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八話 ヒトリボッチと妹 三











「さぁ……洗いざらい説明してもらおうじゃない」


 一人かずと真中まなかの手により、無事家に帰宅することができた迷子少女――数多あまた一人かずとに詰めよる。


「あ、洗いざらいって……どう――」

「うっさい! こっち見んな! キモい!」


 ほんの一瞬チラリと視線を向けただけにも関わらず、一人かずと数多あまたにそのような罵詈雑言を浴びせられ、挙げ句の果てには顔面にクッションをボフリとぶつけられる。


(ぶはっ!? ど、どうしてこんなことに……)


 一人かずとは帰宅早々「じゃ、僕は部屋で“勉強”するから、“二人”でゆっくりね」と二つの言葉を強調して自身の部屋に逃げ込もうとしたのだが――なぜか二人とも即一人かずとの部屋に押しかけてきた。


 帰宅途中は二人が一人かずとの後ろで何やらコソコソと話をしていたので、一人かずとは――恐らく自分の陰口を言っているのだろう――と被害妄想し、己の身を守るために自分の世界に逃げ込んでいたのだが――


(つ、疲れた……もう無理)


 一人かずとの精神は度重なる疲労により、既に限界を超えていた。


 いつ精神崩壊して発狂状態に入るかどうか分からないような最悪な状況だ。


 迅速に精神値を回復する必要がある。


 故に、早い所この二人を追い返す手立てを考え、一人かずとは――


「わ、わかったよ。説明するから。その変わり……説明し終わったら僕を独りにしてくれないかな? ちょっと今日は疲れちゃってさ……」


 一人かずとがクッションから少し顔を出してそう答えると――


「うっさい! 顔出すな! キモい!」


 数多あまたは即もう一つのクッションを放り投げ、一人かずとの顔面にストライクさせる。


「ぶはっ!? ど、どうしろって言うんだよ……」


 一人かずとは二個目のクッションをくらう。


 もうこれ以上面倒ごとは避けたい一人かずとは諦め、さっさと数多あまたを満足させて早めに立ち去らせることにしたのだった。











■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□











「――だから、あの時の僕は自暴自棄になっちゃっててさ。二人にも心にないような酷いこと言っちゃったんだ。もう遅い事かもしれないけど……ごめん」


 一人かずとは中学時代に間違った考えの元、愚行を行なってしまったことに対して二人に謝罪する。


 ――数多あまたと視線を合わせると怒られるので、体の向きを横にしていざという時の為にクッションを装備しつつ。


「はぁ? あんなことしといて、本心ではしたくなかった? なにそれ? 真中まなかからも聞いたけどさぁ……舐めてんの?」


 しかし、数多あまたはこの上なくブチ切れていた。


 あんな事をしておいて、本当はしたくなかった?


 ――彼女にとって、まるで訳が分からなかった。


「……信じらんない……ばっかみたい」

「……その通りだね。今冷静になって考えてみると、限りなく――この上なく馬鹿だったよ。あの頃の自分は……」


 一人かずとは遠い目で窓の外に写る夕日を見つめ、しばし黙り込む。


 ――さながら遠い昔を思い出しているかのように。


「……あの頃どころか、僕は小学校の頃から間違ってたんだろうか……そう言えば、みんなからの遊びの誘いを無視し続けてたもんなぁ……そりゃ挙げ句の果てに僕自身が無視されて当然か……あぁ、そっか、その通りだ、最初っから間違ってなんかいなければ、みんなと遊んで、一人ぼっちにならずに、今頃……ぐすっ……もっと……楽しく過ごせてたはずなのになぁ……」

「……っ!?」


 一人が今までなんとか心の防波堤で防いできた悲しみの感情が、勢いを増して押し寄せて来る。


「……ぐすっ……ごめん……ごめんよぉ……」


 強まった勢いにより防波堤が決壊し、それ故か一人かずとは堪えきれずに――瞳からボロボロと涙を流してしまう。


「ちょ、ちょっと……泣いたところで解決するわけないでしょ……」


 しかし、泣いた所で数多あまた一人かずとのことを許すはずもない。


(なによ……無様に泣いちゃって……)


 だが言葉では強気な数多あまたであるが、さめざめと泣く一人かずとの様子を垣間見て内心ではひどく慌てていた。


 一人かずとが泣く姿なんて近々……いや、しばらくどころか――数多あまたの人生の中でほとんど見たことがなかった。


「……数多あまたちゃん。一人かずとお兄さんのこと、もう許してあげようよ。悪気はなかったってもう分かったでしょ?」


 真中まなか一人かずとの近くにまで歩み寄り、背中を撫でて宥めつつ数多あまたを説得する。


 しかし――


「……いや。許さない。こいつは……こいつは――」






 数多あまたはあの頃――中学時代、一人かずとと言い争っていた時期を思い出す。


『お前は背ちっちゃくて可愛らしいなぁ。ほれほれ、頭を撫でてやろう〜』

『……は、はあああぁぁ!? ○ね!』

『いててっ! おいおい○ねはないだろ死○は〜』

『そ、そうだよ数多あまたちゃん。何もそこまで言わなくても……』

『おぉ〜真中まなかちゃんは良い子だねぇ。そんな良い子の真中まなかちゃんには、今夜僕が添い寝をしてあげよう〜』

『えっ……そ、そんな、困ります……』

『ちょ、ちょっと! そんなことしたらダメだからっ! 真中まなかにまでキモいこと言わないで!』

『え? 何言ってんだよ。真中まなかちゃんはもはや家族同然みたいなもんだし、何も問題ないでしょ』

『か、家族同然……』

『――なっ!? んなわけないでしょ! ――っああぁぁっ! もういいっ! あんたなんて知らないっ! 行くわよ真中まなか!』






「――ぜったいに許さない!」


 先ほどまでの焦りは鳴りを潜め、数多あまたの感情は過去のフラッシュバックによって怒りの感情で埋め尽くされる。


数多あまたちゃん……」


 真中まなかは半ば諦めたかのような表情をとる。


 ――数多あまたの強情さを知っているからだろう。


「……とにかく、そういうことだから」


 数多あまたはむすっとした表情を浮かべてそっぽを向き、一人かずとを視線から外す。


「……」


 すると、真中まなかは無言のまますっと指を一人かずとの学習机に向ける。


「……なによ? 机なんか指差して――」

数多あまたちゃん。机の上、見て」


 真中まなかが指差す先。


 そこにはある一冊の本が置いてあった。


 その名も――【友達の作り方】。


「……はっ。なによ? 友達作ろうとか考えてたわけ?」


 数多あまたは目を細め、蔑みの目を一人かずとに対して向ける。


「そうだよ。一人ぼっちはつらいもんね。数多あまたちゃんもそう思わない?」


 しかし、真中は真剣な面持ちを持ってして数多あまたに語りかける。


「な、なによ……こいつは自分から独りになりに行ったようなもんでしょ……自業自得よ」

「そうだね。でも一人かずとお兄さんはそれが間違いだってことに気がついて、本を読んだり、見た目を変えたり、必死になって友達を作ろうと――」


 真中まなか数多あまたを諭そうと一歩踏み込んだその時――


「――っ、間違いなんかじゃ……ないわよ……!」


 突然数多あまたが形相を変えてキッと真中まなかを睨みつつ答える。


「……えっ? あ、数多あまたちゃん?」


 突然の出来事に対して真中まなかは驚く。


 ――これほどまでに声を荒げる数多あまたの姿を今まで見たことがなかったからだ。


「……そんなことしたって無駄だから。あんたは今まで通り、地味に暮らしていくのがお似合いよ」


 数多あまたは神妙な面持ちのままそうポツリと言い残し、部屋の出口にまで向かい、扉に手をかける。


「……帰る」

「か、帰るって、どこに? ここ数多あまたちゃんの家――」

「あたしの部屋に帰る!!」


バタン!


「……数多あまたちゃん……」


 真中まなか数多あまたを憂う呟きは、もはや数多あまたの耳には届かない。


「……いや、いいんだよ。ありがとう真中まなかちゃん。数多あまたにも譲れない何かがきっとあるんだよ」


 ここでようやく正気を取り戻した一人かずとが、真中に対してフォローを入れる。


(……数多あまたは昔から頑固者だったからな。今は僕が何を言っても聞かないだろう)


 理由は定かではないが、数多あまたは小学校くらいの頃から一人かずとに対してつんけんした態度を取るようになった。


 ――正直セクハラ後も大して態度が変わらなかった為、特に大事無いと思っていたのだが――。


(……でも、数多あまたとも小さな頃みたいに仲良くなりたいな……ん? 待てよ……これってちょっと……いや、かなりまずいんじゃ……)


 一人かずとは今になって気づく。


――それはそれは大変重要なことに。











 ――今まで一緒に過ごしてきた家族でさえ忌避するような存在が、赤の他人と友達になれるのか?






 何か特別な事情でない限り、答えは否だろう。


 そして、一人かずとの家族事情に特別な事情は無い。






 一大事である。







(まずい……まずいぞ……! 妹との仲を取り繕えないような僕なんかに友達が作れるわけない! 一刻も早く仲直りしないと……!)


 一人かずとはスッと立ち上がり、すぐに行動を起こす。


 ――未来の自分のために。


 ベッドから立ち上がり、先ほどまで涙を流していただらしない面持ちを正し、そして――






「……真中まなかちゃん。数多あまたの部屋に行ってやってくれないかな? あいつの怒りを鎮めてやって欲しいんだけど……」


 ベッドにスッと腰を下ろして数多あまたのご機嫌取りを真中まなかへと託す。


 ――だって今部屋に行っても多分話聞いてくれなさそうだもん――と心の中で言い訳をしながら。


 というか、普段から立ち入りを禁じられているので、話にもならないだろう。


 ならば頼みの綱は真中まなかのみである。


「……数多あまたちゃんのことなんて、知らないです。私は一人かずとさんの部屋に居ます」


 しかし、頼みの綱はプツンと途切れており、どうやら使い物になりそうもない。


 ――というより、頼みの綱自身がプッツンしているようにも見える。


 真中まなかは頬を少しぷくりと膨らませ、不満をその表情に表しつつ勉強机に頬杖をついている。


――どうやら相当怒っているらしい。


(むむむ……そりゃせっかく良いことしようとしたのに突っぱねられたとか……慈善活動の欄に書きにくくなるから当然怒るよね……。困ったな……やっぱり自分で行くしかないのか……?)


 一人かずとがそう小さな覚悟を決めようとしたその時――。






 ドタドタドタッ! バタンッ!


「危ない危ない! 変態の巣窟そうくつ真中まなかを置きっ放しにするのはまずいわっ! ほらっ! 真中まなかっ! 行くわよ!」

「――えっ!? ちょ、ちょっと! 数多あまたちゃ――」


 パシッ! ドタドタドタッ! バタンッ!


「……へ?」


 それは嵐のように突然やってきた。


 少女は妖怪ヒトリボッチの魔の手から親友を救い出すべく、颯爽と扉を開いて――って誰が妖怪だ誰が。


 とにかく、扉を蹴破りかねん勢いでやって来たのは数多あまただった。


 数多あまた真中まなかの手を強引に引き、無理やり真中まなか一人かずとの部屋から連れ出していったのだ。


「……助かったような、助かってないような……。まぁ、今日は久しぶりに行動的になって本当にくたびれた。後は真中まなかちゃんが上手く数多あまたの機嫌を取り直してくれることを願って――」


 一人かずとはそこまで言い切ると、今度こそボフリとベッドに前のめりに飛び込み、全身を預ける。


「――ふぅ……ん? 僕の携帯が……光ってる……!?」


 バッと慌てて飛び起き、先ほどまで充電していた携帯電話を掴み取り、半ば乱暴に画面を開く。


 一人かずとの携帯が光ることなど滅多にない。


――それはもう、異常気象レベルで。


「な、なにかな……架空請求じゃないといいけど……も、もしかして、今日頑張ったご褒美に、神様から『友達を授けよう』的なイベントでもあるんじゃ……!」


 一人かずとが恐る恐る携帯の着信履歴を見て見ると――






――――――――――――――――

数多あまた  15:08

数多あまた  15:03

数多あまた  15:00


母   11:50

父   19:23

母   11:48

――――――――――――――――






「……これは……」


(――本当に、今まで悪い事をしたな)


 まだ困った時に頼ってくれるくらいには、数多あまた一人かずとのことを気にかけてくれているらしい。


 一人かずとはそっと携帯電話を閉じ、充電器に戻す。


(――今まで放ったらかしにしててごめん。これからちゃんと、仲直り出来るように頑張るよ……数多あまた


 そう心に誓い、一人かずとはベッドに身を預けて目を閉じしばし休息を取るのであった。











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