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第40話 国庫と宝物庫

城内に侵入したのは伊織と陽介、大内、瑞希の四人。

 伊織が曲がり角から国庫へ続く廊下をのぞき込むと国庫の前には四人の兵士が見張りに立っていた。


「四人か……、さすがに警戒が厳重だな」


「まもなく見張りが交代する時間だ。一度交代すると二時間は誰も近寄らない」


 下調べをしたという大内の言葉に伊織が聞く。


「扉の見張りは二時間交代かもしれないが、見回りの兵士はどうなんだ?」


「見回りの兵士は定期的に回ってくる」


「どれくらいの間隔で何人が見回っているんだ?」


 出来れば見回りのルートも分かると助かる、と伊織が言った。

 しかし、返ってきたのは、


「昨日の今日だからな、そこまでは調べられなかった」


 という大内の言葉だった。

 国庫の資金と宝物庫の宝飾品を残らず持ち出そうという大胆な計画の割に立てた作戦はずさんなものだった。


「時間がなかったのは分かるけど、せめて見回りの兵士の数と巡回ルートくらいは押さえておけよ」


「兵士とかち合ったら魔法とスキルで何とかするつもりだった」


「ノウキンかよ……」


「失礼ね、闇魔法の睡眠で遠距離から眠らせてから縛り上げるという立派な作戦よ。これなら音だって最小限だからそうそう気付かれないでしょ」


 理知的な瑞希の口から飛び出したとは思えない穴だらけの作戦に伊織は軽い目眩を覚えた。


「突っ込みどころ満載なんだが……」


「どのあたりよ」


 胸を張る瑞希を陽介がなだめながら言う。


「抜けがあるのは俺たちも承知している。伊織が懸念しているように巡回の兵士が眠っていて戻ってこなかったら、他の兵士たちが異常事態だと思うかもしれないもんな」


「なるほど」


 感心する瑞希を見て、伊織は他の突っ込みどころを口にするのを止めた。


「瑞希、あの四人を眠らせてくれ」


「周りは大丈夫?」


 伊織の指示に瑞希が周囲を気にかけた。


「空間魔法で索敵をしているけど、近くに怪しい連中はいないよ」


「むしろ怪しいのは俺たちの方なんだけどな」


「陽介、蒸し返すなよ」


 大内が陽介をたしなめたところで、床に革鎧を着た兵士たちが崩れ落ちる音がした。

 続く瑞希の得意げな声。


「眠ったわ」


「上出来だ、国庫を空にするぞ」


 伊織が駆けだすと他の三人も無言で続いた。

 扉の前に来た伊織が言う。


「解呪と解錠をするぞ」


 予想していたとおり、魔法による封印と施錠がされていたのでそれを開けた。

 カチリと鍵の開く音が小さく響く。


「一発で解錠したのかよ……」


 驚く陽介に、


「国庫を空にするんだろ」


 国庫の中の金貨をアイテムボックスに収納するよううながした。


 ◇


 国庫を空にした四人は宝物庫へと来ていた。


「順調ね、怖いくらいだわ」


 と瑞希。


「最上のお陰だけどな」


「分かっているし、感謝しているわ」


 大内の言葉に、先ほど睡眠の魔法を失敗した瑞希がバツが悪そうな顔をする。

 ここまでに四回、兵士たちに睡眠の魔法をかけた。


 三回は連続で成功したが四回目で失敗する。

 まだ練度が低かったからか、ターゲットとなる兵士たちとの距離があったからなのかは伊織にも判断が付かなかったが、兵士たちは眠らずにこちらに気付いた。


 兵士たちに騒がれる前に眠らせたのが伊織である。


「最上君の使ったのって魔法じゃないわよね?」


「ああ、小型のホーミングミサイルだ。無音で破片も残らないから便利で多用しているよ」


「それって、あたしたちも使えるの?」


「残念ながら使えない。それと他のヤツらにはこのことは秘密だからな」


 伊織がこの四人を同行者として認めた理由の一つに口が堅いと言うのがあった。

 無条件に信用できるとは言いがたかったが、それでも他のクラスメートよりはマシだと思える。


「分かっているわ」


 瑞希に続いて大内と陽介が誓いの言葉を口にする。


「信用してくれ」


「秘密は守る」


「さあ、開いたぞ」


 国庫と同じように伊織が解呪と解錠を担当した。


「さて、と……」


 宝物庫のなかを見た陽介が絶句した。

 そこには体育館の五倍はあろうかという広さの空間が広がり、所狭しと宝飾品や美術品が並んでいる。


 大内と瑞希も宝物庫の広さと収納されている宝飾品の数に圧倒されていた。

 伊織も予想以上の量に息を飲んだ。


「これは……、攪乱のために周辺諸国にばらまくつもりだったけど、海に捨てた方が良いかもしれないな……」


「え、ええ、そうね……」


「捨てちまっても良いかもな」


 瑞希と大内が呆然とした様子でそう言った。

 呆然としている三人に伊織が聞く。


「凄い数だな……。お前たちのアイテムボックスの容量は大丈夫か?」


「え? ああ……。ちょっとこの量は無理かも知れないな」


 真っ先に答えたのは陽介。

 そこに大内と瑞希が続く。


「いや、無理だろこれは……」


「残念だけど、持てるだけ持って逃げ出しましょう」


「まあ、そうだろうな」


 伊織も宝物庫にある宝飾品の量を見た瞬間、普通の人のアイテムボックスには入りきらないだろうと予想した。

 しかし、自分の空間魔法庫パーソナルストレージなら入ることも直感的に分かる。


 伊織が言う。


「三人で入りきらない分は俺が運び出すから安心しろ」


「お前、どこまでも規格外なんだな」


 陽介が呆れたように言った。

 続く、大内と瑞希。


「半信半疑だったけど、異世界がパラレルワールドのように多数存在して、その異世界同士で交易をしていると言うのもいまなら信じられるよ」


「正直、異世界で生きるよりもそっちの方が何倍も楽しそう……」


「言っとくが、こっち側に加えることは出来ないからな」


 伊織の念押しに三人がうなずいた。

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