第六章 腹部大動脈瘤の治療 六の6 二転三転、ついに大動脈瘤の治療ができる
二転三転、ついに大動脈瘤の治療ができる
Y大学の外科医の説明では、腹部大動脈瘤は単に大きいだけでなく、上方に進展し膨れ上がり、腎臓や肝臓の分岐部の血管まで巻き込んで、胸腹部大動脈瘤になっているので、手に負えないという。写真で見ると、団子3兄弟ならぬ団子2兄弟のように、下部に直径7㎝のものが、それから2㎝離れた上部にそれよりも小さいがはっきりとわかる別の大動脈瘤ができていた。
そこで全国どこの病院でも行くので、どこか治療できるところはないか紹介して欲しい、と医者に詰め寄ると、開腹して瘤になった大動脈を人工血管に取り替える手術において、全国でも有名な先生が、大阪の病院から現在東京の大学病院に移ったので、そこを紹介するとのことだった。これで大きく前進できた。
一週間たって、約束していた紹介状をもらいに行くと、一週間前の話は反故にされ、急転直下、まったく違う病院が紹介された。担当医がこの一週間の間に教授に相談すると、教授がT大学付属病院のO教授にコンタクトをとり、O教授が治療してくれることを快諾してくれたというのだ。
O教授が引き受けた治療法はステントグラフト術と言って、開腹せずに、大腿部と腕の血管の中にカテーテルとよばれる細いチューブを通し、カテーテルの中にステントと呼ばれる細い管を入れ、それを大動脈瘤の中に設置して血流を元の血管の太さに戻すというものである。説明を聞くと、開腹手術よりもずっと手軽なのである。
(それにしても、気持ちはすっかり開腹手術に落ち着いていたのに、この急転直下の変更は何なの。いったいこの一週間のうちに何があったの。誰も治療をしてくれない、という絶望感は去ったけれど、自分の意志とは無関係なところで振り回されているようだ。あまり気持ちのいいことではないよ)