神を討つ刃 最初の神殺し
そのうち書こうと思ってる新作のお試し版です。
なお、新作を書き始めてもこの場面に辿り着くまでには何ヶ月かかるか……
あと、パワードスーツやロボットが出てくるのは作者の趣味です。
『何故だ!! 何故お前たちは我が行く手を阻む!!』
目の前にいるのは新しき神の一柱、法神ロウヤード。だが、ロウヤードは神の一柱と思えないほど狼狽してこちらをにらんでいた。
まあ、数名の人間に、曲がりなりにも神である自分が追い詰められているのだ。それはうろたえもするだろうよ。追い詰めている側の首領である俺は、まったく同情しないけど。
『貴様ら、古き神々の信奉者どもか!? 何故我々新しき神を襲う!?』
「何故ねぇ……。今回の襲撃理由なら、至って簡単なんだけどな」
『なんだと?』
「かつて、ある野心を持った男が、神の名において軍を動かし戦争を仕かけたことがあった。その時のいい分が、我らが神の神宝を奪い返さんがため、っていうことだったよ」
『それと、我になんの関係があるというのだ!?』
「うーん、話の流れで察してほしいんだけどな。その、野心を持った男というのは、君の信奉者のひとりだよ。あの男は神の名の元に数千人の軍隊を動かし、隣国に攻め入ったんだ。……まあ、結局は、返り討ちにあって処刑された、らしいけど」
『たかだか人間どもの争いではないか!? それが我が行く手を阻むことと、どうつながる!?』
「まあ、あんたたち神々にとっては、単なる人間同士の殺し合いの結果だろうさ。だがな、その殺し合いの結果生み出される瘴気を吸収して成長している邪神がいるとなれば、話は別になってくる。そう思わないか?」
『ほほう。つまり、その邪神が我だというのか?』
「ああ、俺はそう思っている。実際、ここは古戦場のまっただ中だっていうのに、瘴気の類いが極めて薄いからな」
『我が力によって、浄められたということは考えなかったのか?』
「残念ながら、浄められた結果、瘴気が減ったわけではないよ。これは、誰かがこの場に残留していた瘴気を吸収した結果、瘴気が一時的に薄くなっただけの話さ」
『であるが、定期的に吸収するのであれば、浄めているのと大差あるまい』
「あんたが瘴気を吸収することで力を増大させているわけじゃない、ならな」
『ふん。これは瘴気を祓う際の副産物であり、正当な代価である』
「……さて、どうだかな。この古戦場だって、数年前に、神託で国内の貴族が反乱の恐れあり、と断罪されてできた場所だと聞く。その際には、この地の貴族や騎士団だけではなく、町や村に暮らしていた領民、すべてをやき滅ぼした、そう聞いているが?」
『無論だ。神敵となった以上、この地に住まう人間どもはすべて邪悪なる存在。老若男女問わずに皆殺しにするのは当たり前であろう』
「……そう言うところが、相容れない原因なんだがな。まあ、いくら言葉に出しても、答えが変わることなどないのだろうが」
『無論である。偉大なる新神の一柱である我が、人間のような矮小な存在に譲る理由などあろうと思うてか』
「だろうなあ。いや、それ自体は悪いことじゃないと思うよ。神様が正しいかどうかは知らないけど、人間だっていちいち移動先にいる虫なんかのご機嫌伺いはしていないし」
『ならば、小童ども、我が行く手を遮るのをやめ、即刻立ち去るがよい』
「残念ながら、そういう訳にはいかなくてね。これ以上、あんたを野放しにするわけには行かなくなったんだ。あんたに恨みは……ないと言えないんだけど、この場で消えてもらうよ」
法神ロウヤードを取り囲んでいる俺の仲間たちから発せられる魔力が一段と強さを増す。第一機装アーマードギアは絶好調のようだ。もっとも、神狩りを成功させるには、アーマードギアの調子が悪いと話にならないのだが。
『ふん、小童どもが。古き神々の口車に乗せられて、そのような神機を与えられ満足か? まさか、それだけで我を滅ぼそうなどと思っているのであるまいな?』
「まさか、そんなになめた真似をするつもりはないよ。ただ、この機装でもそれなりのダメージを与えることができると思っているけど」
『ほう、それは面白い冗談だ。ならば、全力でかかってくるがいい!』
法神ロウヤードから発せられた魔力が、周囲を取り囲んでいた俺の仲間たちを襲う。だが、この攻撃は予想されていたとおりなので、全員難なくかわすことができた。
「全員、作戦プランBへ移行。周囲を取り囲みながら、魔導銃でロウヤードを削れ」
「「「了解」」」
攻撃を回避した俺たちは、そのまま次段階の行動に移る。すなわち、包囲しつつ、魔法の武器で神を攻撃するという作戦だ。
神々という連中の厄介さは、なによりも『普通の武器』が効かないということにある。神々に傷を負わせるには『魔力で作られた武器』あるいは『魔力で覆われた武器』、『魔剣や聖剣のような魔力を秘めた武器』で攻撃するしかないのだ。
俺たちが今回持ち込んだ標準装備『魔導銃』は純魔力を圧縮して、指向性を持って撃ち出すという、魔法武器としては非常にわかりやすく原始的な武器だ。性質は原始的であるが、その機構は最新のものであり、これの量産化は目処が立っていない。魔力を圧縮するために、かなり上位の魔石が必要とのことだ。
では何故、俺たち全員がこの魔導銃を装備しているかと言えば、アーマードギアの標準装備として登録してあるからだ。俺が作る事のできるさまざまな機装、その中でも『第一機装アーマードギア』は数も多く作れるし、装備のバリエーションも豊富だ。
今回の神討ちには基本装備できているが、本来であれば、各個人の適正とフォーメーションによってオプション装備を付けてくるべきだったのだ。
『ぐぬぅ……。おのれ、豆鉄砲とはいえ、ちょこまかとよく動く!』
「お褒めに与り光栄です。私たちとしても、こういう風に神討ちの際にこの武器が有効なのかを試していませんでしたので、非常に参考になります」
『くっ……、なめた口をきく!』
「別になめていませんよ。ただ、結果として、魔導銃での攻撃が有効なことが確認できましたので」
『それがなめた真似だと言うのだ!!』
「くっ……。下級の新神とはいえ、そのプレッシャーは神のものですか……。大型魔獣のそれに比べても、遥かに大きなものですね」
『無論だ。あのような魔獣どもと比べられること自体が腹立たしい! このまま、お前たちを我がプレッシャーで押し潰してくれようぞ!』
「さすがにそれは勘弁願いましょう。それに、時間稼ぎもそろそろ終了ですので」
『なに? 時間稼ぎだと?』
法神ロウヤードは、指摘されていま気がついた。最初に自分と受け答えをしていた、赤と白の鎧がいなくなっていることに。周囲を見渡しても、その存在は発見できず、かといって援軍を呼びに行ったり、この場から逃走したりなどとは考えにくい。であるならば、あの鎧はどこに消えたのか。
周囲を見渡すが、赤と白の同型機と見られる鎧たちしか見当たらない。しかし、自分の認識の外から、剣の刃による攻撃を受けたのだ。もちろん、犯人は俺だ。
『ぐがあぁぁぁ! 何をした小童!!』
「大したことはしてないよ。このアーマードギアに搭載されている、ステルス機能を使ってお前の死角から魔剣で攻撃しただけさ」
『おのれなめおって!! こちらが本気を見せずに戦っていれば、それをいいことに頭に乗りおって!! よかろう、この法神ロウヤード、全身全霊をかけ、本来の姿でお相手しよう!!』
そのセリフと同時に、ロウヤードの体が光に包まれ、光の繭になる。光の繭はどんどん膨れ上がっていき、最終的には9メートルほどの大きさへと姿を変えた。そして、成長を遂げた繭の中から、一体の巨人が姿を現す。両手には短杖、怒りの面を身につけた巨人。これが、法神ロウヤードの真の姿なのだろう。
「ふふん、ようやく本気になったみたいだな」
「そのようですね。カイト様。ですが、カイト様でしたら、先程の不意打ちで倒すこともできたのではないのですか?」
「エアリア、それを言うなって。できることなら、神々に本気を出させてから倒したほうが、入手できるコストの量が多いって話なんだし」
「それは聞き及んでおります。ですが、なにも初めての神討ちで、相手に本気を出させなくてもよいのではないか、そう聞いているのです」
「うーん、俺の考えとは逆かな。最初の神討ちだからこそ、俺は相手に全力を出させたんだ」
「どうしてそのような危険なことを?」
「今後も新神どもを討つことになるかは、わからない。でも、この先も新神との戦いが避けられないなら、最初のこの戦闘で可能な限りの体験を済ませておきたかったんだ」
「……それは」
「うん、俺のストッパーであるエアリアが賛成できないのは承知の上だよ。でも、この手順を踏んでおかないと、この先まだ戦いが続くとしたら、大きな差が出てくる」
「……納得はできませんがわかりました。その代わり、アレとの戦闘は一対一ではなく、二対一で行います」
「……まあ、そこが落としどころか。それじゃ、こちらも準備を始めようか。我が声に応えよ、第三機装ライフシルエット一番機『雷神鬼』!」
「きなさい、第三機装ライフシルエット三番機『ファンタジーソード』」
敵が巨大化したのにあわせて、こちらも大型魔獣用の血戦兵器を呼び出し、それに乗り込む。乗り込むと言っても、直接召喚しているので、召喚終了と同時にコクピットに転移されているのだが。
搭乗するのはいつも通り、俺が一番機の『雷神鬼』、エアリアが搭乗するのは三番機の『ファンタジーソード』だ。『雷神鬼』は完全に俺専用のチューニングが施された専用機。『ファンタジーソード』はエアリアのほか、何人かいる搭乗者にあわせてチューニングした汎用機というところか。ただ、汎用機であってもその出力はけして劣っているわけではないのだが。
『ふん、それがお前たちの切り札か。見たところアームドナイトの発展系にも見えるが』
「そうだな。確かにその表現がぴったりだろう」
『なるほど。これは手を抜くわけにはいかぬな。せっかくだ、その巨大な棺桶ごと破壊してくれようぞ!!』
「それはご遠慮願いたいな。エアリア、散開して攻撃だ!」
「はい、カイト様!」
一息で間合いを詰めてきた法神ロウヤードを回避しつつ、俺とエアリアは左右に散開し、標準装備の魔導バルカンでダメージを与えようと試みる。
だが、
『そのような攻撃。この真の姿になった私に効くと思ったか!?』
さすがは、新しいといっても神の一柱、魔導バルカンによる攻撃では一切ダメージが入っていないように見える。そうなると、次は近接戦闘しかないわけで、エアリアは脚部収納スペースからダガータイプの武器を二本、俺は黒い刃を持つ両手剣を一振り用意した。どちらも、魔力が篭もっており、つまりは魔剣やその類いだというのがわかる。
『ふむ、我を滅ぼしに来たと言うだけあって、魔剣の類いも十分に備えていたか』
「どちらかというと、これは標準装備なんだがな。まあ、神討ちでも十分に力を発揮してくれるだろうし、申し分ないさ」
俺はその手の内に召喚した、魔剣マナブレイカーを構え、エアリアも双剣を構える。
次の攻防は、法神ロウヤードが動いた瞬間から始まった。
『なぁ!? この!? ぐぅ!?』
「せい、やぁ、たぁ!!」
エアリアの正確な攻撃が、法神ロウヤードの体を浅く切りつける。
短剣という武器分類であるがゆえに、深く切りつけるマネはしない。
だが、ファンタジーソードの双剣は確実に法神ロウヤードの体力――神性――を削り取っていった。もちろん、法神ロウヤードも黙ってやられていたわけではないが、エアリアの操縦するファンタジーソードは、法神ロウヤードの攻撃を華麗にかわしつつ、ダメージを積み重ねている。
『おのれ、おのれ!! 矮小な人間の分際で、我に傷を付けるなど!!』
激昂した法神ロウヤードがファンタジーソードを弾き飛ばして、追い打ちをかける。ファンタジーソードは決して装甲が厚くないので、少々不安であったが……上手く防御することができたようだ。
俺の方はと言うと、姿を隠して力を貯めていた。狙うは致命的な隙を晒した一瞬のみ。事前にエアリアとの交渉も済んでいる。エアリアが連続攻撃で囮になり、そちらに注意が向いているところを、背後から強襲するのだ。卑怯? 命をかけた戦いの場、それも格上狩りの状況で不意打ちが卑怯などとは思えないな。
そして、法神ロウヤードからの攻撃をファンタジーソードが受け止め続けること数分、待ちに待った瞬間が訪れた。法神ロウヤードが大技を放つための魔力増幅を開始したのだ。事前に聞いてはいたが、やはり神であっても顕界し力を使うには、力を貯めるための時間というのは必要らしい。戦神や軍神、武神のような戦闘特化の神では信用ならないが、法神のような非戦闘系の神では無理もない。
さて、ようやくまわってきた出番。ファンタジーソードできっちり勤めを果たしてくれたエアリアに報いるためにも、キッチリと決めなくちゃ。
「しっ!」
『なんだと!? どこから現れた!?』
俺の渾身の突き攻撃が法神ロウヤードに突き刺さる。さすがに法神であるロウヤードから血液のようなものは流れ出ることはないが……体を貫通するくらいまで突き刺し、そのまま引き抜いたマナブレイカーは、その名の通り、法神ロウヤードの体内にあったマナを破壊してくれたようだ。……さて、これであとは引導を渡すだけだな。
『おのれ、小童どもが憎たらしい……。だが、我が魔力を破壊したところで、我は死ぬことはない。一時的な眠りにつくことにはなるが、やがて復活し、貴様らの子孫を滅ぼしてくれようぞ』
「残念ながら、その必要はないよ。お前はこの場で完全消滅するのだから」
『ふん、人間が神を討つというのか。バカげたことを……』
「バカげたことでもないんだよな。なにせ、神を殺すためだけの武器を授かっているのだから」
『神を殺すための武器、だと?』
「ああ、そうだ。我が声に応え現れ出よ『神滅剣セイクリッドティア』!」
『ぬぅ、なんだその剣は!?』
「神殺しの魔剣、セイクリッドティアだよ。この剣で神核を破壊された神は、この世界から完全に消滅することになる」
『馬鹿な!? なぜそのような装備を人間が持って……そうか、旧神どもか!!』
「そこはあまり関係ないんじゃないか? どうせお前はここで滅びるわけだし」
『この我を滅ぼそうというのか。やれるものならやってみるがいい。だがな、我を滅ぼせば、我の加護で力が使えていたものたちが力を失うことになるぞ? 我にはどうでもいいことだが、人間どもの治療に我の力を使っていたのであろう?』
「ああ、そこは心配するな。お前の力が失われたあと、俺の仲間たちによって、救助されることになっているから」
『……おのれ、人の子が調子に乗りおって!!』
「なにを言ったところで、もうお前の消滅は変わらんよ。ではさらばだ、法神ロウヤード」
いまにも消えかかっている、法神ロウヤードに対し、頭上から真っ二つにするようにセイクリッドティアを振り下ろす。途中、なにか堅いものを切ったような感覚があったが、一息に最下段まで振り抜くことができた。途中で引っかかったような感覚を覚えたのが、神核を切った証なのだろう。
縦に切り開かれたロウヤードはその形を崩し、セイクリッドティアに吸い込まれていった。そして、セイクリッドティアの刀身に『法』を現す言葉が刻まれた。
「ほほう、セイクリッドティアで旧神を討つと、その象徴が刀身に刻まれるのか」
「……あまりありがたみのない機能だな」
「いやいや、それだけではないと思うぞ。何はともあれ、最初の神討ちご苦労だった」
「ああ、本当に疲れたよ。……このあと、俺たちは休んでていいのだろう?」
「君たちは存分に役目を果たしたからね。ここからは大人の出番だ。本営地まで戻って休息をとるといい」
「それでは、お言葉に甘えて戻らせてもらうとするよ。エアリア、撤収だ」
「はい、承知いたしました」
もう一機のライフシルエットに乗っているエアリアにも連絡を入れ、俺たちは本営地まで戻ってくる。今回の遠征の総大将である、父上に報告に上がろうと思ったが、先に休息をとって構わないと伝達が来たので、お言葉に甘えてしばらく休ませてもらうことに。ライフシルエットをそれなりの時間動かしたため、魔力消費がはげしかったのだ。俺たちふたりは、休息用に用意されていた天幕内部で休息をとることとなった。
「カイト様。今回は見事な神討ちでございました」
「褒めてもなにも出ないぞ。……まあ、嬉しいけど」
「はい。それで、今後の方針なのですが……」
「このまま神討ちを続けるかどうかか?」
「……はい。盲目的に古き神々に従うのも危険かと」
「わかってるさ。あくまで俺たちが倒すべき神は、人間に過大な干渉をしている神だけ、という方針で行こうと思う」
「承知いたしました。エアリアは、カイト様に付き従います」
「そんな堅苦しい感じじゃなくても構わないんだけどな。ともかく、よろしく頼む」
「はい、今後ともよろしくお願いいたします」
お読みいただきありがとうございました。
作品についての意見などありましたら、感想からどうぞよろしくお願いいたします。




