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第七章 肝臓がんの治療 七の12 幽霊?

幽霊?

 筑波での土・日曜日は治療することもなく完全にフリーなので、8月20・21日、東京で開催されていた研究会の集会に筑波から一人でひょこひょこ出かけて行った。

 かれががんにかかり長期入院していたことは、全国の研究者仲間にも知れ渡っていた。風評では、まだ死んではいなかったが、死にかけているくらいにはなっているようだった。会うなり、研究者仲間はびっくりし、目線は下におり、かれの足を確かめた。(幽霊じゃないっちゅうの)

 よく見ると顔色も良く、元気なので二度驚いているようだった。かれらと話をすると、Kが1年半前にがんにかかってからこれまでの間に、学会の仲間がかれと同じ肺がんになり、脳にまで転移して亡くなっていることがわかった。かわいそうにと思う反面、生き残っている自分が少しうれしかった。

 「他人の不幸は蜜の味」、という諺がある。この諺にはかなりの毒が含まれている。かれの場合、蜜の味のような甘い味がするわけではなく、ほろ苦い味がした。自分が闘病している間に、遅れて仲間ががんになり、自分を追い越して亡くなったことに、若干の優越感を抱いたのも、偽らざる気持ちである。他人の不幸に対して、こうした感情を抱くのはさもしい、確かにそうである。しかし、自然に湧いてくる。亡くなった仲間が、自分より歳をとっていたから、罪悪感が薄いのかもしれない。妻や子供など自分の身内だったら、そうした感情は起こらないだろう。人間は、なんて利己的なんだろう。いや人間と一般化してはいけない。一般化することによって罪の意識を逃れるよりも、自身の利己性を深く認識するべきなのだ。それが先に逝った仲間への供養となるのだ。

 それでも自分は長生きするぞ、とかれは誓った。


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