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第4話 ダンジョン創造

 草原を渡る緩やかな風がロッキングチェアに揺られるアルマの美しい銀髪を撫でる。


「ぽかぽかとしたお日様の下でのんびりとお茶をするのって幸せな気持ちになりますねー」


「椅子に揺られているのが何にもない草原というのもいいよな」


「牧歌的って言うんでしたっけー?」


「うん、何かそんなような感じだった思う」


 緊張感のかけらもない笑い声が風に乗って草原にたゆたう。


「さて、周囲の様子はどうなっているかなー」


 伊織が何もない空間から多機能ブレスレットの外部デバイスである、本型のコントロールデバイスを取りだす。


 多機能ブレスレットには様々な文明レベルの異世界に合わせて幾つもの外部デバイスが用意されていた。

 伊織が選んだのは羊皮紙の外見をしたコントロールデバイスである。


「わあ、すっかり使いこなしちゃってますね。さすが後継者様です」


 彼がたったいま行ったのは空間魔法庫パーソナルストレージに収納したアイテムを取り出すことだ。

 伊織のステータスを確認したアルマが真っ先に行ったのが、空間魔法庫パーソナルストレージの使い方を教えることだった。


 目的は重要アイテムの保全。

 多機能ブレスレットの異空間収納ストレージに納められていた重要アイテムを空間魔法庫パーソナルストレージに移すためである。


 多機能ブレスレットは故障の可能性があるし、盗難や紛失の恐れもある。

 しかし、個人の空間魔法に紐付いている空間魔法庫パーソナルストレージはそれらの恐れがなかった。


「これも可愛くて有能な秘書のお陰だよ」


「そういうことはあたしじゃなくて魔王様に言ってください。あ、魔王様にお話するときは「可愛くて」のところは抜いてくださいね」


「今度あったら言っておくよ」


 伊織はそう言いながら本型のコントロールデバイスを操作して周辺の地図を表示した。

 本に地図が表示され中央に二つの光点が表示される。


 さらに操作して監視衛星からのリアルタイム映像へと切り替えた。

 中央の光点を拡大すると馬車が映り、さらに拡大するとティーカップを片手にロッキングチェアーに揺られる二人の男女が鮮明に映し出された。


 伊織とアルマである。


「面白いな、これ」


「これならダンジョンでお昼寝をしながら世界中を観光できますね」


「上空からの映像しかないのが欠点だけどな」


 志乃からのプレゼントリストにあった人工衛星二十機。

 これらは既にこの惑星の衛星軌道上に配置されていた。


「せっかくですから草原を抜けた辺りを見ませんか?」


「眺めのいいところに別荘を作りたいな」


 監視衛星の本来の用途から外れた使い方をしながらひとしきり二人で盛り上がった。


「さて、今夜寝るところも必要だし、そろそろダンジョンを造るか」


「機能的なキッチンと広いお風呂も欲しいです」


「陽当たりのいいリビングも欲しいな」


「お庭で家庭菜園なんて素敵じゃないですか?」


 新居検討中の新婚夫婦のような会話をしながら、コントロールデバイスに『優しいダンジョン創造 ~初心者でもできる手引書~』を表示させた。

 二人は手引書に従って早速ダンジョンの創造に取りかかる。


「えーと……、ダンジョンコアに蓄積された魔力を使ってダンジョンの階層を作成する、とありますね」


「ダンジョンコア?」


 空間魔法庫パーソナルストレージからボーリングのボールほどの水晶球に似た球体を取りだした。

 透明な球体のなかに白い煙のようなものが渦巻いている。


「これがダンジョンコアなのか?」


「それです! あたし、研修で見ました」


「心強いぞ、アルマ」


「へへへー」


 照れるアルマをよそに伊織も手引書を読み進める。


「このなかにある魔力を消費してダンジョンのフロアをイメージする、とあるな」


 伊織はプレーしていたRPGゲームに登場する石造りのダンジョンをイメージした。

 次の瞬間、地面が小刻みに揺れだす。


「キャッ」


「なんだ?」


 驚いて飛びついたアルマを抱きしめる。

 図らずも二人で抱き合う形となった。


「じ、地震です!」


「もしかして、ダンジョンを作成中なのか……?」


 二人は地震が収まるまでの間、その場で抱き合ったまま辺りの様子をうかがう。

 地震は数分で収まった。


「終わったようですね」


「ああ……」


「どうしました?」


 抱きついたまま伊織の顔を見上げると、伊織が彼女の背後を凝視していた。


「入り口だ」


 アルマは伊織が見詰める先を振り返る。

 そこには伊織がイメージした通りの――、扉のない石造りの門が立っていた。


 そして、門の向こうには地下へと続く階段が伸びている。


「オペレーションエリアの設置や魔物の配置など、ダンジョンとしての機能が整うまでは誰も入ってこないよう、入り口をカモフラージュするように書いてあります」


 構築途中のダンジョンを発見され、冒険者たちに踏み込まれては堪ったものではない。


 それこそ配置途中の魔物や罠が危険に晒される。

 それを未然に防ぐ安全装置なのだ、と伊織は理解した。


「取り敢えずカモフラージュの確認をしよう」


 伊織はアルマを外に残して石造りの入り口を入ると、手引書に従って入り口をカモフラージュする。

 しかし、何の変化もなかった。


 入り口はそこに存在したままである。

 そのとき、


「消えました! 石造りの門ごと消えました。入り口がどこにあるのか分かりません!」


 本型デバイスからアルマの声が響いた。


「こっちからは何の変化もないけど、外からは見えなくなっいてるってことか?」


「見えないどころか存在そのものが消えたようです!」


 カモフラージュが機能していることに安堵する彼の耳に本型デバイスからアルマの声が届く。


「凄いですよー! 入り口のあった場所に立ったり、石を投げたりしましたが何もない空間と変わりません」


「今度はアルマの方でカモフラージュを解除してみてくれ」


「了解です」


 という言葉に続いて「入り口が出現しました」とアルマの嬉々とした声が響いた。


 ◇


 出来上がったダンジョンを探索すること三時間余。

 一通り見終わったところでアルマが疲れた様子で言う。


「次はオペレーションエリアの設営をするように書かれています」


「最下層に作成するのがお勧めってあるな。もう、二、三フロア作ってから居住空間を作るか」


「いやいや、魔力不足に注意って書いてあるじゃないですか!」


 追加フロアを作成して魔力が足りなくなっては、それこそダンジョン内で野営することになる。

 それは避けたいとアルマが必死で訴えた。


「オペレーションエリアはあたしたちが生活する空間というだけじゃありません。各種通信設備や転送装置を設置して本社とのやり取りをする重要な場所なんです」


「そ、そうだな。それじゃ居住空間の設営を始めるよ」


 アルマの勢いに押されて居住空間を作成する。


 伊織がイメージしたのは古民家。

 いわゆる田舎――、祖父母の家というものを知らない伊織は広い庭のある田舎の家というものに漠然とした憧れを抱いていた。


 古い日本家屋をイメージする。


「これで出来たはずなんだが……」


 今度は地震も起きなければ地鳴りも聞こえなかった。

 何の変化も見当たらない。


「えーと……。オペレーションエリアへの進入方法は……。ありました。これです」


 空間魔法を使って任意の場所に入り口を開くことが出来るという。


「あたしがやりましょうか?」


「頼む」


 二人とも空間魔法を使えるが、伊織の場合は所持しているというだけで実際に使ったことがなかった。

 安全を考慮してアルマに頼む。


「オペレーションエリアへ」


 右手を突き出してそう口にすると二人の目の前に空間の裂け目が現れる。

 その裂け目から覗く景色は古民家と広々とした田舎の家の庭が広がっていた。

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