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みんなの関心事

『指定暴力団組織極虎会の主要メンバーとみられる人物およそ200人が、本日未明に暴力団本部と下部組織の事務所にて集団昏倒した状態で発見されました』


『この事件によって極虎会は事実上の解散になるでしょうね』


 今朝のニュースはこの話題で持ちきりだった。日本の裏社会を席巻する最大勢力がつぶれたのだから無理もない。僕を含む大勢の市民には関係のないことであるが、このことに胸をなでおろした人は決して少なくないだろう。


「噂によると意識を取り戻した人も廃人状態でまともに会話もできないとか」


「真夜中にぼろぼろの服装の女性が交番に飛び込みで通報してきたんだって」


 僕の周りではクラスメイト達による多くの憶測が飛び交っている。ニュースではそんなことまでは言っていなかったと思う。所詮、学生が現代情報網で手に入れる知識は真偽は定かではないし、たかが知れている。


「カイトはどう思うよ?」


 僕はいつもつるんでいる悪友へと声をかける。


「んあ? なんて?」


「今朝のニュースのことだわ。学園中この話題で持ち切りだろ」


「あー、どうでもいい」


 カイトは心底興味がなさそうに答えた。

 こいつこういうとこあるよな。俗世に興味ないというか、疎いというか。


 教室のドアが開き、なぜだか不機嫌そうなトマサ先生が入ってくる。クラスの視線が前方に集まる。授業が始まる時間になったのだ。


「席につきなさい! ざわついてんじゃないの!」


 どうやら今日はヒステリーモードの日のようだ。

 時々、先生にはやたら機嫌が悪い時がある。いつもは温厚な先生なのだが、ヒステリーモードの日ばかりはいつもやかましいクラスメイト達も気をつかう。ひとたびスイッチが入ると、とにかくめんどくさいからだ。

 どのくらいめんどくさいのかというと、以前に先生の担当の授業時間がすべてわけのわからない愚痴になったほどだ。

 ちなみに授業がまるまる1つ潰れたわけだが、学園側から注意をくらっても逆に黙らせたらしい。受け持つ生徒の成績が飛びぬけているからこそできる荒業である。


 教師として大人げないとは思うが、先生にもいろいろあるのだろう。普段が完璧な分、たまのマイナスは愛嬌だとみんな思っている。噂によると、ひどく男運がないとか。なのでこのモードの日のみんなの話題は大抵、


「男にフられたのかなぁ」


「先生みたいな美人さんを放っておく男も男よね」


「自分アプローチいってもいいすか?」


 おいやめておけ変態(カイト)、その憧れは死人が増えるだけだ。それはそれで面白いが。

 先生が吼える。


「うるさいですよあなた達。聞こえていますからね? 私の事情も世間の事情もあなた達にはほとんど関係ないでしょう。馬鹿なことを言ってないで学びに集中してください」 


 先生の笑顔と棘のある言動のチグハグさが凄まじい。正体不明の圧力によってクラスメイト達は強制的に黙らされることになる。

 今日の授業は、ほとんどトマサ先生の受け持ちだ。長い1日になりそうだと覚悟した。


 ◇


 私は早朝から父に呼び出され、仕事の手伝いをさせられていた。大勢、それも裏の世界とはいえ影響力がある人間が一斉に再起不能になると、管理する行政側は忙しくなる。


 イグドラシルグループは500年前の()()()から生き残った日本を富国させてきた老舗企業だ。壊滅的な被害を受けていた各国への支援も行い、今も日本は世界でもトップの国力を持つ先進国である。つまりイグドラシルはその名の通り世界を支えてきた一大企業なのだ。


「悪党の集団が勝手に潰れただけなのに、なんで私が学園を休まなきゃいけないないんだか……」


 この国の政治は何人かの上院議員による議会の決定によって執行される。もちろん多くの下院議員による大議会の承認は通さなければならないため、なんでも思い通りとはいかないが、それでも強い力を持つことに変わりはない。父である山祇(やまつみ)はその上院議員の1人だ。


「なにか小言が聞こえたようだが?」


「なんでもありませんお父様」


 地獄耳か。私にいずれ必要になることだとはわかっていても文句の1つも言いたくなる。


「山祇様、お耳に入れたいことが」


 側近の1人がそう言うと、お父様に何か耳打ちする。


「そうか、入れても構わん」


 そう言うと書斎のドアが開き、着崩したスーツにコートを羽織った男性が入ってくる。入ってきた男性にお父様は声をかける。


「フロス君はどう思う?この事件は」


「現場からライブラリに登録されてない魔法反応が出たらしいじゃないですか。だったら超常対策担当の俺の管轄じゃないと思うんですけどね」


「いいじゃないか。信頼を置く人間に意見を聞いても構わんだろう」


 どうやらお父様が信用する警部さんらしい。警部さんがこちらに気づいて首をすくめるように頭を下げてきた。彼はお父様の問いかけに答える。


「では私見を述べさせて頂くと、手馴れたやつの犯行ってことですかね。超常現象っぽいですけど、今回は規模が規模ですからね。そういう風にみせかけたって事ですよ。普段はもっと巧妙に隠してると見ました。俺の想像はここまでにして、あとは管理課の皆さんに任せますよ」


 呼び出されたらしい彼はそう言い残すと、書斎から出ていってしまった。お父様は納得したような顔で呟く。


「やはり管理の外のイレギュラーか。統制から外れたものは許されない。この国の更なる繁栄、未来のためにもな」


 お父様はやはり立派な人間だ。事業展開も行政も涼しい顔をしてこなしてしまう。私もこんな風に堂々とした力のある人間になりたいと思う。


 しかし、それとこれとは別問題、学園に行けないことはストレスだ。

 お父様のせいでは無いことは重々承知しているが、私の青春を奪わないで欲しい。青春などないも同然ではあるが。

 私は花も恥じらう18歳の乙女なのだから、今くらいは学生生活を楽しんでも許されると切に思うのだった。

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