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第50話 ノースレイル王国へ

 伊織とアルマは商人を装ってノースレイル王国を訪れようとしていた。

 同行者は陽介、結城詩織、高山瑞希、松平達樹の四人で、何れも変化の指輪で姿を変えている。


 馬車一台に商会長の伊織に秘書のアルマ、冒険者の護衛が四人という設定である。

 もちろん、設定だけだ。


 アルマが馬車を操り、護衛のはずの四人は伊織と一緒に馬車のなかにいた。

 伊織の正面に座った瑞希が身分証を見ながら言う。


「変化の指輪だけじゃなく、この世界の偽造身分証まで用意するなんて……どんな人脈を持っているの?」


「俺自身は裏の世界の人間に知り合いはいない。俺の知り合いが偶々裏の世界の人間に顔が利いたというだけだ」


「それでも大したものよ」


「本当だよな。最上は俺たちとは違って凄いよ」


 松平達樹が話に入ってきた。


「どうしたんだよ急に? 褒めてもこれ以上何も出ないぞ」


「いやいや、偽造身分証も一人一枚じゃなく一人五枚も用意できるなんて尋常じゃないって」


 伊織は変化の指輪に登録した分だけの偽造身分証を用意し、既に四人にそれを渡していた。

 松平達樹は伊織から渡された偽造身分証を嬉しそうに見ながら言う。


「男と女、本当に両方分の性別の身分証を用意してくれたんだな」


 それを聞いた瑞希と結城詩織が、揃って松平達樹から距離をとるように座る位置をずらした。

 陽介はというと我関せずといった様子で外を見ている。


 伊織がその視線の先を追うと、ノースレイル王国の王都の防壁が見えた。

 あと一時間もすれば王都の門へ到着する距離である。


「そろそろ姿を変えよう」


 伊織の言葉に陽介が真っ先に反応する。


「そうだな、さっきから何組も徒歩の人たちを追い抜いているもんな」


「冒険者へ変化するのでいいんだよね?」


「あたしたちは護衛という設定だからね」


 結城詩織と瑞希も陽介に続いて身分証を確認しながら姿を変える。

 松平達樹だけは無言で姿を変えると鏡をのぞき込む。


「よーし! どこからどう見ても美少女! 最上、本当にありがとう!」


 北欧系の顔立ちで、銀髪ツインテールの十代半ばの少女へと変化した松平達樹が右の拳を高々と突き上げた。

 そんな彼に陽介が聞く。


「松平、その女の子のモデルってゲームキャラか?」


「召喚される直前までハマっていたギャルゲーのキャラだ」


 いわゆる十八才未満がプレイすることが禁じられたゲームに登場するキャラである。


「そうか……」


 陽介はそれ以上言うのを止めた。

 話が終わったところで松平達樹はまた鏡をのぞき込んで一人悦に入る。


 そして漏れる笑い声。

 そんな彼に伊織と陽介が言う。


「男としては高い声だけど、その外見でその声だと違和感しかないな」


「お前、出来るだけしゃべるなよ。バレたら俺たちまで迷惑するんだぞ」


「慣れだよ、慣れ。それに最初からこの声ならそう言うものだって思うさ」


 初対面の女性に対して「男みたいな声だな」なんて言うヤツはいないだろ? と伊織陽介の懸念などまったく意に介していない。

 

 最後に伊織が姿を変える。

 御者席のアルマは人目に触れることもあって既に平凡な村娘に変化していたので、これで全員の変化が終わったことになる。


 全員、西欧風の容貌を持った十代半ばの少年少女たちだ。


「松平、あんたはしゃべっちゃだめだからね」


「バレたら大変だもんね」


 瑞希と結城詩織の言葉に松平達樹が抗議の声を上げる。


「酷いな、しゃべらなかったらどうやって意思疎通をはかるんだよ。耳打ちでもしろってのか?」


「ちょっと! 気持ち悪いことを言わないでよ!」


「耳打ちなんてしたら蹴り上げるわよ!」


 結城詩織と瑞希の反応に松平達樹が伊織と陽介に助けを求める。


「あんまりじゃないか、あの反応は?」


「用があったら俺が聞くよ」


 陽介が平和的な解決策を即座に提案した。


「耳元でささやけばいいのか?」


「いや、普通に小声で話しかけてくれ。怪しまれたら、低い声を気にしている女の子ってことにしよう」


「おお! 低い声にコンプレックスのある美少女か! いいね、その設定」


 好きにしてくれ、と思う伊織をよそに陽介が念を押す。


「でも、必要以上に声をだすんじゃないぞ」


「分かったよ」


 四人の姿を改めて確認した伊織がため息交じりに言う。


「なあ、松平のことをあれこれ言ってるけど、お前らの姿もどこかで見たことがあるような気がするんだけど、気のせいか?」


 陽介が選んだのは洋画でなんども見たことがあるハンサムな俳優の若かりし頃の姿だ。

 結城詩織と瑞希が変化した姿も映画で見たことがあった。


 結城詩織と瑞希が互いに目配せをするなか、


「せっかくだからイケメンにしないとな」


 陽介が悪びれる様子もなく言った。

 すると、結城詩織と瑞希が取り繕うように続く。


「そうよねー。せっかくだから可愛くなりたいじゃない?」


「そうそう、女の子ってそう言うものよー」


 二人の乾いた笑いが馬車の中に響く。


「まあ、いいや。変化していない身分証は、陽介と瑞希はアイテムボックスにしまっておけ。詩織と松平はマジックバッグへ」


「お、おう」


「そうね、そうしましょう」


 陽介と瑞希が返事と同時に、身分証などをアイテムボックスに収納した。

 その傍らで結城詩織と松平達樹がマジックバッグを用意する。


 伊織はその様子を眺めながら、アイテムボックスの有用性を改めて認識していた。

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