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三話 ヒトリボッチと従妹 一











 ピンポーン。


 二階建ての住居の前に立つ少女は、この家の住人に入室許可を取るべくインターホンを一度鳴らす。


「……あれ? 誰も居ないのかな……?」


 ――おかしい。


 少女は首を傾げてしばし悩む。


 この家の住人の内、一人には既に連絡を送っていたはずなのだが――。


 ※――念のために言っておくが、一人かずとではない――※


「……もう一回……」


 ピンポーン。


 しかし、鳴り響くのはインターホンの音のみで、この住居の中から生活音が発されない。


 いつもならバタバタと元気の良い音を立てながら、目的の人物がすぐに顔をひょっこりと覗かせるのだが――。


 ※――念のために言っておくが、一人かずとでは(以下略。――※


「……数多あまたちゃん、出かけちゃったのかな……?」


 スマホを取り出し、その人物と連絡を取ろうとしたその時――


「――ん? あ、真中まなかちゃんか。久しぶり」

「……えっ?」


 突如背後から少女の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。


 慌てて少女は振り返る。


「……? え、えっと……どなたでしょうか……?」


 しかし、そこに居たのは――韓流スターのような容姿をしたイケメン。

 少女はこのようなイケメンと面識はない。――これほどのイケメンであれば、面識があれば記憶に残っているはずだ。


「え? 誰って……一人かずとだけど」

「……はい?」


 ――はて? このイケメンは今、自身の名を一人かずとと言ったのだろうか?


 もしそうだとすると、この人もこの家の住人ということになるのだが――。


「……あれ? 真中まなかちゃん? お〜い。どうしたの?」

「――えっ? あ、あの……本物……ですか?」

「……? 何を言っているのかよく分かんないけど、取り敢えず入りなよ。数多あまたに会いに来たんだよね?」


 そう言ってイケメンは門をカシャリと開け、玄関で立ちすくむ少女の横を通り過ぎてドアノブに手をかける。






 ガタンッ。






 しかし、玄関のドアには鍵が掛かっており、鍵なしで開ける事は出来ない。


「あ、あの……勝手に入るのはまずいと――」

「あれ? 数多あまたの奴……出かけたのか? しょうがない」


 するとそのイケメンは学生服のポケットから鍵をチャラリと取り出し、何のこともなく玄関のドアの鍵をカチャリと解錠し、ドアを開ける。


「さ、どうぞ。数多あまたはまだ居ないみたいだけど、どうぞ上がって」

「……へ?」


(こ、この人……鍵を開けた!? えっ? 嘘っ!? ってことは……本当にっ!?)


 そう。

 このどこかの韓流ドラマで出演していてもおかしくない容姿のイケメン。


 ※――念のために言っておくが、このイケメンこそ、間違いなく保智ぼち 一人かずと本人である――※






「えええええええええええええええ!?」






 少女は驚きのあまり玄関の前で、大きな声でそう叫んでしまうのであった。











■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□











(……き、気まずい!)


 一人かずとはリビングの椅子に腰掛けていた。


 長方形の机が一つ存在し、付近に椅子が一つずつ置かれている。――椅子の合計は四つだ。


 一人かずとはその内の一つの椅子へと腰掛けている。


 そして、他の席はというと――


「…………」


 白いブラウス、黒いタイトスカートを着ている黒髪ショートボブの少女――中洲なかす 真中まなかが、一人かずとの目の前に座っていた。


 しかし、玄関での一件以来、口を開こうとしない。


 落ち着かない様子で、髪を手でわさわさと弄りつつ、一人かずとのことをチラチラと盗み見ていた。


(よくよく考えたら、僕は真中まなかちゃんに嫌われてるもんなぁ……こうやって面と向かうのも久しぶりだなぁ)


 先ほどは美容室帰りの疲れが出てしまっていたのだろう。


 故に、真中まなかに昔のよう――嫌われる前のように、普通に喋りかけてしまっていた。


 だが、如何いかんせんそれはまずかったようだ。――あれ程の大声を上げられたのだから。


 会話の内容はよく覚えていないが、軽い挨拶程度だったはずだ。


 その時点であの拒絶の仕様。――いくら十年間ぼっちの一人かずとでも、辛い感情が込み上げて来る。


(……また、昔みたいに仲良くなりたいけど、【友達の作り方】(バイブル)には、『焦りは禁物』と書いてあったからなぁ……)


 しかも今の時点での好感度は昔の一件により、ゼロどころかマイナスだろう。


 まだ先ほどの美容師のような赤の他人の方が接しやすい状況だ。


(「久しぶりだね」「元気だった?」「大きくなったね」「数多あまた遅いね」「昨日の晩御飯何食べた?」……だめだ。何喋りかけても返事が帰って来そうにない。僕の脳内シミュレーションの結果だけど……)


 一人かずとは助けを求めるような視線を真中まなかにチラリと向けてみる。


 すると、真中まなかも同時に一人かずとの方をチラリと盗み見ていたらしく、両者の目と目がパチリと合う。


「「あっ……」」


 ――刹那。


 それは一人かずと真中まなかと目を合わせた瞬間起きた。


 真中まなかは何やらハッとした表情を浮かべ、慌てて顔を横に向け、すぐに視線を逸らしたのだ。


 一人かずとはこの行為に対して、ある覚えがある。


(これは……ハッ! そうか……よく分かった。この子は僕のことをチラチラと盗み見て、視線が合った瞬間に慌ててパッと目を逸らしてしまう程に――)






 ――心底嫌悪しているのだろう。






 中学時代によく向けられた視線。


 その視線の正体は――危険視。


 目を離してしまうと、何をしでかすか分からないような存在が居るとしたら、嫌でもチラチラと盗み見るしかないだろう。


 そしていざ目が合ってしまうという不幸が発生すると、慌てて視線を逸らす。――視線を合わせていると、「何見てんだおらー!」コンボが決まってしまうからだ。


(なんてこった……これ程までに嫌われてるなんて……)


 一人かずとは「はぁ」と溜息を一つ零す。


(……この子は数多あまたに会いに来た。

 それが肝心の数多あまたが居ないだけでなく、ぼっちな変態と運悪くエンカウントしてしまった。

 僕は昔のノリで普通に家に上がるように言っちゃったけど、よくよく考えたら家に誰も居ないし二人きりになる。

 この子はぼっちな変態の言うことを聞くと、何をされるか分からないと考えた。

 その恐怖により、大声で絶叫。

 しかし、それでも数多あまたに会いたいという思いから、ぼっちな変態の巣窟だと知りながらも勇気を持って足を踏み入れた。

 ……なんて健気な子なんだ……)


 一人かずとは何かのあらすじみたいな脳内シミュレーションの結果をまとめつつ、チラリと真中まなかに視線を移す。――今度は視線が交差する事は無かった。


 顔は俯かせていてあまりよく見えないが、少々顔色が上気しているように見え、口元が吊り上がっているように見える。――怒り爆発寸前と言った所だろうか。


(……恐らく僕が何か行動を起こした瞬間、また大声で叫ぶだろうなぁ。僕が早々と離席することを待ち望んでいるに違いない。この家の住人に対しての礼儀的にはイエローカードかもしれないけど、僕は世間一般的にレッドカード引いてるしなぁ……ここは大人しく食い下がろう)


 一人かずとはカタリと椅子を引きつつ立ち上がり、一言発する。


「……じゃあ、僕は自分の部屋に戻るね。数多あまたが帰って来るまで、好きにしてていいか――」

「――! ま、待ってください……!」


 しかし、言葉を全て言い切る前に、物理的に止められてしまう。――机に置いてあった一人かずとの手を引く真中まなかの手によって。


「うわっ!? な、なに? どうしたの?」

「あ、あの……ごめんなさい」


 真中まなか一人かずとの手をギュッと握りしめる。


 表情はうつむいていて見えないが、少々声音が震えていることから、恐らく涙を流しているというのが分かる。


(な、なにこれ? どういう状況?)


「な、なんのことを謝ってるのかよくわかんないけど、取り合えず落ち着いて」


 一人かずとは至近距離に迫る真中まなかには一切手を触れずに、もう片方の手を上に上げ、降参のポーズを取りつつ謝罪する。


「……私、今まで一人かずとお兄さんのこと、避けてましたから……」

「うっ。や、やっぱり?」


 一人かずとは中学の頃、妹と従妹の真中まなかにセクハラを叩いてしまったことがあった。――それ以降二人とは疎遠になってしまったのは言うまでもない。


 しかし、真中まなかは顔をすぐに上げ、瞳に涙を目一杯に溜め、少々頬を紅色に染めながら――


「……で、でもっ! 一人かずとお兄さんのこと……嫌いで避けてた訳じゃ……あっ! その、えっと、う、上手く言えないんですけどっ……」


 と言った後にまた顔を俯かせてしまう。


「……真中まなかちゃん」


 一人かずと真中まなかのその言葉に救われた。


 一人かずとは独り、今までずっと後悔していた。


 中学時代、あの時は――人から好かれても良いことはない。だったら嫌われるように努力しよう――と、間違った考えを起こしてしまった。


 その練習に妹と従妹の真中まなかを使ってしまったのだ。――それはそれは下世話なセクハラをかまし、二人をドン引かせてしまったのは言うまでもない。


(真中ちゃんは優しい子だな……。僕のこと苦手ではあるけど、心の底から嫌っていないのは分かった。なら、ようやくあの時の悪事について謝ることが出来る)


「……ごめん。あの時は少し事情があって、奇行に走っちゃってたんだ。僕は真中まなかちゃんに劣情を抱いたことなんて、本当は今まで一度たりとも無い。だから……少しずつでいいから、また前みたいに僕と仲良くしてくれると嬉しい」


(よしキターッ! ちょっと仲良くなれるってことは、他人以上友達未満の関係ってことだよね!? なら半分くらい友達ってことでいいよね!? やったー! これで友達ライフカウントがゼロから0.5になるっ!)


 一人かずとはまだ真中まなかの返事を聞いていないにも関わらず、早々と自身の友達ライフカウントをゼロから0.5に増やす作業を開始する。






「……それって、どういうことですか?」


 しかし、何やら雲行きが怪しい。


 真中まなかは先ほどまでにこやかな表情をしていたのに、いつの間にかそれは真剣みを帯びた表情へと移り変わっていた。


(……あぁ、話さないとダメか。でも、こんなこと言ったって、信じてくれるかなぁ……また幻滅されちゃうかも)


 どうやら真中まなか一人かずとが中学時代にセクハラを叩いた事情について詳しく知りたいのだろう。


 今考えると、あまりにも馬鹿馬鹿しい理由のため、信じてくれるかは怪しいが、そのままにしておくわけにもいかない。


 一人かずと真中まなかにあの時の悪事について、洗いざらい全て語ることにしたのだった――。


「……そうだね。中学の時の話だよね。信じて欲しいんだけど、中学の時の僕は、ある思い違いをしちゃってたんだ。それというのも――」

「そんなことどうでもいいです。何ですか? どういうことですか? 今まで私に一度たりとも劣情を抱いたことがないって」

「……はぇ? 僕の中学時代、どうでもいいの?」


 ――おかしい。


真中まなかの様子が変だ。――途端に表情と雰囲気が暗くなった。


「……一人かずとお兄さんは、私のこと、どうでもいいんですか? まさか……今まで見て見ぬ振りして、憎いと思って……」


 真中まなかは目からハイライトを無くし、一人かずとにそう詰め寄る。


「……ごめんなさい……許して……」


 そして、真中まなかは表情を歪め――悲痛な表情を持ってしてそうつらつらと述べた後、頭を下げる。


(……えっ? なにこれ……ちょっと怖い……)


「べ、別に真中まなかちゃんのこと、憎いと思ったことなんてないよ。自業自得だし。謝る必要なんてないさ。頭を上げてよ」


 一人かずとは頭を上げるように真中まなかに促す。


 すると、頭を上げた真中まなかの表情に少し明るみが戻る。


「よ、良かった……!」


 真中まなかは心底安堵したかのように「ほっ」と溜息を一つ吐く。


 そして、キッと表情を正した後――


「……こほん。じゃ、じゃあ……一人かずとお兄さんは、私のこと……どう思ってますか?」

「……っ!」


 真中まなかは少々震えながらも、真剣な面持ちで一人かずとのことをじっと見つめ、そう訪ねてくる。


(こ、これは……まさか!? そういうことか!? そうなんだな!? きっとそうに違いない!)


 そして、その質問に対して、一人かずとは――











「“友達”っ! そして“友達”として、僕と末長く仲良くして欲しいですぅっ!」






 我慢できずに一瞬で体を前に傾け、手を前にブンッと握手を求めて繰り出し、声高々に「友達として一生仲良くして欲しい」と宣言する。


(う、うわああぁぁ! い、言っちゃったああぁぁ! ど、ど、どうしようっ!?  反射的に、ついつい手まで前に出しちゃったけど、取ってくれるかなぁ……? どうかなぁ……?)


 一人かずとは顔を下げたままチラチラと真中まなかの表情を伺い、その時を待つ。


 そして――。










「……絶対いやです」


「……ぐはあぁっ!?」


 一人かずとの手は取られることもなく、瞬時に玉砕するのであった。


 一人かずとは崩れ落ち、前のめりに上半身を倒し、虚空に差し出していた手を机につく。


(くそう……くそう……! やってしまった……つい反応してしまった……! やっぱり、まだ早かったんだ……焦りは禁物だと……バイブルにも、書いてあったのに……!)


 後悔に押しつぶされそうになり、一人かずとは独り、心の中で大号泣する。











「……“友達”じゃ……いやです……」






 そんな言葉は、もはや友達ライフカウントがゼロになり、しかばねと化してしまった一人かずとの耳に、聞こえるはずもないのであった。












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