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王太子さまもやらかしていました。

「過去からの解放おめでとうヨーキー」


「起きてたのかヘイリー」


「正直、ところどころだけど」


 リストランテからの帰り道。ふかふかのクッションを抱き抱えて眠るヘリオスは公爵と嗣子によって丁重に馬車へ押し込まれ、ヨアヒムと共に王城への帰路に着いていた。


 王妃と国王が秘密裏に進めていた計画を夢現(ゆめうつつ)に聞き、驚愕と畏怖と、そして歓喜の情が湧いた。王家の人間としてカルパーティ公爵家が負わされた役割を幼い頃から知っている。親友(ヨアヒム)が自由になったことは心から喜ばしく、また、古の怪物が父の代で解体されることは次の施政者として大歓迎だが。


「しかし、これからは公爵やサミューと会いにくくなるのだな」


「そう、だね。仕方のないことだけど…少し寂しい、かな」


 王族と平民、また、公爵家と平民、では身分差が余りにも大きく、住む世界が文字通り異なるために会う機会もなくなるだろう。


「カルパーティ家は特に家族仲が良いからな。正直、羨ましかったぞ」


「まぁ、うちは政略とか権力闘争とかは無関係だしね」


 家柄の特殊性から、カルパーティ公爵家は中央権力を遠ざけ、派閥や親しい家を作らずに来た。そのためか高位貴族とは思えないほど家族仲が良い。国王が幼い王子(ヘリオス)の情操教育に協力を依頼するほどには。


「カルパーティ家が、サミューとヨーキーが居なければ、私は他者(ひと)に心があることも知らずにいただろう。愛を知らず、情けを知らず、痛みを知らぬ者の治める国に、誰が仕えるというのか」


 ヘリオスは優秀さと血筋の良さ故に、他者を見下し傲慢さを隠さない子供だった。そこにやってきたカルパーティ兄弟は異分子そのもので、高い能力と王族にも謙らない()(よう)に最初は酷く戸惑い、憤慨さえした。しかし同い年で長男のサムエルは根気強く面倒をみてくれたし、次男のヨアヒムは大人達とは違い気負いも下心もなく懐いてくれた。


「ヘイリーは幼い頃から国の未来を背負っていたろう?兄さんにもカルパーティの宿縁があって。それがとても重責だとはわかっていたけれど」


 ――負うもののある2人の、強い絆が羨ましかった――


「ぼくだけ何もなくて。でも二人は優しくて。だから今日、ぼくに求められる役割があるのが嬉しかったんだ」


 連日の仕事のせいか、アップル・ブランデーのせいか、それとも公爵家の長年の(つかえ)がとれたせいか。ヨアヒムはいつになく饒舌だった。


 何と声をかけるべきかヘリオスが迷っている間に馬車は王城に着き、扉が開いた。ヨアヒムが先ほど見せた寂しげな顔にヘリオスの心がずきりと疼き、考える前に言葉が飛び出した。


「ヨーキー!ヨアヒム・カルパーティ!これから我らは家族だ!」

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