一話 ヒトリボッチと過去
小中高と暗すぎる人生を送って来たぼっち青年、保智 一人は友達が少ない。
――というか、一人も居ない。
〜小学校〜
小学校では妙にモテ期に入ってしまい、クラスの男子からは殺意の波動をくらいまくった。
故に、一人の近くには物好きしか集まらなかった。
女の子に気に入られているんだから、女友達を作れば済む話だろうって?
確かにそうしていれば、一人はハーレムを築き上げ、独り寂しい小学生時代を過ごすことがなかっただろう。
――しかし、タイトルでご察しの通り、そう話は上手く進まない。
あれは小学三年生くらいの頃だろうか。
あの時は一人が「学生の本分は勉強」だとか年甲斐もなく思っていた時期だ。
なので当時恋愛事に疎かった一人は、クラスのある女の子から頬を上気させながら「……体育館裏に来て」と呼び出しを受けたにも関わらず、「ごめん。塾あるから急いで帰らないと」と真顔で即言い放ち、唖然とする女の子を放っておいてさっさと帰宅したのだ。
――その日以降、その女子の対応は極寒の地の如く、冷たくなったのは言うまでもない。
その噂は勿論クラス中に広がってしまい、男子は勿論、女子も含めて誰も一人に対して親切にしようとはしなかった。
故に、一人の周りには、”友達”と呼べる存在など居なかった。
――――――――――――――
名前:保智 一人
性別:男
年齢:十二歳
友達:五人
――――――――――――――
「……大丈夫。友達とは互いが互いに認め合えば友達と名乗って良いものだと辞書にも書いてあったはず……だから、母さんと父さんと妹と従姉妹もカウントして大丈夫だよね。なんだ、意外と友達居たなぁこの時」
〜中学校〜
一人はぼっちではあるが愚者ではない。
彼も経験からある程度のことは学べるのだ。
彼には小学校時代に築き上げた経験がある。
そこから学んだことは――人に好かれても良いことは無い――ということだった。
故に、一人は行動を起こす。
――皆の嫌われ者となるような行動を。
中学初日から周りに居る者に対して罵詈雑言を吐き、第一印象を限りなく下げる。
第一印象が下がれば後は簡単。
女子にことごとくセクハラをする。
男子にことごとく喧嘩をふっかける。
そんな些細な悪事でも、嫌われ者――一人がやるだけで、大きな悪事へと変貌する。
しかし、この時の一人は知らなかった。
――嫌われ者は虚しいということを。
女子、男子問わずに目が合った瞬間、その瞳には一人に対する負の感情しか見て取れなかった。
皆、まるでゴミでも見るかのような眼差しで、一人のことを見るのであった。
その視線は痛いほど一人の心に深く突き刺さった。
しかし、それでも一人は「事を起こしてしまったからには、もう後戻りできない……」と、張らなくてもいい意地を張り、嫌われ者を演じ続けた。
その結果、枕を涙で濡らす中学生時代を過ごすことになってしまったのは、言うまでもない――。
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名前:保智 一人
性別:男
年齢:十五歳
友達:三人
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「……大丈夫。嫌われ者を演じる勢い余って、妹と従妹にもセクハラ紛いの事して嫌われちゃったけど、まだ父さんと母さんが居る。友達はゼロじゃない。まだ戦える」
〜高校〜
一人はぼっちではあるが愚者では(以下略。
中学生時代に学んだこと。
それは――好かれても嫌われてもダメならいっそのこと相手にされなければ良い――ということだ。
つまり存在を認知されない存在――無となれば良い。
一人は高校時代、存在感を何一つ出すことなく過ごした。
以下、一人の高校時代のステータスを表示する。
テストの点数――平均点付近。
体育のマラソンの順位――中央付近。
容姿――前髪を伸ばし、顔を認識されないようにしていた。
部活――誰よりも早く帰宅準備を済ませる帰宅部エース。
修学旅行――仮病を発動して事なきを得る。
委員会――先生にすら認識されず、無職。
昼食――ノイズキャンセリングイヤホンを両耳にしっかりと挿し、周りからの雑音を全てシャットアウトした後、孤独に弁当を楽しむ。
高校は中学に近い所を選んだということもあり、中学時代の一人を知る者も居る。
それらの者は、率先して一人に話しかけることはなかった。
――ヤバイ奴に進んで話しかけて来る猛者は、少なくともあの学校には居なかった。
初対面の相手はどうかと言うと、当時はステータス通りで容姿も暗く、何か話しかけられてもイエスかノーか肯定文――「うん」「いや」「そうだね」しか返していなかった。
なので一人の事を知らない者も、率先して一人に話しかけることはなかった。
――会話のキャッチボールすらできないのだから当然だろう。
故に、率先して一人に話しかけてこようとする者は、誰一人として居なかった。
そしてこの高校時代に、最悪のあだ名を付けられることになる。
皆からは恐れられながら(?)も、こう呼ばれていたのだ。
『ヒトリボッチの保智 一人』と。
名前すら間違えて吹聴するのはどうなのかと少々思うことはあったが、一人は別にそれでもいいかと思っていた。
むしろ高校三年間の間はずっとこう思っていた。
――独りは気楽で良い――と。
しかし、この時の一人は知らなかった。
――独りは悲しいと言うことを。
卒業式が終わった時、周りが卒業を惜しみ、涙を流す中、一人は独り――何も流せないでいた。
そりゃ高校時代何も人脈がなく、別れを惜しむことも無ければ思い出もないのだから、出す涙もないだろう。
そう思って納得していたのだが、ふと家に帰り、布団に入って目を瞑った瞬間――ぽろりと涙が零れ落ちたのだ。
「……あれ? おかしいな……涙を流すほど、別れが惜しい人も居ないし、楽しい思い出もないのに……」
そしてしばらく考えた後、その涙の理由を思い知る。
――だからこそ、悲しいのだと。
自分には青春の輝かしい思い出が、今まで何一つとして、一切ない。
友達と楽しく遊んだり、バカをやったりしたことなど、ここ十年間の中で一度足りともなかった。
――家族以外の誰かと、時を共に過ごした思い出がなかった。
そのことにようやく気づいた時、一人の心はまるで小さな子供のように泣き叫び、初めて一人は心の底からこう思った。
――独りは寂しい。友達が欲しい――と。
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名前:保智 一人
性別:男
年齢:十八歳
友達:一人
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「ははは……ついに、一になっちゃった」
今まで独り、出来た友達の数を各時代毎に数えていた一人は、残りの友達を見て絶望する。
救いであった父さんと母さんも、さすがにこれから大学に入る息子に対して「私(俺)達も友達よ(だ)」とは言ってくれないだろう。
「……ライフ一で巻き返すなんて……アニメじゃあるまいし、無理だよね……」
一人はそう言って、残りの友達を一からゼロにする。
「……ははっ、これでゼロだ。あいつも、もう僕なんかのこと、さすがに友達だとは思ってないよね。一人居たって虚しいだけだし、消しておこう」
しかし、一人は逆に清々しく感じていた。
「……ゼロまで落ちたってことは、もうこれ以上下がるってことは無いわけだ」
〜高校卒業後〜
一人はぼっち(以下略。
彼は小中高の経験の末、思ったことがある。
それは――友達が欲しい――ということだ。
つまり、大学では人と上手く接し、人気者にならなくてはならない。
――俗に言う“大学デビュー”を果たさねばならなくなったのだ。
「……やってやる。やってやるぞ……! 友達をたくさん作って……人生最後の青春を、謳歌するんだ!」
一人は独り、右拳を天高く突き上げ――聞く人は誰一人足りとも居ないのだが――そう宣誓するのであった。