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第51話 ノースレイル王国の王都

「すんなり入れたな……」


「チェックも厳重じゃなかったよね」


 陽介と結城詩織が信じられないといった様子で門を振り返った。

 瑞希も二人に続いて振り返る。


「入国するときもザルだったけど、まさか勇者が逃げ出した後の王都なのにこんなに簡単に入れるなって予想もしてなかったわ」


 ハインズ市から空間魔法を使ってノースレイル王国の国境付近へ転移し、国境は通常通りに越えいる。

 続く、国境から王都までも、主要都市間は全て空間魔法による転移で移動している。


 しかし、主要都市の入出チェックだけは国境で発行してもらった通行手形を提示して通常通りの手続きを行っていた。


「もしかして、追跡の心配なんてすることなかったかもね」


 胸をなで下ろす結城詩織に銀髪ツインテールの少女が身体をくねらせながら言う。


「なに言ってんのよ。それだけあたしたちが上手く変装できているって証拠でしょう♪」


「いやー! 普通にしゃべってー」


 結城詩織が耳と目を塞いで首を振ると、陽介と瑞希の罵倒が飛ぶ。


「松平! 気持ち悪いから身体をくねらせるな!」


「ちょっと、女の子みたいな言葉を使わないでよ。気持ち悪いでしょ!」


「酷いわ! あたしが一所懸命に演技しているのに、あんまりよ!」


 見た目可憐な少女が銀髪ツインテールを振り乱して泣き崩れた。


「だから、それを止めなさい!」


「お願いだから普通に話してよ」


 泣き崩れる少女に抗議する瑞希と結城詩織に向かって少女に変化した松平達樹が言う。


「女の子同士、仲良くしましょう♪」


「ぶっ殺す!」


「陽介ー」


 拳を握りしめる瑞希と陽介に抱きつく結城詩織。

 そんな彼女たちに伊織が深いため息を吐いて諭すように言う。


「なあ、お前ら。そんなに正体をバラしたいのか?」


「そ、そんな訳ないじゃない」


「そうよ、あたしは住民に混じって密かに情報を集めたいだけよ」


 結城詩織と瑞希が慌てて否定する彼女たちに伊織が呆れたように言う。


「だいたい、揃いもそろってイケメンに美少女とか、とても秘密裏に行動しようとしているとは思えないんだよ」


 もっともである。

 門からここまで約五百メートル。


 たったこれだけの距離だが、道行く男たちの視線は、必ずと言っていいほどに三人の美少女の誰かしらに止まった。

 それは三人の少女――、結城詩織と瑞希、美少女に変化した松平達樹も承知している。


「あー……、その、すまん」


 真っ先に謝ったのは陽介。

 そこに結城詩織、瑞希が続く。


「ごめんなさい」


「反省しています」


「見られるって、か・い・か・ん」


 最後に松平達樹が恍惚とした表情で言った。


「バレたくなかったらツインテのことは諦めろ」


 まなじりを釣り上げた瑞希が口を開く直前に伊織が止める。


「わ、分かったわ」


「そうする」


 銀髪ツインテールから視線を逸らした瑞希と結城詩織が悔しそうに承諾した。


「それで、次はどうする?」


 陽介の質問に伊織が答える。


「商業ギルドに挨拶に行く必要があるが、その前に冒険者ギルドを覗いていこう」


「冒険者ギルド? なんでまた」


「勇者が逃げ出したことで、冒険者たちがどんな反応をしているのか知りたい。それが終わったら商業ギルドに向かいながら露店で情報を集めよう」


 ハインズ市からここまで空間魔法で転移を繰り返してきたが、途中の都市には立ち寄っていた。

 当然そこでの情報収集は行っている。


 ここまでに集めた情報では、異世界から召喚した勇者が敵国の手によって集団拉致されたということになっていた。

 国庫と宝物庫が空になったことは伏せられている。


 最も知りたいのは、王家と神殿との関係、敵対する貴族や派閥がどこかだった。


「国庫と宝物庫が空になったことが伏せられているなら、それをリークするのも面白そうだと思わないか?」


 陽介が口元を綻ばせると瑞希も笑みを浮かべる。


「そんなことが知られたら王家は困るでしょうね」


「バレないようにリークする方法を考えようぜ」


「賛成よ」


「あたしもそれに賛成♪」


 銀髪ツインテールも会話に加わると、間髪を容れずに瑞希が言う。


「普通に話してね、松平君」


「えー? 普通よ♪」


 キャピッ、という効果音でも聞こえそうなほどの笑顔を返した。


「それが普通の分けないでしょう!」


 揺れる馬車の中で腰を浮かせかた瑞希がよろけて小さな悲鳴をあげて、銀髪ツインテールの股間へと顔から倒れ込んだ。


「フガッ」


「いやん! 瑞希ちゃんったらだいたんー!」


 この状況で演技を忘れない松平達樹に伊織だけでなく陽介と結城詩織も感心する。

 しかし、ただ一人、瑞希だけは違った。


「な、ななな」


 慌てて起き上がり、赤面しながら抗議の声を上げるが言葉にならない。

 そこへ銀髪ツインテールが追い打ちをかける。


「やべ、股間が反応しちゃった」


「女がそんなことを言うかー!」


 瑞希の平手打ちを伊織が片手で掴んで言う。


「頼むから静かにしてくれ」


「あたし? あたしなの?」


 普段冷静な瑞希が取り乱して周囲を見回すと、陽介と結城詩織、銀髪ツインテールが無言で首肯した。

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