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第七章 肝臓がんの治療 七の20 東京でグルメ

東京でグルメ

 かれはT大学病院の診察が終わると、東京の巣鴨にいき、予約しておいたホテルに泊まった。明後日にT医科大学病院でO教授による腹部大動脈瘤の治療後の診察が入っている。筑波の結果がよかったので、気分ははずんでいる。

 かれは東京で食べた話を喜んでするが、その話には必ず枕詞がある。それが「内緒ですが」である。我々に話しているのだから、内緒もへったくれもないはずであるが、どうもおくさんに内緒らしい。おくさんに知れたらやばいと思っているのだ。別に怒られることもないと思うのだが。まあ、学校帰りに買い食いをする子供みたいな心境なのだろう。うん、ぴったりだ。

 「内緒ですが」の枕詞の後で、「グルメ三昧の3日間でした」と嬉しそうに報告する。食べたものを聞くと、その値段まで克明に覚えている。


 一日目

  (昼)ビーフステーキ240g定食 :1500円

  (夜)かきフライ定食:1180円

 二日目

  (朝)モーニング:280円

  (昼)カツサンド:400円

  (夜)鰯(+ボラ)ヅケ丼:800円

 三日目

  (朝)塩大福+おいなりさん:210円

  (昼)うな重特上:1500円


 この一覧表を見ると、初日T大学病院の診療結果がどれほどうれしかったかよくわかるというものだ。元気な人間でも、240gのステーキをそうそう食べたりはしないだろう。

 最後も、気張ってうな重の特上を食べている。一連の診療が終わっての開放感だろうか、それとも、地元に帰ったらしばらく好きなものが食べられないからだろうか。どちらも当たっているように思える。いずれにしても、料理の値段を見れば高級店ではなく、大衆的なところで食べているのがよくわかる。かれは典型的な庶民派なのである。

「何しろ食べることが病気に対する私の唯一の武器ですから」とT医科大学病院のO教授に言うと、教授も「その通りですよ」と答えてくれた。かれはこれをO教授からの激励だと信じ、一層食べ物に執着するようになっていった。

(腎臓の負担のこと、考えなくていいの)

 2泊3日の東京グルメ旅行ではなく、定期検診の旅は終わった。帰りの新幹線の中で、のどがぜーぜーするようになったが、初めは車中が少し埃っぽいせいかな、程度に思った。そのうちくしゃみも出るようになり、風邪をひいていることがわかった。少し東京ではしゃぎすぎたのかもしれない。

 (風邪をひいて体力を落とすわけにはいかないから、どんどん食べなくっちゃ)


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