああいう連中に対応することも必要だわ…と説明する傍から、彼女は立ち上がり、かわいそうな神官に向かって歩き出していた。


(わたしの仲間に何かご用でしょうか?)

 神官に声をかけていた連中は突然、予想外の女性の登場に驚いた。あらら…意外とお節介な性格なのかしら…。

「仲間? 嘘だろう?」

 声をかけた男はすごんだ。おそらく、彼はわたしたちが先ほど初心者登録したことを知っている。あの手の連中は、初心者チェックを欠かさないからだ。


 彼らは初心者に声をかけては冒険へと誘い、装備や金品を奪い、わずかな経験値やスキルを盗む。そんなけち臭いコソ泥くそ野郎ならいい。中には、呪術をかけて奴隷化(カースト化)し、人身売買する厄介な奴もいる。後者タイプだと面倒だけど…、オクタージュは知っているのかしら?


「…仲間なら、ちょうどいいじゃないか」

 仲間の一人であろう図体のでかい男が現れると、威嚇するようにオクタージュを睨みつけた。しかし、彼女は一瞥もくれず意に介さない。その態度に腹を立て、唸りながら力ずくで彼女の肩をつかんだ…ように見えた。しかし、男は彼女から数歩離れたところで無様な格好で転んでいた…。


 その姿を見たギルドの冒険者たちはクスクスと笑ったが、男は自分がなぜ転んだかが分からない。しばらく呆然としたが、顔を真っ赤にするとオクタージュに向かって飛びかかろうとした。その刹那、同じように彼女の数歩手前の位置で転んでいた。


 今度は誰も笑わなかった。

 周囲もその異様さに気がついたのだ。オクタージュに男が触れようとしても触れることができず、数歩離され転ばされるのだ。


「おまえ…何をした」

 男は床に手を付いたまま血の気が引いている。

(わたしに触るな!)

 彼女のその言葉はギルド中の冒険者の頭に響き、同時に建物が雷の直撃を受けたかように震えた。気がつくと頑丈なギルドの床が凹み、男はのめり込むように沈んでいた。


 ギルド全体が息を呑んだように静まりかえった。


「ば、ばかねぇ。アハハ、こんな転び方してぇ」

 慌てて飛び出して気を失っている(全身骨折かなぁ)男を掘り起こそうとしたが、自分が回復系どころか何の呪文もできないことに気がついた。すると目の前に、茫然自失している渦中の神官がいた…。

「あのぉ…回復魔法をお願いできないかしら?」

 苦笑しながら手を合わせた。



「オクタージュ! いきなりあれは何!」

(だって、突然に触ろうとしたから…)

 凍りついたギルドを逃げるように飛び出すと、広場の椅子に彼女を座らせた。次にどんな顔をしてギルドに入ればいいの? と彼女をたしなめるわたしと、ふてくされた顔で横を向き反論する彼女。そんな二人の姿を、しばらく呆気に取られて眺めていた神官がクスリと笑った。

「お二人は、見た目はそっくりなのに、性格はまったく違うのですね」

(その通りです)「当然よ!」

 お、かぶった。とにかく、こんなダークサイドと一緒にしないでほしいわ。


「申し遅れました。わたしはレダ・カーティスと申します。先ほどはありがとうございました」

 と深々と頭を下げた。

「わたし…王都にある正教会で神官として学んできました。冒険者になろうと思いギルドまで来たのですが、やはり、わたしは不向きですね」

 彼女が悲しそうに笑った。それは今日は風に揺れていても、明日には炉にくべられる野の花のように儚く、可憐にわたしの心を揺らした。

 こんな娘もいるのね…思わず頬がゆるむ。しかし、オクタージュの表情は真剣だった。

(あなた…正教会の神官なのですね?)

 彼女の鋭いまなざしに、少し怯えるように「ええ、そうです」とレダは首を縦にふった。


(わたしを正教会の書庫に連れていってくれませんか?)

 書庫? そんなところへ入って、何を調べるの?

(教会の書庫には過去に死亡ロストした者の名前がすべて記録されている場所があります)

 名前…そうか、わたしや仲間たちの名前があるのか、そこに行けばわかるのね。


「レダ、わたしたちとパーティ組もう!」

 彼女の両手を力強く握ると、レダは驚いたように瞳を開くと泣きそうになった。

「わたしなんかで、いいのですか? 教会でもいつも失敗ばかりして…きっと皆さんの足手まといになります」

 そんなことない…そんなことないよ。あなたはさっき彼女の暴走を助けてくれたんだもの。

(暴走…のつもりはなかったのですが)

 だよね…。あなたはもう少し加減を知りましょうね。でないと、今後、片っ端から重傷者を量産しそうだからね。


「そうなったら…」

 レダが今度はわたしたちの手を握って

「わたしが片っ端から治癒します。でも、わたしの魔力は限りがありますから、そこは許してくださいね」と言って笑った。

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