1.異世界召喚
「⋯⋯ぷっ!⋯⋯あは!あははははっ!」
俺の手の平の上のそれを見て、隣りの男は腹を抱えて嘲笑う。
「ふざけてるのか貴様!」
「そんなわけないだろ!?」
衛兵は剣を俺の首に突き立て、怒りを露わにするも、俺は至って真面目だ。
そして国王がこめかみに血管を浮き上がらせ、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「貴様の様な無能はいらん!出ていけ!」
ふざけんじゃねえぞ。
◆ ◇ ◆
中学卒業後、俺はイラストレーターとして生計を立てていた。
高校に行かなかった理由は、親が金を出さなかったことと、俺自身、奨学金で進学するより、自分で稼いだ方が効率的だと考えたからだ。
自分で言うのもなんだが、俺のイラストはそれだけ売れてくれた。
有名なラノベのイラストも二つほど担当し、画集まで出てかなり儲かった。
それで三年くらいなら働かなくても充分生きていけるだけのお金が溜まって、一年ほど休むことにした。
そんな矢先。
休業前最後のイラストを描きあげ、あとはラノベ作者と出版社の担当に見せるだけ、という段階までひと段落ついたため、疲れを取ろうと自室で寝ていたはずが、突然の「うおおお!!」という声に起きると、俺は見知らぬ建物の中にいて、完成をあげる大勢の人間に囲まれていた。
「良くぞ来てくれた、勇者よ」
一番高いところに偉そうに座っている豊かな白髭の爺さんが、俺を⋯⋯いや、俺達を見つめて、これまた偉そうに語りかけてきた。
「ここは?」
「ここはお主らにとっての異世界。その中のノルトア王国。儂はその国王だ。お主らは勇者として、ここに召喚されたのだ」
「は?何言って────」
「うおおお!まじ??」
唐突の訳の分からない説明に俺が再び質問をぶつけようとした所で、隣の男が喜びの雄叫びをあげる。
「異世界召喚ってやつ?俺勇者になっちゃうの?」
「はっはっは。喜んでくれるか」
「当たり前っしょ!こんなテンプレ喜ばないやついないって!」
「てんぷれ⋯⋯?⋯⋯⋯⋯まあ、喜んでくれたようで何よりだ。では、早速話を始めるとしよう」
「おっ!イイねイイね!勇者のチート能力とかー?」
「いや待てよ、勝手に話を進めるな」
俺抜きで進む話を遮ると、王と男は今更気づいた様にこちらを見る。
「なんだ、不満でもあるのか?」
「そんなわけないっしょー、夢の勇者異世界召喚が嫌な奴なんて⋯⋯」
「ああ、嫌だね。今すぐ帰りたい」
「「⋯⋯え?」」
心底驚いたような顔をされ、むしろこっちがびっくりだ。
「⋯⋯なぜだ?勇者として栄光を手にし、世のため人のために役に立てるのだぞ?」
「知らん。どうでもいい。俺はそれよりやらなきゃいけない事があるんだ」
そう。描いたイラストを渡さなくては。作家さんや担当、読者達など、多くの待ってくれている人達がいるのだ。
「どうでもいい、と言ったか?」
「ああ、言った。それより、早く元の場所に帰してくれ」
「貴様⋯⋯」
「ええー!どゆこと!?」
俺が勇者になぞなる気がないことが分かると、国王が目の色を変える。
なんだ、何で突然呼び出しておいて受け入れて貰えると思ったんだ?
というか、隣の男は何なんださっきから。凄くうざい。
「⋯⋯良いか、よく聞け。お主に帰る方法など無い。選択肢は無いのだ」
「なっ⋯⋯」
「分かったら勇者の使命を果たすが良い。そしてわざわざ高い代償を払って召喚したのだ。役に立ってもらうぞ」
「⋯⋯てめ、ふざけんじゃねえぞ!勝手に─────」
ふざけたことを抜かす国王に俺が激昴すると、腹に強烈な痛みを感じた。
「貴様ッ!国王陛下に対して余りにも無礼であるぞ!身の程を弁えろ!」
横にいた騎士が俺の胸ぐらを掴んで揺さぶる。
どうやら、俺はこの騎士に腹パン食らったらしい。
「がっ⋯⋯は⋯⋯⋯⋯何なんだよ⋯⋯」
「ふん、では話を続けよう。勇者殿、『ステータス』と唱えてみてくれ」
「おっ!これまたテンプレじゃん!ここでチートな才能とか発覚しちゃってぇー、『ステータス』!⋯⋯おぉ!開いた!」
俺には何も見えないが、本人にしか見えないのだろう。
隣の男はかなりはしゃいでいる。
「では、勇者殿、次は『開示』と唱えてくれるか」
「おっ?その設定は初めてのタイプじゃん?イイねイイね!『開示』!」
すると、男の背丈くらいの、半透明の黒い板が宙に現れた。
名:キョウタロウ
種族:人間
クラス:勇者
セカンドクラス:治癒師
レベル:90
HP:3万5000
MP:2万2000
スキル:超連撃、空刃、転移、解析、魅了、超思考加速、自然治癒、超MP回復、無詠唱
「なっ⋯⋯なんと⋯⋯っ!」
「凄まじい⋯⋯!」
「セカンドクラスまで!」
「これが勇者か⋯⋯」
「おっ?おっ?やっぱ俺って凄すぎる感じぃ?」
男のステータスを見た兵士たちが、驚愕しているので、相当なステータスなのだろう。
「流石は勇者殿だ!これ程の逸材を目にすることが出来るとは⋯⋯」
「褒めすぎっしょ〜、ま、でもやっぱ俺凄い?最強?」
「うむ、間違いなく人類最強だろう!」
「さすが俺〜っ!」
「⋯⋯おい、貴様もだ、さっさとせんか」
「急げッ!」
「いっ⋯⋯いってーな⋯⋯くそ⋯⋯」
衛兵に襟首を捕まれ急かされたので、仕方なく「ステータス」「開示」と唱える。
名:ルイ
種族:人間
クラス:無し
レベル:1
HP:300
MP:350
スキル:擬人化
少なっ。
さっきの男と比べて、驚愕の少なさだ。
「うわ⋯⋯」
「クラス無しって⋯⋯」
「一般人以下じゃないか」
「勇者様と比べてなんと言う⋯⋯」
「ありえないだろ⋯⋯」
勝手に召喚しておいてボロくそ言うな⋯⋯碌でもない連中だ。
「おい、貴様」
「なんだよ」
国王が膝まづかされた俺の前に立ち、ゴミを見る目で俺を見る。
「何だこのステータスは」
「俺が知るわけないだろ」
「⋯⋯ふざけるな!召喚にどれだけ苦労したと思っている!」
「だから俺が知るわけないだ⋯⋯ぐふっ」
また衛兵に腹を殴られる。しかもさっきより強めに。
「⋯⋯賢者よ、この《擬人化》と言うスキルは何だ」
「⋯⋯申し訳ないのですが、私も初めて見るものでして、分かりかねますな」
「そうか⋯⋯なら試してみるとしよう」
「スキル名から推測するに、対象となる物が必要だと思われます。何で試されますかな」
「⋯⋯召喚に使った魔石でいいだろう。おい衛兵、その者に渡せ」
「はっ!」
衛兵は足元に散らばっている赤い石を拾ってきて、それを俺の手に握らせると、「スキルを使ってみろ」と命令してくる。
嫌々ながら、また殴られるのは御免なので、俺は大人しくスキルを使ってみる。
「《擬人化》」
すると、魔石と呼ばれた赤い石が少し光り─────
にょき、と石本体と同色同質の、手足のような棒が生えた。
⋯⋯それだけだ。
「⋯⋯ぷっ!⋯⋯あは!あははははっ!」
俺の手の平の上のそれを見て、隣りの男は腹を抱えて嘲笑う。
「ふざけてるのか貴様!」
「そんなわけないだろ!?」
衛兵は剣を俺の首に突き立て、怒りを露わにするも、俺は至って真面目だ。
そして国王がこめかみに血管を浮き上がらせ、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「貴様の様な無能はいらん!この城から出ていけ!」
「いやいや!は?ふざけんじゃねえぞ!」
「ふざけているのは貴様だろう!何のために召喚したと思っている!」
「てめーが勝手にやったんだろうが!」
余りにもふざけた態度をとる国王に頭に血が上った俺は、立ち上がって国王に掴みかかる。
「陛下から離れろ!」
そこへ、衛兵の容赦のない殴打が俺を襲う。
よろめいた俺はそのまま床に倒れたところを取り押さえられてしまう。
「服がシワになってしまったではないか⋯⋯」
国王が床に組み伏せられている俺を忌々しげに見下ろし、衛兵らに命令を下す。
「この儂に歯向かった反逆者だ!この者を今すぐ処刑しろ!」
「はっ!」
「なっ⋯⋯てめっ⋯⋯ふざけんな!てめーが勝手にやったことだろうが!」
「ふん、ほざけ、屑が」
「なんっ⋯⋯んぐっ」
「動くな!」
俺は衛兵に口を塞がれ、問答無用、とばかりに処刑の体勢を取らされると、隣のもう一人の衛兵が俺の首を落とさん、と剣を抜く。
どこまでもふざけやがって───────
衛兵が抜いた剣を振り上げた、その瞬間。
ドゴン!
大きな音を立ててこの部屋、王の間の扉が吹き飛び、何者かが侵入してきた。
「何者だ!」
侵入者の少女は衛兵の問いを無視し、真っ直ぐ俺のところへ走ってくると、俺を抑えている兵を蹴り飛ばし、俺の手を掴む。
「逃げる。走って」
「ッ!助かる!」
理由は分からないが、彼女は俺を逃がしてくれるらしい。
それなら、と俺は彼女についていくことに決める。
「逃がすな!」
しかし勿論衛兵が俺達を逃がすはずもなく、壊された扉を塞ぐように立ち塞がる。
しかし、
「うわあああ」
「なんだ!」
「ぐおああ」
少女が手をひと振りすると、全員が吹き飛んだ。
「すげ」
「当然」
◇ ◆ ◇
綺麗な白髪と黒いドレスの少女の不思議な力で難無く城を脱出した俺達は、もう追っ手が来ないだろうと言うところで、一息つくことにした。
「はぁっ、はあっ、助かったよ、ありがとう」
「ん」
「⋯⋯名前は?」
「ティアロス」
「助けてくれてありがとう、ティアロス⋯⋯それで⋯⋯何で俺を助けてくれたんだ?」
そう、助けてくれたのはいいが、何故助けてくれたのか分からないと安心は出来ない。
「主を守るのは、当然」
「⋯⋯あるじ?俺は『あるじ』なんて名前じゃないが」
「違う。私は魔剣。『魔剣ティアロス』。その主、ルイ。だから守った」
⋯⋯⋯⋯んっ?何言ってんだこいつ?
あれ、追放されてなくね⋯⋯?
感想読むのが何よりの楽しみなので、どうか感想だけでもお願いします⋯⋯!