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第七章 肝臓がんの治療 七の4 セカンドオピニオンの結果

セカンドオピニオンの結果

 6月末になって、T医科大学病院の肝臓外科に行き、肝臓がんを手術できるかどうかを診てもらった。医者は検査結果や問診が終わって、次のように説明してくれた。

 背骨に近い位置にできた肝臓がんの手術自体が大変な手術になるので、手術することで体力を失って、肺がんの再発を早める可能性がある。肺がんの手術後の5年生存率は32%だが、もし肝臓がんの手術によって肺がんが再発すると、1年生存率が42%となり、死期が早まってしまうことになるかもしれない。こうしたことを勘案すると、肝臓がんの手術を行うことがベストな選択と言い切ることは難しい。また、Y大学病院の先生が指摘した「手術中に冠動脈のクランプを繰り返したら、血管が破裂する危険性があるので、手術ができない」ということも、外科医としては理解できないことではなく、手術にあたっては十分に配慮すべきことである、と説明してくれた。

 結論として、来週、T医科大学病院の方で肝臓の詳細な造影CTを行って、それも参考にして再度ベストな方法を検討させてください、ということになった。ベストな方法とは、Kの現在の体の状態と肺がんの再発や生存率を念頭に、取りうるべき最善の方法であって、一般的な肝臓がんに対するベストな方法ではないと、医者から念を押された。

 医者の口ぶりから、T医科大学病院で肝臓がんの外科手術をしてくれる可能性は極めて低いと感じた。そう思うと、外科手術への呪縛から解放されるような身軽さを感じた。考えてみれば、肺がんの手術の後遺症で激しい胸の痛みにいまでも苦しめられている。この痛みがさらに腹のあたりにまで広がることを想像すると、手術を回避した方がずっと楽なように思えてきた。また医者が言うように、肝臓がんの手術によって体力がなくなり、肺がんが再発するリスクは十分にある。この肝臓がんも、肺がんの大手術の結果、体力がなくなってしまったので、起こってしまったのだろう。Kはそう考え、肝臓がんの外科手術をすっぱりとあきらめた。手術がないからと言って、肝臓がんの治療法がないわけではない。あの陽子線治療があるではないか。T大学病院で腹部大動脈瘤が治ったら、すぐにでもしてくれる手はずになっていた。このように自分にはまだ希望があるのだ。

 T医科大学病院は手術ができないと言い、Kの言う陽子線治療に同意してくれた。同じようにY大学病院の担当医も賛成してくれた。こうして何の迷いもなく、T大学病院で陽子線治療を受けることになった。しかも治療日は、かれが勝手に決め込んでいた大学が夏休みになる8月だった。


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