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第六章 腹部大動脈瘤の治療 六の10 ファイター・K

ファイター・K

 数日して、O教授からY大学の主治医と教授に宛てた手紙、正式には「ご紹介患者報告書」のコピーをKが持ってきて、読ませてくれた。A4用紙3枚ぎっしりにかれの病状や手術の方法が書かれてあった。わたしはその字の分量に圧倒された。毎日多くの患者を診て、手術をし、そしてスタッフと議論をする。大学病院の業務も多いだろう。O教授の日常は超多忙を極めていることは容易に推察できた。それなのに一人の患者のためにこれだけの分量の手紙を書くというのは、常人が成せる技ではない。少なくとも凡人のわたしにはできない。わたしはKににこっと微笑んで「超一流の人間ってすごいんだね」とつぶやいた。超一流の人間を身近に感じることは、嬉しいことであった。

 O教授の手紙の中には、「様々な病気に出会いながらそれに立ち向かっているK先生のためになんとしても力になってあげたい。自分ならばその手術ができる」という内容が、理路整然と力強く書かれてあった。

手紙の中で、病気に立ち向かうKのことを「ファイター」と呼んでいた。わたしはこれを見て今さらながら、Kは「ファイター」なんだと思った。「ファイター」、かれを言い表す力強い響きを持った言葉だと思った。

 「ファイター・K」、勇ましい入場曲をバックに颯爽とガウンを翻しながらリングに向かって疾駆する、プロレスのチャンピオンのリングネームのようだ。

 ファイター・Kは過去を振り返らない。過去を消すことはできないのだから、過去を振り返ってくよくよすることはない。タバコを吸って肺がんになってしまったが、タバコを吸ったことに後悔はないし、少しの反省もない(少しは反省しろよ、と誰しもが思っている)。ただ、今置かれた状態をどのように改善していくかだけが問題なのだ。リングで待っている。当面の悪玉の敵を倒すことだけが、今の自分ができることなのだ。そうした意味で、かれはファイターなのだ。


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