第五十二話 野外授業1日目 3
俺に対して文句を言ってきたのは、レイド=シルクであった。
他のクラスメイト達は俺のことを名前で呼んでくるが、こいつだけは未だに新入りと呼んでくる。
何かよそよそしい。
「この人たちを誰だと思っているんだ」
「勇者だろう、常識を持たない」
「なんだよその口の利き方は! この方たちはこの世界を守るために選ばれた方たちだろう。今は力を伸ばしている所なんですよ! それでも俺達よりも知識もあるし、実力だってある。そんな方たちを敬わないでどうするんだ」
レイドはゼルドリス達のことを信用しきっているようだ。
何故ここまでと思うが、今はそのことについては置いておこう。
「まあ、ゼルドリス達がそれに値するような者達であれば確かに敬わないといけないだろうな。だが、そいつらは冒険者の常識を完全に忘れている。そのことで今回の野外授業に参加している生徒達を危険な目にあわす可能性もあるんだぞ」
「そんなことあるわけないだろう!」
「そうだといいんだがな」
俺はゼルドリス達をにらみつけるが、すぐに目をそらす。
別にそのことに何かを言うつもりはないが、もう少し自覚を持って欲しいものだ。
「先へ進もう。今日の夜営地まではまだ少し距離がある。早く動かないと日が暮れるぞ」
誰のせいだ誰の、などと言ってもいられないか。
俺たちはゼルドリス達の指示に従い行動を再開する。
次に先頭を歩くのはレイド達五人。
先程の言葉の程を見せてもらわないとな。
暫く進んでいると、数体の魔物がこちらへと近づいてくる。そのことには俺たちだけでなく、他の生徒も気づいている。
さてどんな戦いをするか見せてもらおうか。
迫って来ているのは突進攻撃を得意としているイノシシの魔物である。
体長は一メートルほどしかないが、大きな牙を持っていることが特徴。
その牙で殺された冒険者も少なくない。
低ランクの位置づけをされているが、かなり危険な魔物であることには違いない。
その魔物が二体。
ものすごい速さで俺達に目掛けてやってくる。
「やるぞ」
一歩前に出るレイド達。
剣を構えるレイドと盾を構えるシード。
後方で杖を持っているレイナとヒルダ。
それと弓を持っているミクセル。
それぞれの戦闘位置に就く。
「任せなさい」
「俺達の力を見せつけてやる」
レイドの他のメンバー達もやる気のようだ。
「シードとヒルダ、それにミクセルは一体のイノシシの魔物を頼む。もう一体は俺とレイナで相手をする」
「了解!」
二手に別れた。
人数がいれば妥当な考えだな。
そこからの戦闘はなかなかのものだった。
シーダの三人グループは、シーダの盾でイノシシの魔物を足止めしている間に後方の二人の攻撃で弱らせていく。
しっかり動きを捉えていて全体を把握できている。
あの防御を破るのは、たやすくないな。
それに、レイドの方もだ。
イノシシの魔物の動きを目で追うのではなく感じとっている。
そのため後れをとらずに戦えている。
前衛の二人は防御メインで後方火力を使った戦い。
複数の敵を相手にするなら正しい判断だろう。
そして、最後の止めを前衛の二人が刺して終了。
なかなかの連携。
クラスの中でトップの実力を持っている五人だけのことはある。
口だけでないが、正直もったいないな。
確かに連携はしっかり出来ていたし、指示も的確だった。
だが、今回の戦闘で見えてきたのは後方からの攻撃のみに頼った戦い方。
前衛職であり、剣を使うレイドの強さが見えてこなかった。
後衛メンバーの攻撃支援として、イノシシの魔物の動きを封じ、レイドが剣で止めを刺していればもっと早く勝負がついたのではないかと思う。
「どんな物かな?」
レイドが俺の元に、どや顔でやってくる。
自慢でもしたいのかと思った。
「まあまあじゃないか」
「何!」
俺の言葉に反発してくるレイド。
そのレイドを他の仲間達が止めに入る。
そんなレイドに対して怒って飛び出そうとしたミリアリア。
俺は止めた。
「押さえろ」
「でも」
「いいんだ。言いたい奴には好きなように言わせておけば」
「わ、わかりました」
何とか抑えてくれたようだ。
そしていよいよ俺達が先頭を歩く順番となった。
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