オタク全開乙女
「ただいま帰りました」
学校から帰ってくれば、それを見計らっていたかのように既に夕食の支度ができている。
「心乃華様、お夕食の準備が出来ております」
「フレスさんありがとう。お風呂に入った後に頂くわ」
お付のメイドにお礼を言い、風呂へと向かう。私は特に長く風呂に浸かるという週間はない。髪が長いので乾かすのにも時間がかかるし、洗うのも簡単ではない。フレスさんにいつも手伝って貰っている。
サッとお風呂から上がり、2人で私の髪を乾かしていると、
「いつも思うのですが心乃華様の髪はお綺麗ですね。艶のある綺麗な濡羽色の髪、見ていると吸い込まれそうです」
「フレスさんのおかげですよ。毎日丁寧にケアしてくれてるから。それにフレスさんも素敵な榛摺の髪じゃないですか」
「ふふふ。ありがとうございます」
こういう会話をしていると、私はフレスさんをはじめとして、たくさんの人にお世話になってるなと度々思う。自分だけではこの生活は成り立たないなとも。
比較的に時間が空いている咲耶とは一緒に食べることもあるが、夕食は基本的にいつも1人でとる。家族それぞれが別々の用事入っていることが多いからだ。
今日も1人だったので、黙々と食べ終え、サクッと自室に向かった。
「それでは心乃華様、本日はこれで失礼致します」
「今日もありがとう。明日もよろしくね」
フレスさんにいつものお礼の挨拶を伝えると、自室のドアのノブを回し、部屋へと入った。
ひとりの時間がようやくできる。ここから私の至福の時間が始まる! ここは私の自室だ!
「よし! 今日は『機動勇者ダンパワード』を見るぞ!」
電磁サイリウムを持ち、赤色に変化させて準備は万端。ここからは私のステージだ!
今の時代にディスクを再生するマシンはないので、特注で作ってもらったドライバにディスクをつっこみ再生する。
デバイスを操作し、大画面のエーテルウィンドウを展開、投影する。まるで映画館で見ているような臨場感を味わうことができる。
OPが始まった。今日の作品は、約530年前のロボットアニメ映画だ。マニアの間ではハートが燃えるような激アツな展開がウリの作品らしい。
「よし! そこだ! いけ! おっしゃあああ!」
「何見てるの?」
「ダンパワードだよ。2000年代初期に、革命的な作風の変化を遂げたパイオニア的ロボット作品……ってなんでここにいるの? 咲耶?」
「いやお姉ちゃんがまた楽しそうだなって」
「いつも部屋に入る前にノックか呼び出し押してって言ってるじゃん」
「いやノックも呼び出しボタンも押したよ。お姉ちゃんが気づかなかっただけだよ。というかノックとかボタンとか前時代的すぎるもの使ってるから気づかないんだよ」
咲耶に悪いところは無かった。ごめんね。
「ほんとお姉ちゃんの旧代オタク具合には困ったもんだね」
「いいじゃん! ひとりの時間くらい好きにしても! 500年前くらいの時代が発展してきたって雰囲気が好きなの!」
「学園では才色兼備パーフェクトお嬢様なのに、ひとたび家に帰れば自室に籠る極度の歴オタなんてねぇ。ギャップで好感度が得られるのにも度があるんだよ?」
「歴オタじゃないですー。当時の人達に自分を投影してるんですー」
「それを歴オタと言わずしてなんと言うのか……」
そう言いながら咲耶が頭を抱えている。
別に何が悪いんだ。誰にも迷惑かけてないし。
「なんか女の子らしさが足りないんだよ。服装に気を使ってみたりとかさ。お姉ちゃん何セット服持ってるの?」
「さ――」
「あ、制服は含まないでね」
「……2セットです」
「それは女の子としてどうなの?こんなんだからお姉ちゃんは男の影が微塵も見えないんだよ」
「うぐぅ」
言葉のナイフがグサッと刺さった。それも抉るような鋭いやつ。ここは涙を飲んでダンパワードに集中しよう。機動勇者は私も救ってくれるはず。
「ところで何か用があったんでしょ? もうちょっとでEDだからそれまで待ってね」
「はいはい」
しばらくするとEDが流れ始めた。
評判の通り友情・勝利が詰まった最高の作品だった。
隣で一緒に見ていた咲耶に声をかける。
「お待たせしました!」
「ふぅ、待たされました」
咲耶は一呼吸おいて話し始める。
「生徒会選挙はどうするの? ってお父様が言ってたよ」
「直接、私におっしゃってくださればいいのに。もちろん会長に立候補するつもりだよ、イグドラシルグループの跡継ぎとして」
「そっか……そうだよね! お姉ちゃんならそう言うと思ってたよ」
「当たり前でしょ。各国の学生代表みたいなもんだからね」
そんな答えが分かりきっていることを聞きに来たのだろうか。それとも確認の意味を兼ねているのだろうか。
「でもそのためにはもっと頑張らないと。咲耶も応援してね!」
「……うん!」
「どうしたの咲耶? 体調悪いの? いつもより元気がないような」
「大丈夫だよ! いつも元気いっぱいなのが私の取り柄なんだから!」
ならいいんだけど。たった1人の妹なのだからもっと頼ってくれてもいいんだけども。
「それじゃお姉ちゃん、楽しんで!」
そう言うとトタトタと部屋を出ていった。まるで嵐のようだった。
さて、続けますか!
その後、深夜になるまで映画鑑賞を続け、次の日の朝がとても辛くなったのは私だけの秘密だ。




